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井上夢人「風が吹いたら桶屋がもうかる」

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牛丼屋でアルバイトをするシュンペイにはフリーターのヨーノスケと、パチプロ並の腕を持つイッカクという同居人がいる。ヨーノスケはまだ開発途上だが超能力者である。その噂を聞きつけ、なぜか美女たちが次々と事件解決の相談に訪れる。ミステリ小説ファンのイッカクの論理的な推理をしり目に、ヨーノスケの能力は、鮮やかにしかも意外な真相を導き出す。
(「BOOK」データベースより)

風が吹いたらほこりが舞って
目の見えぬ人ばかりふえたなら
あんま志願が数千人
品切れ三味線増産体制
哀れな猫の大量虐殺
ふえたネズミは風呂桶かじり
とどのつまりは桶屋がもうかる

よく言われるロジック“風が吹いたら桶屋が儲かる”は、上記フローに基づき因果関係の説明をしています。
「どうして風が吹くと桶屋が儲かるの?」と長年謎だった人ー。
良かったですねー。井上夢人さんのお陰で、ひとつお利口さんになりましたねー。
かくいう私も、その一人ですけど。
 

“風が吹いたら…”ロジックは、この短編集「風が吹いたら桶屋がもうかる」の各短編のタイトルになっています。
では各短編のタイトルは、果たして当該短編の内容に即しているのかといえば…実のところ、全く関連性はありません(笑)
 

全体を通して言えば、それなりには関連があるような、ないような。
深く考えないで。オトナの洒落みたいなもんです。第2期サディスティック・ミカ・バンドのボーカルオーディションに水着審査があったくらいの、大人オジサンの洒落。
そんな軽い洒落っ気に溢れたSFミステリ?が、この「風が吹いたら桶屋がもうかる」です。

先程SFミステリと称したのは、小説の登場人物ヨーノスケくんが超能力者だからです。
超能力!とはいっても、主人公のシュンペイくん曰く『低能力』
能力ってーものは確かにあるっつっちゃあるんだけど、実際の生活では全く役に立たない。ので低能力。
ラーメン食べるために割り箸を念力で割ろうにも、割るのに30分かかったら役にはたたないでしょ?

こう言ってはナンだが、連中はどうしてヨーノスケの超能力を頼ろうとするのだろう?僕に言わせりゃ、奴の《力》くらい頼りにならないものはないのだ。
—(中略)—物を動かすなら手を使えばいいし、箱の中身を知りたければフタを取ってみればいいのだ。そのほうがずっと手間もかからない。テレビのスイッチを入れるというたったそれだけのことでも、ヨーノスケは十キロを全力疾走したほどの汗をかいてしまう。これが当たり前の人間なら、リモコンのボタンを押すだけ。煎餅をかじりながらだってできるじゃないか。
そのあたりを、彼らはわかっていない。

「風が吹いたら桶屋がもうかる」は、各短編とも超能力者ヨーノスケくんを頼って女性客が現れる形式となります。
上記の文章で想像される通り、かなーり、ゆるい小説です。ゆるっゆるですわ!
超能力者ヨーノスケくんもゆるゆる、探偵役?のイッカク氏もゆるゆる、語り部であるシュンペイくんも、エッジが効いたお方とは到底申せませぬ。
のびーんと、だらーんと、ゆるゆるーんと、倉庫の中で交わされる会話は、各短編とも流れが統一された水戸黄門的様式美です。
 

水戸黄門的様式美:旅の途中で人と出会う→その人がトラブルに巻き込まれる→悪代官の仕業だと突きとめる→由美かおるが入浴する→悪代官と黄門様ご一行の立ち回り→印籠でははーっ→黄門様再び旅立つ→うっかり八兵衛が追いかける
 

風が吹いたら桶屋がもうかる的様式美:倉庫を訪問した女性が謎を提示する→イッカクが論理的演繹により華麗なる推理を繰り広げる→次回の女性客訪問により、イッカク推理が間違っていたことが判明する→全てが解決した後で、ヨーノスケが超能力で正解を言う
 

つまり、このブログ記事一番上でも引用した、書籍内容紹介で『ヨーノスケの能力は、鮮やかにしかも意外な真相を導き出す。』ですが。
導き出された真実、それは皆『知ってるよ!』だったりする訳で。
 

お茶の間で水戸黄門を観るみたいに、ゆるゆる~っと、煎餅かじりながらお楽しみくださいませ。

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