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平井和正「狼男だよ」

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満月の夜のおれ、犬神明を殺すことのできる者は、どのような手段によろうと、この世には存在しない。おれは犬神一族の生き残り、正真正銘の人狼なのだ。おれはルポライター。トラブルがおれのビジネス。トラブルはいつも向こうから飛びこんでくる。通りすがりの銀行にひょいと入っていくと、銀行強盗がオモチャのコルトを行員につきつけていたり、行く先々でジェット旅客機が墜落したり、追突した車のトランクからは全裸の美女の死体が転がり出す……。月齢が増すにつれ、おれの体臭は強くなり、力はみなぎる。おれは誇り高く心優しい狼男だ――。平井和正“アダルト・ウルフガイ”シリーズ第1作のノン・ノベル版が、生頼範義の表紙画&挿絵で復刻!
(Amazon内容紹介より)

昨年の2015年1月に、平井和正さんが死去されていたというのを知りました。

あー平井和正ー!あー犬神明ー!
私 さくらが中学生時分、ハヤカワSF文庫にハマりまくっていた時の超・スーパーヒーローでした。ちなみにウルフガイ・シリーズを知らない方でも「エイトマン」なら知ってらっしゃるのでは。
平井氏は「エイトマン」の原作を書かれた方です。
享年76歳。合掌。
 

「狼男だよ」はウルフガイ・シリーズの第一作。ちなみにウルフガイ・シリーズには「ヤング」と「アダルト」があって、ヤングとアダルトの主人公はどっちも犬神明なんだけど、全然の別人。
なおかつヤングのシリーズには“犬神明”じゃなくって“神明”って登場人物もいて、そっちはアダルトの“犬神明”と同一。
漫画「幻魔対戦」とからめた別シリーズもあり、全部ひっくるめたウルフランド(熊牧場みたい)ってのもある。ああもう面倒臭いなあ!
 

ヤングもアダルトも番外編もぜーんぶひっくるめた中で、やっぱり一番イカしていたのが、この「狼男だよ」ですね。
なんたって、タイトルからしてイカしてるでしょ?

おれの名は犬神明、一匹狼のトップ屋だ。一匹狼はたとえじゃない。本当の狼、すなわち人狼なのだ!

今じゃトップ屋という言い方は致しませんね。週刊誌のトップ記事を書く、つまりはルポライターです。
トップ屋という名称が昭和チックというか、アングラな匂いがプンプン。
 

そして彼“犬神明”のビジュアルは「痩せぎすのジャン・ポール・ベルモンド」
私は「狼男だよ」で、ジャン・ポール・ベルモンドの名前を知りました。ゴダールの『勝手にしやがれ』で有名になったお方よ。
胡散臭くって、貧相で、女ったらしっぽくって、でも最高に格好良いオオカミ男。
中学生のさくらちゃんのハートをギュッて掴んで離しませんでしたよ。今になってみると、趣味の悪い中学生だ。

犬神明さん、タイトルでも自己紹介でもカミングアウトしている通り、マジ本物の狼男です。お父さんは普通の人間だから、正確には狼女と人間のハーフですね。
両親を戦争で亡くし、お母さんのふるさと(人狼の隠れ里)からも追われ、たったひとり都会で暮らす文字通りのローン・ウルフです。
 

トップ屋稼業に精を出しながら、いつか仲間に出逢える日を夢見る犬神明ですが、不死の狼男を利用しようとする世界各国の諜報機関が彼を狙っています。
「狼男だよ」を皮切りに、米軍やら秘密結社やらなんだかんだが雨あられの如く降ってくる。
ああ、狼男も楽じゃない。
 

でも犬神明はいつもヘラヘラ冗談ばっかり言って、女性をおいしく戴き、ジャン・ポール・ベルモンドばりのニヒルな笑みを浮かべて、加え煙草で軽やかにトラブルを飛び越えて行くのです。
 

本当に、本っ当にイカしてたなあ。
「狼男だよ」のラストで、地中に深く生き埋めにされても、彼はこう言います。

まったく冗談じゃないよ。

だが、おれはまだ死なないのだ。
かならず、またお目にかかろう。

シリーズを追うに従って段々と暗鬱になり、いつの間にか読まなくなってしまったウルフガイ・シリーズですが。
そして、作者の平井和正氏もお亡くなりになってしまいましたが。
 

それでも、決して犬神明は死なないのだ。
かならず、またお目にかかろう。

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