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浅田次郎「プリズンホテル〈3〉冬 」

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阿部看護婦長、またの名を“血まみれのマリア”は心に決めた。温泉に行こう。雪に埋もれた山奥の一軒宿がいい…。大都会の野戦病院=救命救急センターをあとに、彼女がめざしたのは―なんと我らが「プリズンホテル」。真冬の温泉宿につどうのは、いずれも事情ありのお客人。天才登山家、患者を安楽死させた医師、リストラ寸前の編集者。命への慈しみに満ちた、癒しの宿に今夜も雪が降りつもる。
(「BOOK」データベースより)

奥湯元あじさいホテル館内のご案内

御注意

一、情報収集には万全の配慮を致しておりますが、不慮のガサイレ、突然のカチコミの際には、冷静に当館係員の指示に従って下さい。
一、客室のドアは鉄板、窓には防弾ガラスを使用しておりますので、安心してお休み下さい。
一、貴重品はフロントにて、全責任をもってお預かり致します。
一、破門・絶縁者、代紋ちがい、その他不審な人物を見かけた場合は、早まらずにフロントまでご連絡下さい。
一、館内ロビー・廊下での仁義の交換はご遠慮下さい。

お客人 各位

奥湯元への旅も、夏・秋・冬と3回目。ご来訪の皆様も、一泊二日のダイナミック・ツアーに慣れたところでは?
とはいえ今回のプリズンホテルも、おせち料理のご馳走ぎっしりのみっちみち状態です。
心してご宿泊あそばせ。
 

ざっくり説明すると、<冬>のテーマは“いのちって何だろう”。
今回フリー客としてやってきたのは阿部マリアさん。
この名前を聞いてピンときた貴方は正しい。
阿部マリア、またの名は『血まみれのマリア』
そう。浅田次郎の「きんぴかシリーズ」にも登場する、救命救急センターの看護婦長さんです。

「ステルベン(死んだ)かどうかは私が決める。ここでは私が法律よ!」

雪の宿で、しばし疲れた身と心を休めたいと思えども、そこはプリズンホテル。
のんびりなんてさせちゃくれません。
偶然ながらにも到泊していたのは、末期ガン患者を安楽死させたと問題になった、かつての恋人、平岡医師。
 

生かす女と、殺す男。
またまたプリズンホテル、大変です。

<冬>には他にも、山男や自殺志願の中学生や、木戸先生を追いかけてきた編集者など、色々なお客様がいらっしゃいますが。
このブログではそこいらへんはスッ飛ばして、シリーズ最初から登場する小説家の木戸孝之介についてお話しましょう。
宿泊者のエピソードを連ねていったら、いつまでたっても主人公に辿りつけない。
だいたいシリーズ3冊目になって、やっと主人公の詳細が書けるってどんだけ?

夏休みの終わりの日、ぼくは溜った宿題に押し潰されて工場に下りて行き、梯子段の上から初めて父に訊ねた。
おかあさんは、どこに行っちゃったの、と。
父は黙々とミシンを踏み続けたまま、答えるかわりにぼくの頭をげんこで殴った。

ミシンを踏んだままハシゴの上にいる息子の頭をゲンコできるなんて、この父親ずいぶん腕が長いななんて茶々を入れつつ。
木戸先生の実母は、先生が7歳の時に愛人と駆け落ちし、家を出て行きました。
実はその母親こそがプリズンホテルの女将だったりして、愛人は仲オジの弟、かつホテルのフロント長だったりするんですが。
 

父親は後添いとして女工兼女中の富江と結婚し、父亡き後は継母の富江との二人暮らし。
グズでノロマでブスな富江を日々殴打し、罵倒し、母とは決して呼ばずとも、心がどうしようもなく彼女に依存している。
 

7歳で母を失った喪失感が、愛している人に『愛してる』と言えない偏狭な性格を作ってしまいました。
 

愛する人がいつか消え去ってしまうんじゃないかという恐れが、彼の罵倒の言葉となり。
どれだけ愛してくれる?どれだけ許してくれる?という問いかけが、彼の拳となり。

ぼくは清子の髪を掴んで引きずり倒した。なすがままにされる清子を殴れば殴るほど、涙はとめどなく溢れるのだった。こうすることのほかに、ぼくの野生の力で殴ったり蹴ったりすることのほかに、ぼくは清子を愛する方法を知らない。

率直な感想を言わせて頂ければ、マザコンをDVの言い訳にしてんじゃねーよボケ!ってところです。
まったくもう、とりあえず主人公だから放っておけないけど、何なのコイツ。
あーもう女性の皆さん!こんなDV男の論理に同情しちゃダメだからねー!
 

話を戻してプリズンホテル。
救命ナースのマリアさんと安楽死殺人の平岡先生が、結局どうなったのかというと。
未読の方には野暮な気もしますが、マリアさんの素敵な台詞を引用しましょう。

「僕には君が必要なんだ。君がそばにいてくれさえすれば——」
「もう人を殺さずにすむ、って言うの?情けないこと言わないでよ。ペイン・クリニックの権威じゃないの。いい、ドクター。ホスピスでは、あなたが法律よ。自信を持って、どんどん殺しなさい」
「待ってくれ、マリア。僕は君を——」
「私を愛するのはあなたの勝手。私もたぶん一生、あなたを愛し続けるわ。でもそれを口に出すほど、あなたも私も安くはない。あなたはどんどん殺す。私はどんどん助ける。それでいいじゃないの」

DVマザコン男の木戸孝之介よりも、よっぽどこの“血まみれのマリア”さんの方が男前に感じるのは、何も私だけじゃないでしょう?

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