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宮部みゆき「あんじゅう 三島屋変調百物語事続」

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一度にひとりずつ、百物語の聞き集めを始めた三島屋伊兵衛の姪・おちか。ある事件を境に心を閉ざしていたおちかだったが、訪れる人々の不思議な話を聞くうちに、徐々にその心は溶け始めていた。ある日おちかは、深考塾の若先生・青野利一郎から「紫陽花屋敷」の話を聞く。それは、暗獣“くろすけ”にまつわる切ない物語であった。人を恋いながら人のそばでは生きられない“くろすけ”とは―。三島屋シリーズ第2弾!
(「BOOK」データベースより)

毎日新聞朝刊の連載小説が、最近一番の朝のお楽しみです。
 

宮部みゆきの「黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続」
「おそろし」でご紹介した“三島屋変調百物語”シリーズの6作目。
 

9月から連載は始まってますが、流れ的には連作短編と同じような形式です。
黒白の間にやってくる到来客の聞き語りを、数珠繋ぎにつなげるように話は進んでおります。
 

2018/11/18現在では、豆腐の話との話がおわり、ここから次の話がはじまるところ。
途中から読んでも問題ないので、さあ!今すぐに毎日新聞の購読申し込みを致しませよ!

…いや、別に毎日新聞社の回し者じゃないよ。
 

『新聞連載が終わる前にシリーズ第五目まで追いつこうキャンペーン』第二弾は、くろすけがチョー愛らしい「あんじゅう」でございます。

——なあ、くろすけよ。
寂しいか。私も寂しい。
おまえはまた独りになってしまう。この広い屋敷に、独りで住まうことになる。
だが、くろすけ。同じ孤独でも、それは、私と初音がおまえと出会う前とは違う。
私はおまえを忘れない。初音もおまえを忘れない。
遠く離れ、別々に暮らそうと、いつもおまえのことを思っている。月が昇れば、ああこの月を、くろすけも眺めているだろうなと思う。くろすけは歌っているかなと思う。花が咲けば、くろすけは花の中で遊んでいるだろうかと思う。雨が降れば、くろすけは屋敷のどこでこの雨脚を眺めているだろうかと思う。
なあ、くろすけよ。おまえは再び孤独になる。だが、もう独りぼっちではない。私と初音は、おまえがここにいることを知っているのだから。

前回「おそろし」のラストでは、主人公おちかちゃんがプリキュアオールスターズのクライマックスのように戦って、ラスボスを倒して問題は解決に至ったはず。
過去のトラウマに苦しめられていたおちかちゃんの心にも、安寧が訪れていた筈でした。
 

おちかちゃんの心を癒すために始められた『変わり百物語』の必要もなくなった筈。
ですが、どうしてまだ百物語は続けられるのでしょう?

「続けるに決まっているじゃないか。いったいいつ、私が言いましたかね。おちか、変わり百物語はもうやめだよ、などと」
だって——と、おちかは少しくちびるをとがらせた。
「この二月でおまえが聞き取ったお話は、たったの五つだよ。それも、おまえ本人の話まで勘定に入れてだ。百まで、あといくつ足りないとお思いだね」

おちかの叔父さんはこう申しておりますが、100の聞き語りが終了するまでに、あと何年かかるとお思いでしょうか?
終了時にはおちかちゃん何歳だ…という心配が無用であったことは、おちかちゃんが嫁に行って聞き役が代替わりしたことが今では分かっておりますが。
「あんじゅう」の出版当時は読者の皆さんもおちかちゃん自身も、まだ分かっておりませぬ。
 

前作で聞いた(もしくは語った)百物語は、まだ100のうちたったの5。
あと95人。先は長い。道のりは天竺よりも遠い。
おちかちゃん、友達100人、できるかな?

「あんじゅう 三島屋変調百物語事続」には4つの短編が収められております。
この本の中には、お勝さん新登場!とか、恋のライバル青野先生出現!?とか、語りたいポイントはいろいろありますが、どうしても外せないのは『暗獣』でしょう。
 

暗い獣と書いて、あんじゅう。名前は、くろすけ。

そのとき。
寝所と縁側を仕切る障子の陰から、へろりと闇がはみ出した。はみ出したとしか言い様がない。寝所の暗がりよりなお暗いものが、そこに隠れている。
頭上で稲妻が光った。

可愛いよ~!くろすけ可愛いよ~!
あれですね。白かろうと黒かろうと、丸っちくってポワポワしてて、言語がうまく発せない存在ってのは、人間のカワイイ欲求に訴求しますね。
宮部みゆきさん、ズバンとドストレートで人のカワイイ心を打ってきます。
 

化け物屋敷に住み着いている、化け物。
化け物を守るために作られた、化け物屋敷。
 

くろすけが可愛ければ可愛いほど、その切なさがしきり。

——人だ。
——わあ、人が来た。
——ここに住んでくれる人が来た。
無人の屋敷のなか、静寂と暗闇から生まれ、静寂と暗闇しか知らなかった<くろすけ>は、さぞ嬉しかったことだろう。

くろすけが住み着いていた化け物屋敷は、百物語の語り手が語っている時点では、もう焼け落ちて残っていません。
で、どうして屋敷が焼け落ちてしまったのか…を聞くと、さらに化け物=くろすけの愛らしさと切なさが増してくるわけです。
まさに『恋しさとせつなさと心強さと』篠原涼子 with t.komuro!
 

暗獣の可愛さは、上野動物園シャンシャンのアカンボ時代に似たり。
人間のカワイイ欲求をドストレートで訴求されて、グラッチェグラッチェタマランチーアですよ宮部さん。

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