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安部公房「箱男」

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ダンボール箱を頭からすっぽりとかぶり、都市を彷徨する箱男は、覗き窓から何を見つめるのだろう。一切の帰属を捨て去り、存在証明を放棄することで彼が求め、そして得たものは? 贋箱男との錯綜した関係、看護婦との絶望的な愛。輝かしいイメージの連鎖と目まぐるしく転換する場面(シーン)。読者を幻惑する幾つものトリックを仕掛けながら記述されてゆく、実験的精神溢れる書下ろし長編。
(Amazon内容紹介より)

いまテレビ東京で放映している『こえ恋』という深夜ドラマをご存知でしょうか。東京以外はどこで放映してるのかわからないので、関東ローカルな話題かもしれませんが。

娘の好きな俳優が出演しているとのこと、録画した番組を私もついで見し始めたところ…微妙に、ハマっております。

『こえ恋』は少女漫画が原作の、学園ラブコメきゅんきゅん系ドラマ。

いたって普通の女子高生が恋をするクラスメートの男子は、いたって普通の男子高校生。いたって普通?いや、おおむね普通です。

普通じゃないところは、毎日学校に紙袋を被って登校していることだけ。

箱…男…?

箱を作るだけなら、わけはない。所要時間にして、せいぜい一時間足らずのものだろう。だが、そいつをかぶって箱男になるには、かなりの勇気がいる。とにかく、この何でもないただの紙箱に、誰かがもぐって街に出たとたん、箱でも人間でもない、化け物に変わってしまうのだ。

安部公房の「箱男」の“箱男”も、TVドラマの『こえ恋』の松原くんも、紙製品で顔もしくは上半身を覆い隠して生活している点は同じです。

しかしながら、周囲の反応はかなり違いがあります。

「箱男」の世界では、“箱男”は淫猥で、胡散臭い、浮浪者やホームレスよりもさらに最底辺の、石持て追われる存在として描かれています。

対して「こえ恋」の紙袋ボーイ松原くんは、紙袋かぶってるのにクラス委員長までこなしちゃうし、友人もいるし複数名の女子から秋波は受けるし、夏にはみんなでバーベキューとかキャッキャウフフと高校生活を満喫するリア充。

“箱男”が、一般社会から黙殺されるべき透明人間のように扱われているのに対し、紙袋ボーイ松原くんは、紙袋の存在にもかかわらず一般社会に受け入れられるダイバーシティの理想郷。

普通ならば、夏風邪をひいた娘のお見舞いにきた男が紙袋かぶっていたら、決して決して玄関先から上げたりしません。

迷子になって泣いている子供に優しく声をかけた男が紙袋かぶっていたら、連れ去りか変質者かで大号泣です。

でも何故か「こえ恋」の世界では紙袋ボーイは違和感なく社会に受け入れられている。なんて心の広い人達揃いの町なんだ。

「箱男」の世界も極端だが「こえ恋」の世界も極端にすぎる。

もっとも、箱男という人間の蛹から、
どんな生き物が這い出してくるのやら、
ぼくにだってさっぱり分からない。

ごめんなさいここで、ひとつ告白をします。

「箱男」はかなりな前衛的実験小説なので、未だに私には「箱男」の小説の魅力がわかっておりません。

夏休みの宿題で読書感想文をまだ提出していない(もう9月だよ!)学生諸君には「箱男」はおすすめ致しません。安部公房をチョイスするならせめて「砂の女」あたりにし給え。いや、そもそも9月になってから読書感想文をやっつけようという向きが、安部公房をチョイスすること自体が間違ってるんだけど。

「いや駄目だ!『箱男』が課題図書なんだ!」と、已む無くこの小説の感想文を書かなくてはならない羽目に陥っている不幸な学生さんが居たとしたら、そうだねえ。「箱男」の『覗き』『覗かれる』快楽についてでも書きましょうか。

それは学校に提出する読書感想文としては、不適切でしょうか。

露出狂は、鏡に映した視姦行為にほかならない。

“箱男”は、箱をかぶることで匿名性を持ちます。

他者から人物=本体を覗き見られることなく、他者を覗き見る存在。

知らない内に自分を見られているのって、すごく気持ち悪くないですか?“箱”という非生物に隠れて、なんて堂々としたピーピング・トム。

一般市民が“箱男”を忌避し、石を投げたり空気銃で撃ったりするのも、覗き見られている気味悪さに耐えられないからと思えば説明もつきます。風呂場覗く痴漢とか、エスカレーターに出没する盗撮犯と同じね。

しかも“箱男”、箱の中身は上半身裸だったりするんです。脚が見えるからズボンは穿いているけれど、全身覆える箱があったならきっと全裸でいるだろう。

箱男生活の知恵、と理由付けしながら、見られずに視られたいという“視姦行為”の変態的嗜好の匂いを私は感じてしまいます。率直に言って、ちょー、気色わりぃっす。

TVドラマの「こえ恋」の紙袋ボーイ松原くんも、胸キュンストーリーの影に隠れて、その気味悪さは若干感じられます。

自分の顔を見られたくない、という考えが、思春期が高じた醜形恐怖によるものなのか、はたまた別の理由があるのかは判然としませんが、自意識過剰感と自己中感は否めないものがある。

ということは「こえ恋」で紙袋ボーイ松原くんに恋をする主人公の女子は「箱男」と愛し合う看護婦なのかしら。

相手の箱か紙袋を外すには、自分が裸にならないと対価を得られないのかしら。

相手と一緒にいられるのは、閉めきって明かりを消した半径2.5メートルの暗闇に限定されるのかしら。

主人公、逃・げ・ろ。そいつヤベーぞ。かなりヤベーぞ。

箱から出るかわりに、世界を箱の中に閉じ込めてやる。

胸キュン学園ラブストーリーだった筈の「こえ恋」に、淫猥なダークサイドを見つけてしまったのは、きっと「箱男」のせいだ。

私の胸キュンを返せ。

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