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宮部みゆき「孤宿の人」

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北は瀬戸内海に面し、南は山々に囲まれた讃岐国・丸海藩。江戸から金比羅代参に連れ出された九歳のほうは、この地に捨て子同然置き去りにされた。幸いにも、藩医を勤める井上家に引き取られるが、今度はほうの面倒を見てくれた井上家の琴江が毒殺されてしまう。折しも、流罪となった幕府要人・加賀殿が丸海藩へ入領しようとしていた。やがて領内では、不審な毒死や謎めいた凶事が相次いだ。
(「BOOK」データベースより)

悲しいお話なのですが
悲しいだけではない作品に
したいと思って書きあげました。

と、作者の宮部みゆきさんは言ってます。

確かに悲しいお話なのはまぎれもない事実。では、果たして「悲しいだけではない」か。さて、どうでしょう。

悲しい「だけ」以外の、プラスは何か。

時は江戸。舞台は讃岐の丸海藩。ちなみに香川県の旧丸亀藩をモデルにした架空の藩です。
その丸海藩が、元勘定奉行の加賀様の流刑地と決まったあたりから話ははじまります。

加賀様はお江戸で悪霊に取り憑かれて妻子を惨殺し、御自らも悪鬼悪霊に変貌したとのお噂。
罪人とはいえ身分の高いお侍を、地方の小藩は丁重にお預かりせねばなりません。

丁重に、加賀様が荒ぶらぬように、悪霊が揺り起こされぬように。

加賀様のお預かり命が幕府から下された頃から、丸海藩では怪異が相続くようになりました。

竹矢来が崩れる大事故、幾人もの突然の死、屋敷の屋根に見え隠れする鬼の影、コロリ。

加賀様は鬼だ、悪霊だ。加賀様は流されることを恨んで、この丸海に、ありとあらゆる災厄を運んでくる——

宮部みゆき曰く「悲しいお話」の、何が悲しいかというのは読んで5分とたたない内に分かるでしょう。

いや、もうほんと、バンバン死ぬよ!今回の宮部はバンバン殺すよ!

しかも良い人とか、ちょっと心が温まる風景に居た人とか、こころ柔らかな位置あいにいる登場人物を絨毯爆撃で殺していきます。

「孤宿の人」では特定の登場人物に心宿してはいけません。ほぼ確実に、悲しくなります。

新潮文庫(上下巻)の上巻、小説の半ばまでは加賀様の姿すら見えないのに、バンバカバンバカ死んでいく。

この調子じゃ、悪鬼の加賀様が登場した後は、丸海藩はいったいどうなっちゃうっていうの?!

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新潮社
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宮部みゆきの時代小説では、あやし・あやかし・物の怪の類が登場する作品と、人外のものは登場しない作品がありますので、「孤宿の人」が果たしてどっちなのか判別つかないと心の準備に困っちゃいますね。

そこでここではネタバレ恐縮、先にお話しておきましょう。

「孤宿の人」は“あなたの知らない世界(チャラリラチャラリラ)系”ではありません。

藩内の人それぞれの、欲と思惑と保身が、加賀様を“悪鬼悪霊”に仕立てて、人間が起こした事件を“祟り”のせいにしているのです。

それが分かってくるのが、主人公のひとり少女 ほう が、加賀様のお屋敷の下女中として働き始めてから。

少女 ほう は、不幸な生い立ち故に碌な教育も受けられなかった、阿呆の『呆(ほう)』

名前すら『呆』とつけられてしまう哀しさが、ほうの身の上を物語るでしょ?

物知らずで、周囲からも自分自身も“阿呆”と思われていますが、その実知能に問題がある訳ではありません。

「ほうは阿呆だから、加賀様の下働きをしても悪霊に取り憑かれるような恐れはない」

「よしんば悪霊に取り憑かれたとしても、使い捨てにできる」

「そもそも阿呆だから、悪霊を隠れ蓑にしている藩の権謀にも気がつくまい」

そんな人々の思惑により、半ば強引に加賀様のお屋敷に押し込めとなった ほう ですが、そこで出逢った加賀様本人のお姿は…。

「孤宿の人」の核となる主人公は、ほう だけでなくもう一人、宇佐という若い娘もいるのですが、そちらについては実際のご本にて。

一時期だけ一緒に暮した ほう と宇佐が、再び共に暮らせる日が来るのか、とか。

災厄の総まとめのように発生した台風と雷と大火事で、何が起こるのか、とか。

“悪霊”加賀様が幽閉されているお屋敷を襲った獣の正体は、とか。

「孤宿の人」を読んで、読み終えて、何が残るかは読者それぞれに。

悲しい「だけ」以外のプラスは何か。

あなたの心に残るプラスは何でしょう?

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