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高田郁「今朝の春―みをつくし料理帖」

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月に三度の『三方よしの日』、つる家では澪と助っ人の又次が作る料理が評判を呼び、繁盛していた。そんなある日、伊勢屋の美緒に大奥奉公の話が持ち上がり、澪は包丁使いの指南役を任されて―――(第一話『花嫁御寮』)。戯作者清右衛門が吉原のあさひ太夫を題材に戯作を書くことになった。少しずつ明らかになってゆくあさひ太夫こと野江の過去とは―――(第二話『友待つ雪』)。おりょうの旦那伊左三に浮気の疑惑が!? つる家の面々を巻き込んだ事の真相とは―――(第三話『寒紅』)。登龍楼との料理の競い合いを行うこととなったつる家。澪が生み出す渾身の料理は―――(第四話『今朝の春』)。全四話を収録した大好評シリーズ第四弾!!
(ハルキ文庫 巻末内容紹介より)

のんびり読んでる高田郁のみをつくしシリーズも4冊目。

澪ちゃんもお年頃の娘らしく、2作目の「花散らしの雨」で自覚した恋心も進捗の模様。

——とは言っても、澪ちゃんとオッサンの恋路が進んだわけではございません。結婚もしてないのに嫁姑争いの方が先んじてしまっております。
まったくよう…澪ちゃんもよう…ただでさえ小汚いオッサンで、さらに煩い姑付きの物件に手を出さなくてもよろしいんじゃなくって?

「この店に、浪士の風体で時折り現れる三十路の男がいますね?料理に煩く、粗野で皮肉な物言いをする男が」
「小松原さまのことでしょうか?」
澪が警戒しながら問い返すと、老女は驚いた顔で澪を見、そして、声を立てて笑い出した。
「そんな偽名を……。小松原は私の氏、先ほど話した父の家名ですよ。困ったひとだこと、そんな名を騙って」
—(中略)—
「あれは私の息子です」
澪の目が零れそうなほど見開かれたのを見て、老女は静かに頷いてみせた。
「詳しくは話さぬが、私が嫁した小野寺家は代々、恐れ多くも公方さまの召し上がるもの一切に、責めを負う立場にあるのです」
御膳奉行。
りうさんの話していた、御膳奉行様のことに違いない。

澪の働く「つる家」に到来された品のよろしげな奥様。
息子のオンナを品定め、かつ椿姫チックに別れさせようという狙いの元にやってまいりました。品、よろしかねーな。

私といたしましては、オッサン(小松原さま)の方でも澪ちゃんが気になっていたらしいという事実にびっくりですよ。そんな描写あったっけ?私の読解力が低すぎるのか。ラブ要素が薄すぎるのか。

奥様の到来により小松原さまの素性もわかり、それすなわち、身分違いの澪の恋の終わり。
まだ始まってすらいないのに。

ところで奥様に澪がお渡しした「ははきぎ」またの名を「じぶし」もひとつの名前は「ほうき草」の実は、現在では「とんぶり」と呼ばれているそうです。
あートンブリなのね!トンブリって下ごしらえ大変なのね!

湯が濁れば取り換えて、さらに煮る。自然に冷まして、そこから水に晒す。何度も水を替え、指先で揉むようにして皮を外す。

トンブリ農家さんも大変だ、と調べましたところ、現在ではトンブリの下ごしらえも手作業ではなく機械でやっているそうです。ビバハイテク。科学の勝利。工業化バンザイ。

私個人的には、澪のラブの行方よりも気になっている存在がございます。
そうよそう、澪の幼なじみ、かつ吉原でウワサの「幻の花魁あさひ太夫」の野江ちゃん。
とうとう彼女の過去と、現在の状況が判明いたしました。

水害の混乱?で記憶をうしない、そのドサクサで女衒に吉原に売り飛ばされた野江ちゃん。
通常ならば苦界で苦労して…というところですが、さすが“旭日昇天”の運勢の持ち主、通常の遊女とは一味違います。

“旭日昇天”の運気を分け与えてあげられるのかなんだか知らないけど、彼女は俗に言うアゲマンなんだってさ。彼女と床を共にした翌日には、商売繁盛まちがいなしだそうで。

そしてその恩恵にあずかろうという、いずれも江戸ではその名を知らぬものはいない御用商人が3人。3人ともが翁屋の楼主に四千両ずつの身請金を預けて、あさひ太夫を仮のお買い上げ。
あさひ太夫の年季が明けるときになったら、あさひ太夫が3人のうちの誰かを旦那に指名することになっているそうです。

年季が明けるまでは、3人の共同貸切状態。他に客を必要もなし、借財が増えることもない。
嬉しい話なんだかトンデモな話なんだか、よく分かりませんね。3人共同ってのも何だかなあですが、身請け金払えば年季もクソもないんじゃないの?どこぞのお屋敷に住まわせておいてあげても良いんじゃないの?吉原のしきたりってのは、いまいち謎ですね。

澪にそれを教えてくれたのは、戯作者(今でいう小説家ですかね)の清右衛門先生。
そして野江の窮状に胸を痛める澪ちゃんに。

清右衛門は、澪に向き直ると、事も無げに、
「あさひ太夫を、お前が身請けしてやれ」
と、言い放った。
「えっ」
澪は驚きのあまり、前のめりで畳に突っ伏しそうになる。清右衛門はそんな娘の動揺に構うこともなく、さらりとこう続けた。
「どのお大尽に身請けされるよりも、お前に身請けされることが、太夫にとっての一番の吉祥」
「そ、それは無理です」
おろおろと畳を這い、何とか座り直すと、震える声で言い募る。
「一万二千両……一万二千両です。私には、どう考えても無理です」

一万二千両が現代の日本でどのくらいの価値があるのかを調べました。

1両の貨幣価値については諸説あるようでございますが、日本銀行金融研究所貨幣博物館の見解では、賃金で考えれば30~40万、外食(蕎麦)代金では12~13万円、米量価では4万円に相当するそうです。
んーとりあえず平均をとって1両=17万円としてみよう。

17万円×12000両=2,040,000,000円也。

20億!20億ですよ清右衛門先生!そりゃ無理ですよ清右衛門先生!
そこらの娘がちょっとやそっと頑張ったからと言って、そうそう用意できるような金額ではありません。ユニクロの柳井社長ならともかく。

状況的にはかなり絶望的ですが、はたして澪ちゃんが幼なじみの野江ちゃんを救える日は来るのでしょうか。ほぼ無理ゲーな話ではございますけどね。高田郁マジックははたして起きるのでしょうか。

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