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五十嵐貴久「リハーサル」

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花山病院の副院長・大矢は、簡単なオペでのミスを新任の看護婦・リカに指摘され、“隠蔽”してしまう。それ以来、リカの異様な付き纏いに悩まされる。一方、病院内では婦長の転落を始め陰惨な事故・事件が続発。そして、大矢の美しき婚約者・真由美が消えた。誰もいないはずの新築の病棟で、彼が対面したのは…。シリーズ史上、最も酸鼻な幕切れ。
(「BOOK」データベースより)

2017年に私、ほんのむしでこんなことを書きました。

ここまで来たならば、「リカ」で噂の看護婦時代の話も読んでみたいものですわ。
リカがオナゴの本能丸出しで恋愛至上主義に走った、あそこらへんの経緯が知りたいなあ~。
「リバース」で生まれた怪物ミニラが、ゴジラに成長するまでの成長譚。みっちりねっちり、読者に生理的嫌悪感を与える描写が読みたいの。
よろしくお願いしますね五十嵐さん。鼻栓用意して、待ってます。
(ほんのむし|五十嵐貴久「リバース」)

時は流れて2019年。ついに我が願いは叶えられたり!
やはり五十嵐貴久さんの「アンサーゲーム」を採りあげた際に得た情報は。

「リカ」「リターン」「リバース」に続く、ドキドキリカちゃんシリーズの第4作目が出ていると!

しかもその内容は、私が読みたいと願っていたリカちゃん看護婦さん(看護師に非ず)時代のお話であると!

んーーー!五十嵐さん、好きーーーーーーーーーーーーーー!!!

そりゃもう買いますよ買いましたよアマゾンポチっとな。

だってそりゃ気になるでしょ?セレブ家庭の聡明な美少女が、悪魔の毒々モンスターに変化するまでの間に、リカはいったい何処にいたのか。何処に居て、何をしていたのか。

「何をしてる?今どこだ?」
「気になる?ホント、男の人ってそういうところあるよね。束縛したい、みたいな?ううん、いいの。リカ、嬉しい。そういうふうに思ってくれるの昌史さんだけだからリカはねリカはそういうロマンチックな昌史さんのこと——」
話を聞け、と私は空いていた右手で額の汗を拭った。
「正直に答えろ。藤崎婦長代理が自殺したが、君が関与しているんだな?」
君なんて呼ばないで、と怒ったような声がした。
「リカって呼んでって、いつも言ってるでしょ?そりゃあ、恥ずかしいかもしれないけど—(中略)—女の子はね、誰だって特別扱いしてほしい。名前で呼ばれたら、やっぱり嬉しい。もちろん照れ臭いけど、そんなのすぐ慣れるし……」
質問に答えろ、と私は怒鳴った。

相変わらずゴーイングマイウェイゴートゥーヘルなリカちゃんですが、しかしながらこの「リハーサル」題名のとおり“リハーサル”です。エピソードとしてはちょっと小規模で、物足りないっつっちゃ物足りない(とはいえ、これを小規模と言ってしまうのは私の中のリカが大きすぎるせいだと自覚しています)

リカちゃんも確かに看護婦さん(看護師に非ず)ですが、どうやら私の求めていた時代の病院勤めではないようです(リカちゃん転職してたんですね)

イマイチ?いや、幕間と言ってもイマイチじゃありませんよ。リカちゃんモンスター具合もなかなかの切れっぷりだし、『シリーズ史上最も酸鼻な幕切れ』も、幻冬舎のフカシではない。グロ系が苦手な方にはお辛いラストなんじゃないかと…。

でもやっぱり、この本は“リハーサル”なんです。
緞帳が上がる前に、チラチラ漏れ聞こえてくる音合わせを聞けば。

今回のエピソードよりも、過去のエピソードの方に目が向いてしまうんです。

リカが卒業した青美看護学校が全焼したとか。

過去に“升本リカ”が勤めていた病院では、看護婦がエレベーターにはさまれて身体が真っ二つに切断されたとか。

千葉のクリニックとか、日本医師会の元副会長とか、これから始まるコンサートの期待がいやがおうにも高まります。

そして、緞帳はもうすぐ上がる。

幻冬舎文庫「リハーサル」のあとがき『リカ・クロニクル/リブート(再起動)への誘い』で著者が言うことには。

「リカ」シリーズは今後とも続くと!リカの現在・過去・近未来の物語が続々と、これからランダムに発表されると!

んーーー!五十嵐さん、好きーーーーーーーーーーーーーー!!!

そして、読者の方々とリカの意志が、私に『リバース』を「書かせ」ました。
その過程で、リカについてまだ語られていない物語がいくつもあり、それをすべて書かなければ、リカから逃れることができないとわかりました。
それは絶望であり、諦念であり、重い枷となって、今、私の目の前にあります。

多分、五十嵐貴久の重い枷のひとつは、私。
そして、あなたも枷のひとつになってる。

僭越ながら読者を代表して私がお詫び申し上げましょう。ゴメンね五十嵐さん。
でも、すべて書き上げるまで枷は外さないわよ。

だってまだ足りない、もっともっと読みたい。リカのあんなこともこんなことも、何もかも読みたい。私たちの欲望は果てしない。リカみたいに。

いま五十嵐貴久の目の前にある絶望と諦念と重い枷について同情もするし責任も感じるけれど、でも許しませんよ、何もかもすべて書くまでは。だって仕方がない、蓋を開けちゃったんだもの。

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