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我孫子武丸「探偵映画」

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新作の撮影中に謎の失踪を遂げた鬼才の映画監督・大柳登志蔵。すでにラッシュは完成、予告編も流れているが、実はこの時点で作品の結末を知るのは監督のみ。残されたスタッフは、撮影済みのシーンからスクリーン上の「犯人」を推理しようとするが…。『探偵映画』というタイトルの映画をめぐる本格推理小説。
(「BOOK」データベースより)

ヒッチコック映画ファンは、この質問に答えられるかな?

「じゃあ、答えられるはずだ。『北北西に進路を取れ』——原題は“North by Northwest”だね。これは一体何のこと?」

小説のラスト近く、主人公の立原くんが、ある女性に出したクイズ。
このクイズに正解すると、立原くんにをしてもらえます。
恋をして欲しいか欲しくないかは、さておいて。
 

「探偵映画」は、マトリョーシカの人形のように、複数の謎が入れ子になった小説です。
 

まず最初の謎は、“鬼才”映画監督の大柳登志蔵が撮る『探偵映画』
嵐に閉ざされた邸宅で起こった殺人事件。犯人は誰か?探偵の前に扉を閉ざす老婦人は何を知る?
 

もうひとつの謎は、撮影の終盤になって突然姿を消した監督。
借金だらけの弱小映画プロダクションで、この『探偵映画』が完成しなければ、倒産は必至。
なのに、監督が撮影途中で失踪し、しかも最終シナリオは監督だけしか持っていない。スタッフもキャストも、誰も『探偵映画』の結末を知らない。
監督の行方は?そして、脚本の結末は?
 

このまま撮影が頓挫してしまったら、会社はどうなる?!

これは、ぼく=サードADの立原くんと、記録係の美奈子さんがペアになって『探偵映画』の謎をさぐる“探偵”になる「探偵映画」
開けても開けても探偵が出てくるマトリョーシカ。ハラショー。ピロシキー。ボルシチー。
 

「監督は諦めても構わん。——シナリオを見つけ出せ」
ぼくがよほど間抜けな表情をしていたのだろう。久本さんは念を押した。
「完璧なシナリオを、だ」

杳として行方の知れない監督。
どうやら自分の意思で姿を隠している監督に見切りをつけて、自分たちで『探偵映画』を完成させることを残ったスタッフは決意します。
 

だけど、謎の解明はどうすれば出来る?
犯人役になったら出番は一気に主役レベルに昇格とばかりに、『私(or俺or僕)が犯人だ』と言い始めるキャスト達。紛糾する会議、周囲をうろつく、監督の不在を嗅ぎ付けたらしい記者。
混迷の中で、果たして撮影スタッフ達は、映画を完成させることができるでしょうか。


「探偵映画」はマトリョーシカ・ミステリとしても面白い小説ですが、それにも増して面白いのは、小説全体に散りばめられた映画ウンチクの数々です。
洋画も邦画も名作映画からド底辺のB級映画、ちょい昔の映画好きの心をくすぐる映画話がつまっています。私も映画好きなので、どこのページを開けても楽しくってたまりません。
作者の我孫子武丸は映画フリークなんだろうなあ、としみじみ思います。だって『マッドマックス2』のトリックなんて、あなた気にしたことがある?

映画フリークのミステリ作家が書いた、映画の撮影中に起こったミステリとそのミステリ映画。
映画とミステリが入れ子になった、2体のマトリョーシカ合体作品です。ハラショー。ピロシキー。ボルシチー。

しかし一つはっきりしているのは、作者はこれをミステリ読者へ、そして映画を愛する人達に向けて書いた、ということです。そのどちらの人達にも楽しんでいただけたら、これほどの喜びはありません。
(あとがき)

我孫子武丸さん。私さくらは、「探偵映画」を大層楽しんで読みました。
ミステリも好きだし、映画も好きなので。
喜んでいただけましたでしょうか。
“North by Northwest”の意味は解らない私ですが、恋をしていただけますでしょうか。

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