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堂場瞬一「蒼い猟犬-1300万人の人質」

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葛飾南署刑事課にいた江上亨は、夢見た警視庁捜査一課の新部署に異動となった。“特別捜査第三係”―そこは実務研修で若い刑事を育てるために設立され、実験的に経験が足りない者が集められていた。そのため他部署のベテラン刑事からは、蔑むように“ひよこ”と呼ばれている。江上たちの初任務は、複数の小学校で同時発生した急性食中毒事件。毒物を混入された給食を食べた200人近い児童が腹痛と嘔吐を訴えたのだ。懸命の捜査を開始した警察を嘲笑うかのように、繰り返される犯行、そしてTVの生放送番組にかかってきた犯人からの電話。都民の生命を人質に都庁に5億円を要求した姿なき脅迫犯を、“ひよこ”たちは追い詰めることができるのか…。警察小説の旗手が“刑事の苦悩と成長”を爽やかに描く意欲作。
(「BOOK」データベースより)

堂場瞬一の警察小説で一番困るのが、タイトルの付け方がみな似たりよったりで判りづらいこと。
特にシリーズ物ですね!鳴沢了シリーズなんて10冊全てのタイトルが二文字熟語!どれを読んだのか読んでないのか、どのシリーズなのかも分からない。くくぅ~。
ほんと堂場さん、頼みますよ。もちっとタイトル付けにも気を配ってくださいよ。
 

その伝、本作はありがたい。タイトルにある副題でちゃんと区別がつけられます。
東京都内の公立小学校の給食に毒物を混入した犯人が、東京都知事に要求した金銭は5億円。
5億を支払わなければ、次は無差別に子供の命を奪うと。

「ということは、子どもが人質、ですか」江上はぽそりとつぶやいた。
「それどころじゃない。子どもの命を盾にとって、その家族も不安に陥れている。人質は都民全部、千三百万人だよ」

はい、ここで東京都の報道発表資料~。国勢調査による平成27年10月1日現在の東京都人口は13,742,906人だそうです。およそ1300万人という、警視庁三神巡査部長の数値把握は正しい。おまわりさんって凄いんですね!
ちなみに昨年度の東京都公立小学校の児童数は565,145人。都民の中には小学校に通う子供が居ない世帯ももちろんあるし、家族を含めるにしたって東京都民の全員が危機感にかられているとは思えませんけどね。都民全員が人質っつーのはちょっと盛り過ぎじゃないかしら。
 

でも、無差別テロを計画するヤカラがどこかにいると知ったら、そりゃ漠然とした不安にかられるのも間違いはなさそうだし…でもそれは、東京都以外の人だって、対岸の火事とばかりのんびり構えていられませんよね。
“漠然とした不安”まで勘定に入れたら、人質は日本国民全部……てことは、1億2672万人の人質か。わぁーお!

本作の主人公は、警視庁捜査一課の新設部署に選抜されたピッカピカの若手刑事、江上亨くん。
高校サッカー部の集合写真をデスクに飾っちゃう、直情型スポーツマンシップの脳筋男です。しかし思い出の写真をデスクに飾る風習ってアメリカーンですね。日本もハイカラになったもんやのう。
 

江上くんが新たに配属した部署は、若者の犯罪が増加する昨今、近い世代の感性を活かした捜査を行うために新設された特別捜査第三係です。
若い力とフットワーク、常識に囚われない柔軟な発想で捜査にあたって欲しいと。
 

あれですね。昔、男女雇用機会均等法がはじまりの頃、総合職女性を新設部署に放り込んで『女性ならではの感性で…』とか企画を出させたのと同じ手口ですね。取り扱いに困る層は一箇所に固めておけば良いと。意地悪な言い方かしら。
特別捜査第三係のメンバーが(江上を除いては)周囲が扱いに困るようなタイプばかりという訳ではありませんが、ちょっとクセのある人物揃い。どうして選抜されたのは、彼等だったんでしょう?
 

部署の新設。集められたメンバー。これには何か、裏がありそうだぞ?
 

——というのはラストのお楽しみにとっておいて、1300万人が人質にとられた事件に話を戻しましょう。

「まずい!」江上は一瞬の閃きに背中を押され、店内に身を躍りこませた。後に続く戸口が、消化液の残りで足を滑らせ、無様に転んだ。—(中略)—
十五番のボックスは開いていた。慌てて飛びこむと、置いてあったスーツケースが消えている。そして、あれだけ固く閉まっていた非常口は開き、外気がかすかに流れ込んでいた。
「やられました!」報告のために叫んだが、その声は自分に対する罰にしか聞こえなかった。

発足したての第三係なんですが、んもう最初からダメダメ。役には立たないわ身代金の受け渡し場所をミスディレクションしちゃうわ、犯人には逆に襲われて怪我するわ、捜査の秘密を当の……おおっと、あとの記述は自粛。
犯人が残した暗号を解読し、最終的に犯人を特定できたことはお手柄ですが、それも作者のご都合主義偶然の産物が大きいような。特定できたのもつかの間、江上の詰めが甘いせいで犯人には飛び…自粛自粛自粛。
 

給食の毒物混入と身代金要求については、結果的に大した話でもないのでここでの説明は割愛します。って主題をばっさり割愛wだって大した話じゃないんだもんw
読んでいる内に『あれ?この人が犯人?』と推測する人も多いと思いますよ。うん、君の推理は正しいよ。
でも、それだけじゃないけどね。
 

ここで私が声を大にして言いたいことは、本作で主人公の江上くんが最初から最後まで殆ど役にたたないってことは、誰が読んでも確実だってこと。
特別捜査第三係のメンバーを選抜した某氏と某氏に、私は言いたい。公私混同もいいかげんにしろと。
 

この小説のタイトルは「蒼い猟犬-1300万人の人質」ではなくて「未熟な猟犬-1300万人の人質」と読み替えるべきですかね。
これから江上くんも捜査一課で経験を重ね、いつか立派な刑事として独り立ちできる日を、都民税を納税する身としては願って止みません。ほんと、頼むよ。頼むぜ警視庁。

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