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三浦綾子「氷点」

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辻口病院長夫人・夏枝が青年医師・村井と逢い引きしている間に、3歳の娘ルリ子は殺害された。「汝の敵を愛せよ」という聖書の教えと妻への復讐心から、辻口は極秘に犯人の娘・陽子を養子に迎える。何も知らない夏枝と長男・徹に愛され、すくすくと育つ陽子。やがて、辻口の行いに気づくことになった夏枝は、激しい憎しみと苦しさから、陽子の喉に手をかけた―。愛と罪と赦しをテーマにした著者の代表作であるロングセラー。
(「BOOK」データベースより)

今年2016年に放送50周年を迎えた日本テレビの演芸番組「笑点」の番組名が、三浦綾子の「氷点」のシャレから名付けられたという事をご存知でしょうか。

試験には決して出ない、役に立たない豆知識。
テンテケテケテケ、テンテン。パフッ!

「氷点」を読んでいつも困るのが、「氷点」の主要登場人物の誰一人として愛着が湧かないという事実。

読んでいてこんなに楽しくない本もそうそう無いような気もするんですが、それでも何故か定期的に読み返してしまう本です。全然楽しくないのに。何このバッドトリップ専門ドラッグ。

はじまりは“美徳のよろめき”から。
医師夫妻の娘ルリ子が、男に誘拐され殺害されるところから「氷点」はスタートします。

ルリ子が外で一人遊びをしていた原因は、母親の夏枝が、病院で働く眼科医の村井と自宅内で軽いアバンチュールをしていたことにありました。

この夏枝がまたヤな女なんだ。
貞淑な妻を装いつつも、その実「全ての男は私の虜なのよオーッホッホ」の自信過剰、オンナ過剰。

実の娘が死んで、その代わりに養女とした娘の陽子が、実は自殺した誘拐犯の一人娘だったという事実を知って非常に苦悩しますが、それでも遠因となった村木と再会するときには新しい着物を(下着まで)誂えてしまう、THE・オンナ。

夏枝は鏡の前に座ることが好きだった。鏡の中の自分に見ほれることは、快かった。そこには、自賛があった。しかし鏡にうつる自分に見ほれることからは、人への愛は生まれなかった。鏡は目に見えるものしかうつさなかった。心をうつすことはできなかった。

自分LOVE。どこまでいっても自分LOVE。息子の友人まで誘惑しちゃう「卒業」のミセスロビンソンまがいのことまでする夏枝のどこが貞淑なのか。

その夫啓造は、この話の元凶No.2。ちなみにNo.1は後ほど。
娘の死亡の遠因になった夏枝の“美徳のよろめき”に気付いた啓造は、留置場で首を吊った誘拐犯の忘れ形見を引き取って、養女にする算段をします。もちろん、妻の夏枝には内密に。

仲介をした友人の高木には「“汝の敵を愛せ”を生涯の課題にしたい」などと殊勝な台詞を吐いていますが、本当はいつか夏枝に真実を告げて、妻の苦しむ顔が見たいという復讐心から。

そんなよこしまな考えから引き取られた娘の陽子が、養父の啓造に可愛がられる筈もない。

しかし陽子が段々と可愛らしい少女に成長していくにつれ、啓造の心に温かな親心が生まれ…る筈もない。啓造の心は、さらによこしまになります。

絹繻子のような感触の、ひざのあたりを啓造はなでていた。なでながら、幼女が痴漢におそわれた話を思い出していた。
小さな女の子に、大の男が何が面白くて、ばかなことをするのかと、啓造は自分の少年の日の過失を忘れて、嘲笑してきたことだった。しかしいま、陽子を膝の上にだきながら、啓造はその痴漢の幼女に対する心理が、わかるような気がした。

わかってんじゃねーよ。鬼畜かよ。
兄の徹といえば、何と言うかまた、つまらん男でねえ。

「徹くんは、まず一生面白くない面白くないで暮らすタチだね」

知人の辰子おばさんの評に100%同意。ああ、ちなみに「氷点」の中で唯一好感が持てるのはこの辰子おばさんですが、この人はこの人で女の幸せからとは遠そうなワリ食う感が…。

徹も啓造と同じく、成長した陽子を見るにつれ、肉親とは違うオスの感情を抱くように。ああもう何なのこいつら!父子揃って!

