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東野圭吾「白銀ジャック」

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「我々は、いつ、どこからでも爆破できる」。年の瀬のスキー場に脅迫状が届いた。警察に通報できない状況を嘲笑うかのように繰り返される、山中でのトリッキーな身代金奪取。雪上を乗っ取った犯人の動機は金目当てか、それとも復讐か。すべての鍵は、一年前に血に染まった禁断のゲレンデにあり。今、犯人との命を賭けたレースが始まる。圧倒的な疾走感で読者を翻弄する、痛快サスペンス。
(「BOOK」データベースより)

本ってヤツぁ、こちらが探している時には決して姿を見せないもので。
 

過日このブログにて「疾風ロンド」を取り上げた際、シリーズ1作目の「白銀ジャック」が見つからないと書きました。
そう広くない家のそう大きくない私の本棚が、求める本を探すときだけはダンジョンに変貌します。全く、本って野郎はいけすかないヤツですよね。
 

それが、探していた事すら忘れて早、半年余。
つい先日、娘が『この本借りるよ』と出してきた本が「白銀ジャック」
一体どこにあったのかと娘に聞けば、母の本棚にあったと。そう大きくない本棚の、すぐ見える位置にあったと。
私はこの半年間、何を探していたというんだ。メガネメガネの横山やすしか。
 

かように、何かを探すというものは、難儀なものでございます。
いわんや、広大なスキー場に埋められた爆弾を捜すにおいてをや。

瀬利千晶はナイターのライトによって明るく照らされたゲレンデに目を向け、一歩二歩と近付いた。そこでは昼間の滑走だけでは満足しきれなかった大勢のスキーヤーやスノーボーダーたちが、楽しそうに腕を競っている。
「あの人たちの下に爆弾が埋まってるかもしれないんだね」

二作目の「疾風ロンド」と同様、スキー場には危険がいっぱい。
こちらではゲレンデのどこかに爆弾が埋められ、犯人からの脅迫状がスキー場経営者に届きました。
三千万円を支払わないと、遠隔操作で爆弾を爆発させるぞ、と。つまりは、お客さんを人質にとった…えーと、これは、誘拐???
 

しかしながら。
三千万円といっちゃ大金ですが、スキー場を経営する程度の大手企業にとっては、屋台骨がゆらぐほどの金銭ではありません。
下手に警察に通報してトラブルになるよりも、さっさと金で解決しちゃった方が面倒がないでしょう。
という訳で、身代金三千万はさくっと用意され、さくっとご指定の場所に置かれ、さくっと犯人が回収。
 

万事解決!無事解決!あーよかった!
 

…で、終わるわけがないのは、皆様予想がつくでしょう?

そりゃまあとりあえずミステリなんで、単なる爆弾探しや脅迫犯とのやりとりに終始するだけではなく、それ以外にも色々と仕掛けはあります。
三千万円を手にしても、なおも脅迫を続ける犯人の本当の狙いは?とか、スノーボード事故で死んだ女性の遺族が再訪した目的とは?とか、まあ色々。
実は!のどんでん返しもあり、ミステリとして不満ということは、ないです。正直言えば、ラストの解決方法にびっくりだけど。いや、あの、会長さんよ。そんなリスキーな契約、やめといたほうがいいって。
 

ですが「白銀ジャック」はやはり、スキー滑走シーンの疾走感を満喫して、ハラハラドキドキのエンタメが本流です。
「疾風ロンド」と同様スピードに乗って、ページを繰る手もスピーディに一気読みするのが、正しい楽しみ方でございます。
 

話変わって、この「白銀ジャック」は、単行本を文庫化した書籍ではなく、初出が文庫の『いきなり文庫』というものです。
この本を皮切りに、東野圭吾だけでなく色々な本が『いきなり文庫』で出版され、巷のいきなり文庫ブームの火付け役だとかなんだとか。そんなブームがあるのかしらというのも定かではありませんが。
 

イチ消費者としては、好きな作家の新作が安価にすぐ読めるのは誠にありがたい限り。価格面だけじゃなくてもね、単行本は本棚の場所とるしね。持ち運ぶには重いしね。
とはいえ、作家にとっては文庫本のみでの出版は、ハードカバーよりも安い印税(多分)で、収入面ではデメリットだと思われます(多分)
イチ消費者としてはありがたい限りなんですけど、『いきなり文庫』をするに至った経緯というのを想像するに、読者サービスの為だけとは言い切れない出版業界の懊悩というのを感じてしまうのは私だけでしょうか。
自炊・古本屋・図書館を良しとしない東野圭吾の発言を聞くに、比較的安価な文庫での出版はせめてもの対策なのではないか、とも想像する次第です。
うーむ、色々、悩むねえ。イチ消費者としては、ありがたい限りではあるんだけどねえ。

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