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中山七里「闘う君の唄を」

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新任幼稚園教諭として埼玉県秩父郡神室町の「神室幼稚園」に赴任した喜多嶋凛は、モンスターペアレントたちの要求を果敢に退け、自らの理想とする教育のあり方の実践に務める。当初は、抵抗されるも、徐々にその熱意が伝わり、周囲の信頼も得られていくのだが…。健気なニューヒロイン、誕生!
(「BOOK」データベースより)

一. 闘いの出場通知を抱きしめて
二. こぶしの中 爪が突き刺さる
三. 勝つか負けるか それはわからない
四. 私の敵は私です
五. 冷たい水の中をふるえながらのぼってゆけ

小説のタイトル、および上記引用の各章のタイトルからご想像のとおり、「闘う君の唄を」は中島みゆきの「ファイト!」から取られています。
ふと気になったんですけど、歌詞をこうやって引用する場合でも、当然のことながら著作権料って支払うんですよね?
もしこの本が大ベストセラーになったとしたら、印税に比例して著作権料も増額されたりするのかしら。タイトルもベストセラーの一因と看做すならば、パブリシテシィ権が発生するような気がしないでもないんですが。
それとも使用許諾の一回こっきりなのかしら。教えてえらいヒト~。
 

さて。
どの作品でも毎回、ちゃぶ台をひっくり返すようなドンデン返しがお約束のドンデン中山さん、この作品でも例外ではありません。
っていうかね、これまで私が読んだ中山作品に限って言うと、最初はかなりTHE・青春小説の色合いが目立つもので、ついつい忘れちゃうんですよ。これがドンデン中山ミステリだって。
 

「闘う君の唄を」も然り。
直情熱血型のヒロインが、幼稚園の新米教諭として日々、怪獣(園児)やら猛獣(モンペママ)やらに囲まれ奮闘努力。
最初はかみ合わなかった歯車も、ヒロインの努力と周囲の助力で、少しずつ上手くいくようになってきて、ヒロイン自身も教諭として成長…という、若さ溢るる成長譚と思いきや。
 

過去に幼稚園で起こったとある事件が、今になって蒸し返されて。
その事件に、ヒロインである喜多嶋凜が関係している。
 

ドンデン中山さん、今回はちょっと前倒しで小説中盤に最初のドンデンです。
いや、そのドンデン、ありかぁ~っ?!

小説の前半と後半で、かなり印象の変わる「闘う君の唄を」
タイトルの意味が『ああ、そういうことなのね~』と、やっとこさ分かってきます。
 

どういう意味が、ってのはここでは差し控えますが、ヒロイン凜ちゃんの来し方と幼稚園との関連性が、読者側としてはイマイチ納得が…いかない…どうして凜ちゃん?!どうしてそういう選択になるのっ?!
喩えて言うならば、痛む虫歯を歯で押すような行為というか。なんでわざわざ、そこにそうするか。母親もさあ、全力で止めろよ。

「あなたが良かれと思ったことでも、園の関係者の目には隠蔽にしか映らないでしょうね。あの人たちはそれほどお人よしじゃなくってよ」
それも分かっている。彼らにしてみれば、自分は偽りの履歴書を手に窓口へ現れた前科者と同じだ。告白しなかったこと自体が罪であり、そして裏切りなのだ。

さて、ミステリの真相から話をそらすように、小説前半の『熱血先生奮闘記』のエピソードをご紹介。
幼稚園のお遊戯会で、白雪姫をアレンジしたオリジナル脚本の劇を彼女が作るくだりがあるのですけれどね。
 

え、園児達が才能ありずぎる。
 

台詞はほぼ子供達のアイディアを採用、大道具小道具も子供達が作成…というのは、まあ凜ちゃんのお手柄としても良かろう。子供が自ら作り上げたような達成感を味わわせつつ、影でまとめあげるのが先生の手腕だ。
だがしかし、お遊戯会当日の園児達、長い台詞を忘れもせず噛みもせず、オチャラケて場内は爆笑の渦、挟み込まれた社会風刺にピリリ、そして感動のカタルシス。

『鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰?』
『それはあなたですよ、白雪姫』
『でも変ね、わたし、このお話の主人公のはずなのに、あんまり活躍してないのね』
『それはそうですよ。主人公はあなただけではありませんから』
『えっ』
『みんな、自分の中では自分が主人公なんですからね』

幼稚園児、しかも年少組の三歳児がこんなん出来っかーーーーっ!!!
 

新米センセイの、まるで月影先生ばりの指導力。それが最大の、ミステリ。

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