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堂場瞬一「アナザーフェイス」

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警視庁刑事総務課に勤める大友鉄は、息子と二人暮らし。捜査一課に在籍していたが、育児との両立のため異動を志願して二年が経った。そこに、銀行員の息子が誘拐される事件が発生。元上司の福原は彼のある能力を生かすべく、特捜本部に彼を投入するが…。堂場警察小説史上、最も刑事らしくない刑事が登場する書き下ろし小説。
(「BOOK」データベースより)

イクメン刑事の今夜の献立は、サツマイモとジャコの炊き合わせに、ピーマンと挽肉のキンピラ。
好き嫌いの多い小学2年生ダンスィに、手を変え品を変え野菜を食べさせるのも、シングルファーザーの重要な任務です。
 

「アナザーフェイス」の大友鉄は元々捜査一課の敏腕刑事でしたが、奥様が交通事故で死んだことをきっかけに総務課に転属しています。ほら、捜査一課じゃ子育てと両立し難いからね。
総務課で地道な事務方業務をこなし、義母の手も借りつつ何とかかんとか主夫業をこなしていた大友でしたが、元上司からある日、誘拐事件の特捜本部に突然の参入命令。
 

まず考えたのは優斗の夕飯、どうしよう?
息子の面倒見と綱渡りしながら、久しぶりの捜査本部への復帰から小説は始まります。
 

誘拐事件については、ざっくりと流して説明しちゃいましょう。
要求された1億円は、銀行員である父親の努力もあり、銀行から貸付してもらうことで用意ができました。
是非とも身代金を奪われることなく解決したかった警察ですが、アイドルコンサートの混乱に乗じた犯人の計画により、あえなく1億円は奪われてしまいます。
しかし、身代金を受け取った犯人は、交渉成立とばかりに子供を自宅近くの公園まで送り返してきました。子供の命が助かって、良かった良かった万事解決…ですむ筈がない。
子供の帰還からずっと、大友が感じている違和感。
この誘拐、何かおかしい。

“アナザーフェイス”とは“もうひとつの顔”
誘拐事件なんてここではどーでも良いです(良いのか!)ここで私が語りたいのは、本シリーズ主人公の大友鉄について。
 

大友は、若かりし頃に劇団で芝居をしていた経歴がありますが「アナザーフェイス」では端麗な容姿も含め、彼の特異な性質を全部『芝居やってたから』でまとめられている傾向が高い。
彼に対する周囲の評価を、以下に列挙してみましょう。

「お前の顔を見ると、被害者の親が安心するとでも思ったのかな」
「まさか」
「いやいや、イケメン刑事は、こういう時だからこそ役立つ」柴の表情がだらしなく崩れる」

「分かりませんね。あなたの本質はもっと深いところにありそうだし……私なんかが覗けない場所に」

「大友さんって、人に警戒心を与えないタイプなんですね。それも一種の才能かもしれませんよ」

「参謀?」
「大将になって人を引っ張る感じじゃないけど、その横にいて、一発で状況を逆転させるアイディアを出すタイプ」

「理解しにくい噂、というところかな。お前は優秀だが、とらえどころのない男だそうだな」
「そんな評判、自分でどう解釈していいか分かりません」肩をすくめる。
「とらえどころのないのがお前さんの武器かもしれんな。相手が誰でも上手くダンスを踊れる」

「向こうにも、お前のことを話しておいたから」
「どんな風に?」
「その辺にいる中で、一番ハンサムな奴を捜せってさ」

「ガツガツしてないのが、お前のいいところだな。弱点かもしれんが」

 

待ってー。堂場さーん。褒めすぎー。
シリーズ第一作だからって、ここまで『黙ってても人が寄ってきちゃう無自覚なイケメン』っぷりをアピールしなくっても良いのよー。

しかもこれら全て『芝居やってたから』でまとめちゃう堂場さんの力技。芝居やってる人間みんながみんなイケメンじゃないー。芝居やってる人間みんながみんな心理学者じゃないー。
 

まぁでも私、なんだか可哀相になってきちゃいますよ。
世間がシングルファーザーに要求する、人物クオリティの高さに。
 

別に堂場瞬一がシングルファーザー小説の先鋭って言うつもりはありませんが、配偶者を亡くした(もしくは離婚した)父親は、死んだ嫁に操を立てて再婚もせず、手は借りながらもしっかり子供を育て、なおかつバリバリ仕事をし、いつでも冷静沈着スマートでお洒落で人当たりも良くて誠実であらねばならぬ、という、世間の期待の目が仄見える。ような気がする。
 

ここまで『いいひと』に仕立て上げないと、イクメン刑事を主人公にすることも許されないのでしょうかね?
穿ちすぎかもしれませんが、堂場さんの大友鉄に対する飾りたてっぷりと、そうさせた“世間様の目”っつーもんに少し怖さを感じたさくらでした。
 

——なーんて偉そうなこと言いながら。
優しくて有能、かつハンサムなイクメンを見て楽しくない筈がないので「アナザーフェイス」はいまのところ全6作+番外編も含め、発刊される度にワクワク読んでいるワタシです。
シンパパ大友鉄のハードルを勝手に上げているのは、この私自身。ごめんね大友さん。この先息子が反抗期を迎えても、育児がーんば。

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