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宮部みゆき「<完本>初ものがたり」

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文庫本未収録の三篇を加え、茂七親分の物語が再び動き始めた!茂七とは、手下の糸吉、権三とともに江戸の下町で起こる難事件に立ち向かう岡っ引き。謎の稲荷寿司屋、超能力をもつ拝み屋の少年など、気になる登場人物も目白押し。鰹、白魚、柿など季節を彩る「初もの」を巧みに織り込んだ物語は、ときに妖しく、哀しく、優しく艶やかに人々の心に忍び寄る。ミヤベ・ワールド全開の人情捕物ばなし。
(「BOOK」データベースより)

この本を購入するまでに、長い長い逡巡の期間と、清水の舞台から飛び降りるような勇気が必要であったことを、著者宮部みゆき氏は知るらん。

もともと1997年発刊の「初ものがたり」を所有している私であります。宮部みゆき時代小説の中でも一番のお気に入りです。いーのよ。初ものがたり。いーのよ。

ざっくり説明すると、深川の岡っ引き茂七親分が、市井の揉め事や事件の探索をするという捕物帳。それぞれの短編毎に食べ物が出てきまして、“旬の初物”だから「初ものがたり」。

とか言いつつ、ホントは全部が全部“初物”じゃないです。お稲荷さんとかね。醤油なんて24/365システム稼働状態。いつが旬だ?

茂七親分=回向院の茂七は、他の宮部みゆき作品にも登場しているお馴染みさん。彼もなかなか人情肌で良い。が、「初ものがたり」だけにしか登場しない人物、稲荷屋台の親父。これがいーのよ。

富岡橋のたもとに出るようになった、稲荷寿司の屋台。

草木も眠る丑三つ時まで毎日店を開けているのは、働き者なのか無用心なのか。

店主の親父はアラフィフくらい。歳よりちょっと白髪は多め。

出す稲荷寿司はツンと酢を利かせた洒落っ気のある小ぶり寿司。稲荷寿司だけじゃなく、汁物、椀物、焼きもの、菓子まで作るなかなかの料理自慢です。

無口ながらも客の話に的確な答えをして、サービス業の基本を押さえた聞き上手。物静かと愛想無しは違うんだよ☆

茂七親分も捕物で行き詰った時に、稲荷寿司の屋台で親父と会話をすることで活路を見出したりして、それが事件の解決につながる場合もままあります。

その親父。この人物こそが「初ものがたり」一番の謎でもあります。

元はお武家さんらしい。

そして、なかなかに腕達者らしい。

深川一帯を取り仕切るヤクザの勝造も、何故か稲荷寿司の屋台には手を出すなと子分に言い含められているらしい。血縁関係、もしかすると兄弟?なのかも。

「あの小父さんの隠してること、親分に教えようか」
茂七の心をのぞきこむように、ちょっと首をかしげ、日道は言った。
「あの小父さん、誰かを探しているんだよ。あそこで屋台を張ってるのはそのためだよ。その誰かに、とっても会いたがっているんだ」

茂七親分は、稲荷寿司屋台の親父について、以下のように推測します。

親父がかつて、本当に侍だったとしたら、不思議なほどに町場のことに詳しいのは何故だ。町方役人であれば、岡っ引きの茂七が顔を知らない筈がない。では、他に市井に詳しい役職はあるか。

ある——火付盗賊改。「鬼平犯科帳」の長谷川平蔵と同じ役職ですね。

でも、親父は黙して語らず。茂七親分も、あえて問わず。

謎は謎のままとして、旧本の「初ものがたり」は終了しておりました。

そっれっがっ。

<完本>として、2013年PHP文庫再発刊。

ちょっとまって宮部さん。私にこれを買えっておっしゃるのですか。もう一度?

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自分が今持っている本と同じ本を買うのって、何だかすごーーーく悔しい気がします。

ぶっちゃけ言えばMOTTAINAI byマータイさん。だって半分以上同じなんだよ?販売価格の税別762円の内、400円くらいは不要なんだよ?

前半いらないから後半だけ362円で売ってちょうだいPHP研究所さん。

庶民の鬱屈に答える義務は出版社には当然無く、本のバラ売りはできません。

見たい。でももったいない。でも知りたい。稲荷寿司の親父の謎を。

税抜762円の出費に2年以上悩み続けた庶民な私。自らの貧乏性っぷりがいっそ愛おしい。

でも結局誘惑に負け、ぽちっとな。

で、今。

「<完本>初ものがたり」では、旧本に未収録だった3本の短編が追加されています。

話の内容は旧本と同じ。茂七親分、相変わらず仕事に精出してます。子分の構三と糸吉も、親分を助けてせっせと働いてます。霊感坊主の日道クンも、せっせと霊視に精出してます。

で?親父は?稲荷寿司の屋台の親父は?(鼻息フーン)

思わず、糸吉は言った。「俺だってそれはわかるよ。俺も捨て子だったから」
親父は目をしばしばとまたたかせた。「そうでしたか……」
糸吉は下を向いていたから、この親父がどんな顔をしていたのかわからない。続いて聞こえてきた言葉に驚き、顔をあげたときには、親父は糸吉に背中を向けていた。
「実は私も、一度捨てた子供を探してるんですよ」

ちょっと待って待って待って。

謎、増えてるし。

親父の謎を解明するようなヒントもサジェストも無いし。ヤクザの勝造、屋台で酒飲んでるし。

追加された3編の短編もそれぞれ1話ずつ完結して、何だかNewキャラの少女まで登場したところで、追加3編、唐突に終了~。

稲荷寿司屋の親父の正体を明かさないまま、著者の勝手な都合で途絶したきりのこの捕物帳シリーズですが、今後は他のシリーズと合わせて、多くの人物をにぎやかに往来させながら、ゆっくり語り広げていきたいと思っております。
(<完本>のためのあとがき より)

ちょっと待てや、みゆき~。

お前、完本の意味って知ってっか~。

【完本】
全集などの、全部そろっているもの。また、内容に欠落のない本。⇔ 欠本・端本
(Weblio辞書より)

良いですか宮部さん。

完本の“完”は完全の“完”なの。欠けたところのない10.00コマネチなの。

内容に欠落があるよー!親父の正体、書き忘れてるよー!

追加された3本の短編が面白くなかった訳では全くないので、税抜762円の内362円を返せとまでは言いません。

でもでも私の主目的って?!2年間迷ったのは何のために?!

私は認めないわ。断じて、この再販本を<完本>とは認めません。看板に偽りありです。
なので宮部さん。<完本>で終わらせず、次の「初ものがたり」シリーズをお続け下さい。大丈夫。ファイナルとかリターンズとか末尾につけとけばごまかせる。

そして稲荷寿司の親父の決着をつけたところで「<正:完本>初ものがたり」の出版願います。こうなりゃ3冊目だって買ってやる。毒食らわば皿までだ。3年迷うかもしれないけどね。

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