ぼくの飼っている猫のピートは、冬になるときまって夏への扉を探しはじめる。家にあるいくつものドアのどれかひとつが、夏に通じていると固く信じているのだ。1970年12月3日、かくいうぼくも、夏への扉を探していた。最愛の恋人に裏切られ、生命から二番目に大切な発明までだましとられたぼくの心は、12月の空同様に凍てついていたのだ。そんな時、「冷凍睡眠保険」のネオンサインにひきよせられて…永遠の名作。
(「BOOK」データベースより)
そしてもちろん、僕はピートの肩を持つ。
上記は「夏への扉」の、SF好きには有名なラストの一文。
現在発売されている新訳バージョンではこの部分が『そう、ピートが正しいのだとぼくは思う。』と訳されております。
旧訳のラスト文章があまりにも周知(狭いSF界において)されてしまったために、つい違和感を感じてしまう新訳バージョンですが、なかなか新訳も捨てたもんじゃないです。映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」的な軽やかな雰囲気で、SFというよりも青春小説のような味わいさえ帯びてくる。
むかーし昔に旧訳を読んだきりの(私のように)人が居たら、改めて新訳バージョンを読んでみることをおすすめします。
「あれっ?こんな話だったっけ?『夏への扉』って、こんなに面白かったっけ?」と、再認識できること請け合いです。そう、私のように。
「夏への扉」は、どうやら猫好きの人の間では“猫が登場する必見小説”という定評があるらしいですが。
そうかなあ?確かに飼い猫のピートは登場しますが、正直ネコはおまけです。猫大好きフリスキーなお方がお望みの際には、もっと別の猫まみれな本を紹介いたしましてよ。
で、「夏への扉」。
ざっくり言っちゃえば、内容はそのまま「バック・トゥ・ザ・フューチャー」とお考え下さい。あまりにもざっくり過ぎますかね?
主人公が1970年から冷凍睡眠(コールド・スリープ)技術で2000年の未来に飛んで、タイムマシンで再び1970年に飛んで、も一回コールド・スリープで2000年に飛ぶ。
1970年~2000年の三十年間をいったりきたりする間に主人公がなんだかんだと冒険をして、最終的には全て上手く行った2000年でハッピハッピハッピー♪(byまいんちゃん)という話です。うーん、ざっくり説明。
コールドスリープやらタイムマシンだけでも充分にSFチックですが「夏への扉」ではそれ以外にもSF的道具立ては沢山用意されています。
万能執事型ロボットとか、重力の制御に成功とか、不老不死(に近い)とか、クロネコヤマト大喜びの家庭向け配送チューブとか(商売あがったりだからヤマト運輸は喜ばないかも?)
すげーな2000年!今から17年前にハインラインの世界ではこんなに進化しちゃうのか!とびっくりですが、そもそも1970年には冷凍睡眠技術が実用化されている設定ですからね。あっちの未来とこっちの未来は違うのよ。
しかしねえ、すげーな2000年!の一番の“すげー”は何かと言いますと、なんと2000年の時代には風邪が撲滅されているんですよ皆さん!
これってロボットよりもタイムマシンよりも凄い成果じゃない?行けるものならば今すぐにでも2000年の未来に(過去に?)行きたいわ。
風邪、辛いじゃん。ズビ。
(※タイムトラベルを)するというなら、過去より未来へ行けとすすめるだろう。“過去へ行く”のは緊急の場合にかぎる。未来は過去よりよいものだ。悲観論者やロマンティストや、反主知主義者がいるにせよ、この世界は徐々によりよきものへと成長している、なぜなら、環境に心を砕く人間の精神というものが、この世界をよりよきものにしているからだ。両の手で……道具で……常識と科学と工業技術で。
主人公のダンがコールドスリープやタイムトラベルを何故することになったのか、とか、三十年間の行き来の間にした冒険とは、とか。
まあ、そこらへんはほどほどに。
『未来は過去より素晴しい』と、肯定的で前向きな主人公が、幸せを手にする小説ってだけで充分です。
気になる人は「夏への扉(新訳バージョン)」をお読み頂くか、もしくはマーティ・マクフライの活躍をご覧になって頂ければ宜しいと思いますのよ。
ざっくりブン投げでごめんなさいね。私、ちょっとこれから出かけなければなりませんの。
猫のピートと一緒に、早く夏への扉を開けなくちゃ。
風邪の無い世界への扉は、どこだ。