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スティーヴン・キング「トム・ゴードンに恋した少女」

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深い深い森の始まりの地で、9歳の少女トリシアの試合は開始された。家族で来たピクニックが、いつしか迷い込んだ巨大な森でのサバイバルゲームと化していたのだ。離婚した両親。母と喧嘩ばかりの兄。うんざりなはずの彼らがいまは無性に恋しい。迫り来る虫に蛇、絶壁に急流、食料不足。しかも彼女の背後には、人智を越えたなにかが迫る…。少女の絶望的な状況を圧倒的な筆力で描く感動作。
(「BOOK」データベースより)

北海道の田野岡大和くんが無事保護されて良かったね記念。
勝手ながら。

いやあ、無事に見つかって本当に良かった良かった。
という訳で“10歳未満の子供が森の中で迷子つながり”の、「トム・ゴードンに恋した少女」です。
子供のサバイバル能力って、ハンパないね!
 

こちらのサバイバル、舞台はアメリカのメイン州。
スティーヴン・キングは地元メイン州をよく舞台にしています。キングにかかるとメイン州は事件とか怪奇現象とかの宝庫ですね。州知事が怒るぞ。

世界には歯があって、油断していると噛みつかれる。

主人公は9歳の女の子トリシアちゃん。家族と森にハイキングにでかけ『おしっこに行きたかっただけなのに…』ちょっと道を外れた間にはぐれてしまいます。
誰も居ない森の中。持ち物は小さなリュックサックただひとつ。
広い広い森のどんどん奥に入り込んで、どこに行けば良いのかもわからない。助けが来るのかもわからない。食べ物もない。
彼女のただひとつの救いは、携帯ラジオから聞こえてくる大リーグ選手のトム・ゴードン。
レッドソックスの抑えの切り札、そして彼女のヒーロー。
 

都会っ子のトリシアちゃん、特にサバイバルのスキルがある訳ではありません。
服装も持ち物も、ちょいとそこまでピクニックの装備しかしていません。
なので最初は泣き虫ベソベソ。しかしながらそれを責められもするまい。たった9歳の子が、飢えと乾きに苦しみ、木々に足をとられ、蛇や虫に悩まされ、寒さにこごえ。
『バーの止まり木に並ぶ酔漢』のように首筋に蚊がたかるんですよ。きゃー!この小説を読んでから、夏に蚊を見る度にその風景を連想してしまう。
 

なおかつ、キングですから。
いるんですよ、森に。ザ・パラノーマル・キングならではの“何か”が。

スティーヴン・キング曰く、この小説は最初の設定(迷子)だけを決めて、筋書きは筆の走るままに書き進めていったらしいのですね。
なので、最初のうちはトリシアちゃんも、森の中を迷ってさまよって、キングが筆に迷うようにフラフラとしています。

しかし。

「蓄える。ヤー、ベイビー。蓄える」

どんぐりが沢山落ちている場所で狂喜乱舞しながらどんぐりを貪り、その後も想定してリュックにどんぐりを溜め込むトリシア。
 

森の探索を続けるうちに、段々と彼女の中に湧き出てくるサバイバル精神。
トリシアが肺炎にかかって身体がズタボロになりつつある辺りから、急激にタフネスに変貌して行くんだ。強え。強えぞトリシア。
彼女の守り神はトム・ゴードン。レッドソックス試合がラジオで流れるときだけ、電池残量を充分に充分に気にしながら、実況に耳をかたむけて。
やがて森の中に浮かび出てくる幻のトム・ゴードン。幻の彼と対話をしながら、森を抜けて。崖を越えて。
 

で、まあ、本日は『北海道の男の子が助かってよかったね記念』なので、結末は皆様ご想像の通り。
彼女は救出され、トリシアのリリーフでゲーム・セットを迎えます。
 

どうやって助かったのかとか、森の影でずっと気配を感じていた“何か”とは何だったのかは、説明を割愛。
気になる方は実際に小説をお読みなさいませ。
 

でも正直、この話において“何か”の正体なんてどーでも良いよ。
トリシアも、北海道の男の子も、生きるというゲームに勝利したということです。
それが一番素晴しい結末じゃないですか。

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