日村誠司が代貸を務める阿岐本組は、今時珍しく任侠道をわきまえたヤクザ。その阿岐本組長が、兄弟分の組から倒産寸前の出版社経営を引き受けることになった。舞い上がる組長に半ば呆れながら問題の梅之木書房に出向く日村。そこにはひと癖もふた癖もある編集者たちが。マル暴の刑事も絡んで、トラブルに次ぐトラブル。頭を抱える日村と梅之木書房の運命は?「任侠」シリーズ第一弾(『とせい』を改題)。
(「BOOK」データベースより)
阿岐本組長があっさりと立て直したばかりの梅之木書房を手放して去るその姿は、グランド・ティートンに向けて馬を駆る映画「シェーン」のラストシーンのように。
「シェーン!カムバーック!」
とすると編集長の片山は、農民の子供ジョーイか。ジョーイなのか。
片山が言った。
「社長や日村さんが来てから、会社の業績は跳ね上がったんだ……」
阿岐本は、片山を見て穏やかにほほえんだ。
「だからさ、もういいじゃねえですか。あたしの役割は終わったってことです」
「任侠病院」でもご紹介しました、昔堅気のヤクザ一家の阿岐本組がお送りする「愛の貧乏脱出大作戦 byみのもんた」シリーズの第一弾。
中間管理職の日村さんが奔走するのは、つぶれかけの出版社・梅之木書房です。
オヤジの気まぐれで出版社の役員にされてしまった日村さん、あっち向いてもこっち向いてもまあ大変。出版社に出向いたり型抜きの精密加工会社に追い込みかけたり他組とのシマ争いに気をもんだり舎弟が傷害で逮捕されたり休む暇なし。
ヤクザが黒いスーツを着ているのは、伊達ではない。黒いネクタイをするだけで、すぐに葬儀に駆けつけることができる。
そーか!おばあちゃんの知恵袋みたいに、生活の知恵なんだね!
日頃忙しい日村さんの任侠知恵袋。白シルバーのストライプスーツなんて着ているヤクザの皆さんは、日村さんに倣ってすぐに黒スーツに着替えましょうね。
梅之木書房の刊行物は、男性向け情報誌「週刊プラム」と女性向けファッション誌「リンダ」と書籍いろいろ。
「任侠書房」ではそれぞれの分野で立て直しを図りますが、一番(作者的に)気合が入っているのは、なんといっても「週刊プラム」のグラビアに関してでしょう。
グラビアに対して如何に作者の思い入れが強いかは、グラビアの質に関する記述が他の仕事に比して明らかにページ分量を多く割いていることで分かります。全く、男ってやつぁどいつもこいつも…。
「『週刊プラム』のグラビアには必ずヌードが載ります。でも、どこでも見かけるようなヌードです。ターゲットは中年男性だから、若い女のヌードでも載せておけばいい、そんな感じなんです。グラビアから気迫が感じられない」
「気迫か?」
「気迫です。どこにでも転がっているようなAV女優なんかの裸でお茶を濁そうとしても、読者は感動しません」
普段は口数少ない舎弟の真吉が、週刊プラムについて意見を求められた途端、饒舌に熱情もって語る。きっと、きっとリアルな男性諸氏も、雑誌のヌードグラビアに対しては各個のご意見があるに違いない!
「本質は『お宝感覚』です。そして、中年サラリーマンたちの妄想です。誰にも言えないけど、ひそかに抱えている妄想というのが誰にでもあります。フェチといってもいい。また、青春時代の情熱を呼び覚ましてやることも一つの手です。昔のアイドルのセクシーショットは、いまだに人気があります。それからブランド。CAやファーストフードの制服、婦警の制服なんかも人気が高い。オフィスでのセクシーショットは、サラリーマンの妄想をかきたてます」
で、ヤクザの伝手を頼って“脱がし屋”から元アイドル吉沢真梨子ちゃんのセクシーショット撮影をとりつけます。
それにしても脱がし屋ってすごい名前ですね。
「おう……」
また、声が漏れた。
日村だって、ヤクザなのだから、女の裸くらいでは驚かない。あまり自慢できることではないでので、人には言わないが、若い頃には、女を食い物にしたことだってある。
そんな日村にとっても、若い頃のアイドルがグラビアで脱ぐというのは、身もだえしたいくらいの刺激だった。
—(中略)—
ショックが大きいほど、雑誌は売れる。
「吉沢真梨子って、今何をしてるんだ?」
「主婦ですよ。人妻ヌードです」
「うう……」
また、声が漏れた。元アイドルにして人妻のヌード。これはたまらん。
これはたまらんの吉沢真梨子セクシーショットグラビアが掲載された「週刊プラム」は、当然のことながら即日完売。
まあ、小説ですし。いやリアルでもきっと同じ現象が起こる。だってキミの心のアイドルがもし脱いだら、見るでしょ?きっと絶対買っちゃうでしょ?
「気付いたかい?」
片山は言った。
「何です?」
「そのグラビアにヘアは写っていない。乳首すら写ってないんだ」
それがたいして重要なこととは思わなかった。真吉はむしろ丸出しはいけないという意味のことを言っていた。
「たしかにそうですね」
吉沢真梨子の乳首などとんでもない。ましてやヘアなど……日村はそう思っていた。
「今まで、うちのグラビアは、無意味にヘアや乳首を載っけてた。ヘアが解禁になった頃には、それこそどんなヌードでも週刊誌が売れた。その頃から惰性でヌードを掲載していたんだ。だが、時流は変わった。あんたんとこの若いのは、そのことを教えてくれた。つまり、グラビアには付加価値が必要なんだ」
ついつい小説の中でも“そっち方面”に食いついてしまう私も相応に下賎な人間だというのは自覚しておりますが、きっとこのブログをお読みのキミにだって、男性雑誌のグラビアに対する熱い想いはあるはず!
グラビアの掲載案について独自のアイディアをお持ちの男性諸氏は、「週刊プラム」編集長片山氏まで。
貴方の熱き情熱が、次号のグラビアで結実するかもしれなくてよ。