そして、当の娘、陽子はと言いますと。

…ごめん、私、陽子が一番好きになれないの。

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酒井順子が「負け犬の遠吠え」『夏休みの宿題を早めにやり終えてしまうタイプは、大抵いけすかないヤツと相場が決まってます』と言っておられました。

陽子は正にそのタイプ。夏休みの宿題は7月中に終わらせて、8月からは二学期の予習をはじめるような、ひっじょーにいけすかないタイプです。これは私のひがみでしょうか。

陽子の素性を知った夏枝から、影に日向にイジワルをされて、学芸会の衣装は作ってもらえないわ給食費は払ってもらえないわ、卒業生代表の答辞の原稿はすりかえて白紙にされるわ…の、白雪姫もびっくりの攻撃を受けながらも、

(わたしは石にかじりついても、ひねくれないわ。こんなことぐらいで人を恨んで、自分の心をよごしたくないわ)

また可愛げのない…夏枝の気持ちが、ほんのちょっとだけ分かる気がしないでもない。

陽子は、父と母から愛情を与えられず、自分が“もらい子”であることを知っても「自分は決して悪くないのだ、自分は正しいのだ、無垢なのだ」との気持ちで耐え忍びます。

自分さえ正しければ、私はたとえ貧しかろうと、人に悪口を言われようと、意地悪くいじめられようと、胸をはって生きて行ける強い人間でした。そんなことで損われることのない人間でした。何故なら、それは自分のソトのことですから。

ヨハネによる福音書の『罪なき者石もて打て』だったら、自分は“罪なき者”だけど、優しいから“石もて打”たない、という心持ち。

これを高慢と感じてしまうのは私のひがみでしょうか?

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そんな陽子が、夏枝から「お前はルリ子を殺した犯人の子供だ」と暴露され、自分が“罪なき者”ではなかった事実と、自分の心の内に“氷点”があったことを知ります。

自分が正しき者だと信じていた陽子は、自分の中に潜んでいた“氷点”を直視することができず、自らの命を絶とうとして遺書を綴ります。

私はいやです。自分のみにくさを少しでも認めるのがいやなのです。みにくい自分がいやなのです。けれども、既に私は自分の中に罪を見てしまいました。こんな私に、人を愛することなど、どうしてできるでしょう。

自殺が未遂に終わって、虚脱した状態の辻口一家。そこへ「氷点」一番の戦犯が、爆弾持ってやって来るんだ。

啓造の友人の、産婦人科医の高木。陽子が養女となる仲介をした人物。

「いやーゴメンゴメン、実はさあ、陽子ちゃん犯人の娘じゃないんだよねぇ~。まっいいかと思って違う子にしちゃったテヘペロ☆」

おまえかーーーーーーーー!
おまえがこの20年近くの混乱を招いた元凶かーーーーーー!

まさかまさかの種明かし。辻口一家もびっくりぽんだが読んでる読者もびっくりぽん。

という訳で、さくらは「氷点」の主要登場人物の、誰一人にも好感を持てないんです。

ホント読んでてイラッイラするんですが、それでも何故か定期的に読み返してしまうのはどうしてでしょう。
バッドトリップが約束されているドラッグでも依存性は高いのか。

うーんドラッグって怖いなあ。って「氷点」の感想と全然違う結論だなあ。覚醒剤やめますかそれとも人間やめますか。

で、この「氷点」続編もあります。チェケラ。

三浦綾子「続氷点」
自分が辻口家を不幸にした殺人犯の子であるとして、自殺をはかった陽子。一命をとりとめ、父・啓造や母・夏枝からすべてを謝罪されたが、自分が不倫の末の子であったという事実は潔癖な陽子を苦しめた。陽子は実母・恵子への憎しみを募らせていく。一方、兄・
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