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連城三紀彦「夜よ鼠たちのために」

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脅迫電話に呼び出された医師とその娘婿が、白衣を着せられ、首に針金を巻きつけられた奇妙な姿で遺体となって発見された。なぜこんな姿で殺されたのか、犯人の目的は一体何なのか…?深い情念と、超絶技巧。意外な真相が胸を打つ、サスペンス・ミステリーの傑作9編を収録。『このミステリーがすごい!2014年版』の「復刊希望!幻の名作ベストテン」にて1位に輝いた、幻の名作がついに復刊!
(「BOOK」データベースより)

私が連城三紀彦作品を読んだのは「褐色の祭り」次いで「飾り火」なため、連城三紀彦と言えば男女の心の機敏を描く作家とのイメージがあります(両方とも読んだことがある人は理由わかるよね)

いや知ってるよ?連城三紀彦はもともとミステリ畑から採取された作物だって。

でもどうにも違和感あるんですよ。「謎」の種類が殺人とか誘拐とか、いわゆる一般的な「ミステリ」に類する連城三紀彦って。

私はね、あくまでも個人的にですがね。連城三紀彦は男と女のドロドロの情念を描いた小説が好きなんですよ。

貧相胡散臭く薄汚い男と女のドロドロの情念が渦巻く小説が。酷いこと言ってる自覚はある。すまん、連城。

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さてこの短編集「夜よ鼠たちのために」は、連城ワールドの中でも特に「ミステリ(本流)」な短編を集めた世のミステリ好きを満足させるミステリ(本流)短編集でございますが。

極私的に好きなのは、やはり男女のドロドロ情念を描いた「二重生活」です。表題作のタイトルもかっちょ良くって好きなんですけどね。私の趣味は一貫しています。

この「二重生活」も、殺そうとしちゃったり死にそうになっちゃったりするんですが、それはともかく。

「二重生活」の主題は情念ですよ。ドロドロですよ。二重どころか三重四重、輪っかがメビウスの輪になってまあ大変ですよ。

男だ—-
鉄男はそう直感した。自分が来るまでに誰か男がこの部屋で牧子を抱いたのだ。牧子の冷たい横顔にふりかかっている髪の乱れも肌に残っている疲労もその男の与えたものなのだ。その男の体臭が染みついた体を牧子はわざと俺に抱かせようとしている—-驚きや腹立ちよりも先に、だがそれが刺激となった。鉄男は荒々しく牧子の髪をつかむと、夢中でその唇に自分の唇を押しあてた。舌の先に煙草の味がからんだ気がした……

「二重生活」に登場するのは修平さん46歳、静子さん45歳、鉄男さん29歳、牧子さん30歳。

夫と本妻、愛人とそのまた愛人。

修平さんは静子さんと牧子さんと関係を持ち、鉄男さんも静子さんと牧子さんと関係を持つ。すげーな四角関係。どっちがどっちの愛人なんだかワヤですわこりゃ。

週に2,3度訪れる修平さんを待ち続ける牧子さん。1日おきの2時間の「夫」の外出をじっと耐え忍ぶ静子さん。合間合間にどちらかの家でどちらかと逢瀬を重ねる鉄男さん。

「俺はピエロの役まわりだったわけか……君もあの奥さんも何もかも承知で俺に抱かれていたんだな」
「ピエロはみんな同じよ。私だってあの奥さんの仕返しだとわかってあなたに抱かれ続けてきたし、香取修平だって薄々奥さんに誰か男がいることに感づいているわ。私とあなたの関係までは気づいていないと思うけど……あなただって私に他の男がいることは感じていたでしょ。みんな芝居してただけ……」

すげーな。乱れた社会だ。

さてそんな二重生活、四角関係に疲れた誰かさん。誰かさんを誘って誰かさんを殺害しようとします。

いったい誰が、誰を殺そうとするのか。

二重・三重・四重のメビウスの輪っかは、どこがどこにつながっているのか。

—-まあ、それは「ミステリ」なんで割愛しますが。
連城三紀彦は、もともとミステリ畑から採取された作物ですし。

でも男と女の関係って、どんなミステリよりも「謎」だよねえ。

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