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筒井康隆「懲戒の部屋―自選ホラー傑作集」

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いっさい逃げ場なしの悪夢的状況。それでも、どす黒い狂気は次から次へと襲いかかる。痴漢に間違われたサラリーマンが女権保護委員会に監禁され、男として最も恐ろしい「懲戒」を受ける表題作。たった一度の軽口で、名も知らぬ相撲力士の逆鱗に触れた男が邪悪な肉塊から逃げ惑う「走る取的」。膨大な作品群の中から身も凍る怖さの逸品を著者自ら選び抜いた傑作ホラー小説集第一弾。
(「BOOK」データベースより)

「佇む人」は、筒井康隆のリリカル作品を集めた短編集。
そしてこの「懲戒の部屋」は、こわ~~い話を集めた、ホラー風味の強い短編集であります。
「佇む人」に収められている「母子像」なども、こちらのホラー系に入れて何ら遜色は無いとは思うのですが、まあそれはそれとして。
 

「懲戒の部屋」は、ホラーと聞いてすぐに想像するような、オバケものではありません。
筒井康隆が見せるホラーは、例えば暴力的な恐怖。例えば不条理な恐怖。例えば生理的な恐怖。
読んでいるうちに恐怖心から脳内麻薬が分泌されて、妙な多幸感まで感じてしまうような、危険な合法ドラッグです。
依存しないように、ご用心。

なんじょれ熊の木
かんじょれ猪の木
ブッケ ブッタラカ ヤッケ ヤッタラカ ボッケ ボッボッボッボッボッボッ

『熊の木本線』で登場する上記の“熊の木節”は、大きな声で歌わないようにご注意を。
奇天烈な踊りまでつけてしまったら、日本が崩壊するかもしれませんよ。
 

さて。
さすがに自薦ホラー傑作集と銘打つだけあって、上記の『熊の木本線』以外にも、かなりな怖モノ秀作が揃ってます。
お食事時に読めない『顔面崩壊』、「うまいからじゃろ」の台詞が妙に笑える『蟹甲癬』、猫スープ(!)が熱い『乗越駅の刑罰』などなど。
特に『乗越駅の刑罰』チョー怖い。どうしようもない怖さがあります。
(ところで『蟹甲癬』って蟹工船のシャレなんでしょうかね?)
 

しかし、ここで取り上げる短編は『走る取的』
ずっとずっと、気になっていることがありまして。

『走る取的』は、ふたりのサラリーマンが街で行き合わせたお相撲さんを怒らせてしまったことにより、追いかけられて追いかけられて追いかけられて、終いには殺されてしまうお話です。
スピルバーグの映画「激突!」力士版と考えて宜しいでしょう。
「激突!」も大型トレーラーに殆ど理由もなく攻撃される不条理感に満ち満ちていましたが、『走る取的』も同じ。無言&無表情でひたすらに追ってくる。なおかつ俊足。怖い。
 

それで、本題の“気になっている”こと、なんですが。
力士最強説って、あれ、嘘なんでしょうか。
 

取的(お相撲さん)に一緒に追いかけられながら、主人公の友人が言います。『力士は全ての格闘家の中で一番強い。自分の師範は幕下とケンカして病院送りにされた』
空手家の友人が怯えながらそう話すのを聞いて、イザとなったら友人が助けてくれると楽観視していた主人公がマジになるシーンがありまして。
怯えが本物になり、友人は先に取的に殺されてしまうのですね。
 

確か中学生時代に「走る取的」を初読した私は、それからずっと信じていたのです。
力士最強。相撲が一番大変。お相撲さんマジ怒らせたらヤベェ。
あの大量の脂肪の中には、ミッチミチに筋肉が詰まっていて、壁も打ち壊すほど大木も引きちぎるほどのパワーがみなぎっているに違いないと。
 

K1で曙がケチョンケチョンに打ち負かされる、その時までは。
 

あれ?お相撲さんって一番強い…んじゃなかったの?
 

「走る取的」からン十年、私が信じ続けていた力士最強伝説は、果たして筒井康隆の虚言だったのでしょうか。
それとも曙が、ただ単に弱かっただけなのでしょうか。
未だに力士最強説の呪縛から逃れられず、それでも力士を信じきれない私に誰か、どうか答えを教えて下さい。

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