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角谷敏夫「刑務所の中の中学校」

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生徒は受刑者。日本で唯一、世界でも例のない刑務所の中にある中学校。
昭和30年に誕生した刑務所の中の公立中学校、松本市旭町中学校桐分校。そこには義務教育を修了していない受刑者たちが全国からやってくる。35年の長きにわたり桐分校の教壇に立ち続けた教師が、「学ぶことで人は変われる」と学ぶこと、生きることの意味を生徒たちに問いかける。
(しなのき書房 内容紹介より)

いやー、長野県って素晴しい県だなあ!…というのが、読後まず一番の感想。
刑務所内の公立中学校「松本市旭町中学校桐分校」は、ただ単にお国が据え置いた刑務所施設なだけじゃなくて、県と市と地域住人の有形無形のサポートがあってこそ成し得ているんじゃないか…と思われる記述がそこかしこに見られます。
さすが教育県と呼ばれる長野。“学ぶ”ことに対してのしっかりした基盤があるんでしょうね。言いすぎ?いや、言いすぎじゃない。
 

大体ね、今の世の平成で。
義務教育を未修了の人がいるってこと、想像できます?
 

「松本市旭町中学校桐分校」の設立が検討され始めたのは昭和28年。戦後の混乱期で、学習の機会が得られなかった人がいるというのは理解できる。
でも著者の角谷敏夫がご退職されたのは平成20年よ?北京オリンピックの年よ?
昔と比べて生徒数はヒトケタ、年齢構成の平均も上がっているとはいえ、現代の日本で識字ができない人がいる事実にまずびっくりではあります。
(注:本文中のデータによれば、平成19年度の入学生の平均年齢は41.8歳。中学校に通う年齢の受刑者ではありません)

(1)義務教育未修了であること
(2)行刑成績が良好で、真摯に学習意欲があること
(3)心身ともに健全であり、体育実技に耐えうる程度の体力があること
(4)翌年の3月末まで出所見込みのないこと
(5)無期刑受刑者については、その刑期が10年を経過していること

この(5)無期刑受刑者の刑期が10年を経過…ってのだけが意味わからないんですけど、とりあえず上記の応募資格がある入学希望者を全国の刑務所から募り、中学3年生として1年間の学校生活を送ります。英国数理社だけじゃなくて、もちろん体育も美術も音楽もやるよ。遠足にも行くよ。修学旅行もやるよ。
しかしながら、生徒は『This is a Pen』どころか、下手すりゃ日本語で『これはペンです』すら書けない人だっている。彼等が中学三年相当の履修科目をこなすには、一年間マジで本当に勉強漬けの毎日を送らなくてはなりません。
 

高いモチベーションを持って入学した生徒達でも辛く厳しく、挫折しそうになるのを時に叱咤し、励まし、なぐさめて机に向かわせるのが、この本の著者である角谷先生。
松本市旭町中学校桐分校の教壇に立った35年間のうち、中退した生徒がたったの5名しか居ないのよすごくない?!どっかのDQN高校の先生に、角谷先生の爪の垢でも煎じて飲ませたくない?!
生徒は少数(角谷先生の最終年度の生徒は4名)でもあるし、もともと学習意欲と後が無い崖っぷちの覚悟を持った、ある意味つぶぞろいの人選ではあるものの、角谷先生の一年間がっちりサポートがなかったら成し得ない技ではあると思うのですよ。
 

いくらハコがあってシステムがあっても、最終的には人、だからねえ。

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「刑務所の中の中学校」の中で、ひとつ残念だと思えるところといえば、生徒達の来し方(犯罪歴)と行く末(出所後の生活)が殆ど描かれていないという点でしょうか。
とはいえ、それは仕方がない。あくまでも角谷先生は、刑務官とはいえ学校の先生なので、卒業後のそれからを知る立場にはありませんので。生徒や家族から手紙が届いたり、出所後に面会に来たりと生徒側からアクションがあれば状況は窺い知れるものの、先生側からはあえて消息を調べないようにしているような気配も感じられます。

多分、角谷先生は、信じているのだと思います。
自分の生徒達の全員が、罪を購って出所した後、これまでとは違う人生に踏み出すことができている筈だと。
これまでとは違う、まっとうで、幸せな人生を送ることができる筈だと。

彼らの授業の姿は真剣そのものでした。心から彼らは学びたがっていました。いろいろなことを知りたがっていました。そして、探していました。求めていました。これまでの人生の軌道を修正する道を、更生の道を、自分の生きる道を、真実の道を。

いや、世の中には自分の知らない世界というものが、沢山あるのだなあと思いまして。
それにつけても長野県って教育県だなあと。蕎麦とリンゴと野沢菜と、長野の名産に“学び”も追加して良いと思うよ。

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