ハーイ、あたし、マリー・アントワネット。もうすぐ政略結婚する予定www 1770年1月1日、未来のフランス王妃は日記を綴り始めた。オーストリアを離れても嫁ぎ先へ連れてゆける唯一の友として。冷淡な夫、厳格な教育係、衆人環視の初夜…。サービス精神旺盛なアントワネットにもフランスはアウェイすぎた―。時代も国籍も身分も違う彼女に共感が止まらない、衝撃的な日記小説!
(「BOOK」データベースより)
いやー面白かった。これ本気で面白かったわ。
表紙のイラストと取っつきの文章で敬遠している諸氏よ、騙されたと思って読んでみ?このトワネットちゃん、マジパネェからwww
トワネットちゃんオワタ\(^o^)/
「ベルサイユのばら」を読んでフランス革命を知った女子は多いかと存じます。かく言う私もそのひとり。
私の元同僚は「ベルばら」をきっかけにして大学の史学科(フランス史)に進み、最初の授業で『オスカルは実在しないので勘違いしないように』と言われショックを受けたそうな。
とはいえ、ベルばらの連載開始は1972年だからなあ。リアルタイムでマーガレット読んでた世代はアラフィフ~アラカンですよ。
時代にあわせてリニューアルということで、平成→令和のギャル(既にしてその呼び方が古い)にマッチする、Newマリー・アントワネットを登場させてみる?
というのも、前々からお母さまに日記を書くよう勧められてたんだけど、どうにも長続きしないので困ってたのです。そしたらこないだの夜会で、「日記帳に名前をつけて、古くからのお友だちに話しかけるように書くといい」的なことをだれかが話してて、なるほどそれならあたしにもできそうだなと思い、さっそく実行に移すことにしたってわけ。これぞライフハックってやつだよね。
この小説「マリー・アントワネットの日記(Rose・Bleu)」は、かの有名な悲劇の王妃マリー・アントワネットが嫁入り前から死刑直前までの日記の体で書かれています。
え?なんだかおかしいぞって?18世紀のおフランスでは“ライフハック”なんて言わないんじゃないかって?
いや、それどころじゃないよ平成版(令和版?)のマリー・アントワネットは。
風営法クソうざってかんじじゃん?
とか。
「ハイ、喜んでー!」
意識高い系居酒屋のバイトリーダーかよってぐらい威勢のいい声で返事しちゃったわよ。
とか。
さすがの慧眼というかなんというか……母マジパネエというよりほかに言葉が見つかりません。
とか。
男子が「男になる」のは社会的に一人前と認められたときで、女子が「女になる」のは出産の準備がととのったとき。なんだそれ。飲み込めない。激安焼肉チェーン店のゴムみたいな牛ホルモンより飲み込めない。
とか。
これぞハプスブルク家に代々伝わる「家柄マウンティング」でございます
ちょwwwパワーワードが多すぎるwww
正直、読み始めた最初の数ページは「なんだこれ、昔流行ったケータイ小説か」とも思いましたが、30ページも読み進めた頃にはすっかりトワネットちゃん(マリー・アントワネットの愛称)に夢中。
新潮文庫の表紙もイカしてます。上巻Roseではトワネットちゃんスマホで自撮りしてるし、下巻Bleuではワイヤレスで音楽配信聴いてる。一体何の曲を…モーツァルトか…。
歴史好きな方も安心してください。ちゃんと監修が付いて、史実に基づいて書かれています。とはいっても参考文献のトップに記載されているのが「ベルサイユのばら(1~13巻)」ってところがキュートですね。うん、わかるよトリコ。その気持ちわかるwww
あたしを踏みとどまらせているのは夫への愛です。夫が愛妾を持つことを想像するだけで胸が張り裂けそうになるのに、逆のことをあたしがやれるわけがないではないですか!貞操を笑われることが、あたしにはなにより耐えがたいのです。
