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ヴィクトル・ユーゴー「レ・ミゼラブル」

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貧しさにたえかねて一片のパンを盗み、19年を牢獄ですごさねばならなかったジャン・ヴァルジャン。出獄した彼は、ミリエル司教の館から銀の食器を盗み出すが、神のように慈悲ぶかい司教の温情は翻然として彼を目ざめさせる。原書挿絵2百枚を収載。
(「BOOK」データベースより)

私は、文部科学省が、憎い。

正確には、小学校の教科書を編集した出版社と、それを認定した文部科学省が憎い。

壮大な娯楽小説の「レ・ミゼラブル」を、耳かきひとつぶんのエピソードに押し込めてしまった彼等は、レ・ミゼの魅力を殺したA級戦犯だ。

「『レ・ミゼラブル』って知ってる?」と聞くと、結構な確率で返ってくるのが以下の台詞。

「ああ知ってるよ、道徳の教科書で読んだ。銀の燭台を盗んだけど許される話でしょ?」

ちっがーーーーう!

いや違いはしないよ、確かに。確かにそのエピソードは存在しますとも。

しかしね。それはこれから後に続く、壮大かつ感動的かつ波乱万丈のワクワク冒険活劇の、ただの序章に過ぎないんです。ここから始まるのレ・ミゼは!

とはいえ、知らない人を責められはしますまい。私自身も全く同じ印象を抱いていましたから。

小学校の道徳の教科書に書いてあった「ああ無情」。銀食器を盗んで捕まったジャン・バルジャンに司祭様が「ああ、あなたは燭台を忘れていきましたね、さあ、この燭台もお持ちください」と渡すシーン。

しかもあったまくることに、往々にして小学校の道徳の時間では、その話って扱わないのよね。ただ教科書に書いてあるだけ。

だから「ああ無情」とはそーいう話なんだなといたいけな小学生が勘違いしていたとしても仕方がないじゃありませんか。

時はたち、さくら二十代後半。会社の先輩マダムが「『レ・ミゼラブル』すっごく面白いわよ!」と貸してくれました。岩波文庫4冊セット。

正直、いかにもつっまんなそーじゃないですか?

字の細かい文庫本みっちり、挿絵もいかにも古臭いしな。ページをパラパラをめくった限りでは、正直すっげーつまんなそう。

先輩マダムに敬意を表するポーズのために、嫌々ながら手に取ったのが本音でした。

しかし。

しかし。

しかしだよ。

読んで、みたら、まあ!まあまあまあ!

ドキドキワクワクの冒険活劇。秘密、探索、悲哀、ロマンス、革命。盛り沢山のてんこもり、こりゃエンターテイメントの満漢全席や~!(by彦摩呂)

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岩波書店
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レ・ミゼの全てを語ろうなんて、そんな無謀なことは私には出来ません。

ただね。「レ・ミゼラブル」を『銀の燭台をもらう話』だと今でも勘違いしている人がいるならば、その誤解だけは正しておきたいの。それはレ・ミゼを読んだ人の総意である筈。

だって、読んだ人なら知っている。

フォンテーヌが病む子供への金作るために前歯を売る、その痛みを。

男に騙されて捨てられた女が、そうとも知らずつまむ砂糖菓子の、甘さを。

ジャン・バルジャンの素性が割れる危険を冒して持ち上げる、馬車の重みを。

自分の身代わりに死罪になる男を助けるかべきか迷う、マドレーヌ市長の逡巡を。

ジャベールに追われて逃げ込んだ修道院に響く、祈りの声を。

踊るような足取りでバリケードをくぐりぬけるガブローシュの、覚悟を。

マリウスと恋敵との橋渡しに協力するエポニーヌの恋心の切なさを。

地下の下水道を走る背後に響く、追手ジャベールの靴音を。

だからね。私は、文部科学省が憎いです。

レ・ミゼの魅力を殺した罪人を、共に討とう革命家達よ。起て、そして歌え民衆の歌をガブローシュ!

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