混乱してる?あたしもしてるからあなたの気持ちはよくわかるよ。あたしはA(さくら注:フェルセン)に恋してます。あたしの心には嵐が吹き荒れています。だけど、夫を愛してもいるのです。その気持ちに嘘はありません。
「マリー・アントワネットの日記」と「ベルサイユのばら」の違うところはいくつかありますが(オスカルアンドレはいないしね)中でも目立つのが、夫・ルイ16世の描き方。
「ベルばら」では内気でもっさりした、鈍重な役立たずとして描かれているルイ16世ですが、この本の中ではもうちょっとスリム、というかスマート、というか、知的で内省的な人物として描かれています。
ここでは誠実であること、飾らずにありのままの自分でいることは、愚直な野暮天とみなされ嘲笑の対象になります。そう、たとえばあたしの夫ルイ・オーギュスト王太子殿下などはその筆頭です。鏡の間を歩いていると、「錠前萌えのキモオタ」などと彼をバカにする声がいやでも耳に入ってきます。
だけど、どうしたわけか、あたしの目には王太子殿下がいちばん良いもののように映るんです。—(中略)—虚飾と欺瞞に満ちたこの伏魔殿でただ一人、信頼にたる人物が自分の夫であることがあたしはとてもうれしい。みんなが陰で彼を笑えば笑うほど、思いはいっそう募るようです。
—(中略)—
やだ、また殿下の話になってる!なんでもかんでも自担(脚注:アイドルグループのなかで、自分が応援しているメンバーのこと)に結びつけて語ろうとするなんてどこのドルオタだよってかんじだよね。でもたしかに、恋と呼ぶにはキモすぎる、愛と呼ぶにはウザすぎる、けれどその存在が生きていく上での道しるべになっている。こんな気持ちのことを人は「担当」と呼ぶのかもしれません。
「ベルばら」に馴染み深い層としては、つい池田理代子の画のイメージがついてまわりますが、こっちのルイ16世も慣れるとなかなか良いもんですよ。若いオナゴは一時期、腺病質な憂い顔のオトコにハマるもんだしね。
とはいえ『愛のない政略結婚』よりも『片思いの政略結婚』の方が、一緒に居てて、寂しいものでしょうけどね。
この国はとっくに終わっていた。もう何十年も前から終わりに向かってワルツを踊り続けていたのです。
「王になどなりたくなかった。王になりたいなどと、私は一度だって願ったことはなかったのだ」
一度だけ、陛下があたしの前で心情を吐露してくれたことがありました。いつもは亡霊のようにすうっと目の前を通りすぎて、触れたくても触れさせてもらえないのに。
で、まあ、いろいろありまして。結婚生活23年の間には、いろいろあります。
それで世界史の授業で皆さまがお勉強されたとおり、この先にはフランス革命が起きてマリー・アントワネットもルイ16世もギロチンで処刑されます。
『あたしがフランス王妃とかwwwウケるってかんじなんですけどー。』とか言っていたトワネットちゃんがこの先どうなるかは、皆さまご承知のとおりですが、さて、本当のところ、トワネットちゃんはどうなるか。というか、筆者吉川トリコはどう描くか。
午前十一時、死刑台への行進がはじまります。ひさしぶりに目にした遮るもののなにもない空はどこまでも高く晴れわたっています。—(中略)—彼らはいずれ自分たちの行いを恥じることになるでしょう。あたしは彼らに思い知らせてやりたいのです。あたしを辱めれば辱めるほど、尊厳を失うのは自分たちのほうなんだって。そのためにあたしは凛として前を向き、こんなことなどなんでもないのだとばらの蕾がほころぶような微笑を浮かべ、強く清く美しく非業の死を遂げるのです。これがフランス王妃の死にかたです!!……なーんてねっ。
開始30ページで私をとりこにしたトワネットちゃん、ラスト1ページまでブレない。
いや、あんたすげーよ。好きになったよマリー・アントワネット。