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今野敏「隠蔽捜査」

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竜崎伸也は、警察官僚である。現在は警察庁長官官房でマスコミ対策を担っている。その朴念仁ぶりに、周囲は“変人”という称号を与えた。だが彼はこう考えていた。エリートは、国家を守るため、身を捧げるべきだ。私はそれに従って生きているにすぎない、と。組織を揺るがす連続殺人事件に、竜崎は真正面から対決してゆく。警察小説の歴史を変えた、吉川英治文学新人賞受賞作。
(「BOOK」データベースより)

現役受験で、邦彦は有名私立大学に合格した。だが、竜崎は入学を認めず浪人することを勧めた。
竜崎にとって東大以外は大学ではない。

上記の引用は「隠蔽捜査」の主人公 竜崎伸也が、息子について語る一節。

やなヤツでしょお~?!

警察庁の長官官房総務課長。いわゆるキャリア官僚って人です。息子に対してだけでなく他の家族、周囲に対してもエリート意識と競争意識がプンプン。なにキャリア官僚って皆が皆こんなタイプなの?

上司や同期の出身大学を脳裏に浮かべては「あいつは私大出だから格下だ」「京大出だからやる気がない」「東大出の上司はプロフィールとしては最適だ」

あーあーあー、先日のブログ「オトナの学歴図鑑」に書いた、知人がヒヨッコ弁護士から初対面で学歴を聞かれたのは、こういう意識下から発生した質問なのね。胸糞悪いというか、背中が痒いというか。

この小説の読み始めは、主人公のエリート臭により、読むのが非常に苦痛です。

これから読む人にも予め警告しておきましょう。

おそらく大多数の人にとっては「隠蔽捜査」は読み初めに苦痛を伴う。覚悟しておくように。

じゃあ、その後はどうなるのかな?

すべてが終わったのだ。
小学校のときから、一所懸命勉強をして東大に入り、そして国家公務員甲種試験に合格した。希望通りキャリア警察官となり、警察庁長官官房の総務課長にまで出世の階段を昇ってきた。
だが、それがすべて終わる。これまでの苦労が一瞬にして無駄になる。
これからどうすればいいんだ。
ただ茫然とするだけだった。

エリート官僚の生活にまさかの激震!

浪人中の一人息子が、自室でヘロインを吸引していた現場を発見。未成年とはいえ麻薬は立派な犯罪。ダメ。ゼッタイ。息子が警察に捕まれば、その先の出世競争に影響が出ることは必至。いや出世云々よりも、身内が犯罪者になったら警察クビになっちゃう可能性も?!

堅牢な筈だった足元がガラガラと崩れゆく気持ちになった竜崎と呼応するように、警視庁では今現在捜査中の連続殺人事件で、なんと現職の警察官に容疑がかかっていると!

警察官とはいえ殺人は立派な犯罪。ダメ。ゼッタイ。警察官が警察に捕まれば、警察の威信に影響が出ることは必至。いや威信云々よりも、身内が犯罪者になったら警察自体が無用化されてしまう可能性も?!

多方面から一気に、あちらもこちらもまあ大変。

エリート臭プンプンの竜崎課長が絶体絶命の危機に陥り、読者の溜飲も下がるかしら。
天網恢恢祖にして漏らさず、って気持ちになるかしら。

それがどうして、そうじゃないんだなあ。

「だって、そうじゃないか。いいか?例えば、プロのスポーツ選手になる者はごく限られている。それは才能や体格に恵まれなければならない。音楽の世界でもそうだろう。努力だけでは越えられないものがある。だが、学校の成績というのは、ちゃんと努力すればそれがそのまま報われる世界なんだ」
「勉強をできる才能というものもあると思うけど……?—(中略)—」
「わからんな。俺は、勉強というものはやればやれるほどできるようになるものだと思って、実際にそれを実行してきただけだ。成績が悪いことの理由など考えたこともなかった」
「あなた、本当に友達いないでしょ」
「いないが、それがどうかしたか?」

上記は小説中盤に出てくる竜崎夫妻の会話ですが、これを読んで未だに、竜崎のエリート臭を感じるか。

竜崎の意識に全く変化はないのですが、読者の中に湧き出てくるのは、竜崎の高慢さというよりも愚直さです。

小学校でいじめを受けたガリ勉くんが、持ち上がり公立中学校へ進学するのを避けて中高一貫進学校に入り、そのまま努力を怠ることなくトップ成績を維持し、国の中枢となるキャリア官僚となるべく国家公務員甲種試験の猛勉強をして、首尾よく入所後も仕事の権限を増やすべく出世の道を探る。

官僚の世界で出世がなぜ大切かというと、それだけ権限が増えるからだ。平ではできないことが、係長ならできる。係長ではできないことが、課長補佐ならできる……。そういうことだ。

どうして仕事の権限を増やしたいのかと問われれば『国に奉仕する者は国を健全かつ有用になる為に最大限努力しなければならないから』生真面目というか堅ブツというか。いや、竜崎さんに関してはやはり愚直という形容が、ぴったりではありませんか?

で、まあそんな竜崎さんですから、息子と警視庁のダブルアタックの処遇については非常に悩めるところであります。

周囲からは秘かにもみ消せという助言(もしくは圧力)を受け、竜崎自身の中でも天使と悪魔が両側から囁き続けます。

愚直なまでに正しい道を進む竜崎が、果たしてどんな結論を出したのか。

こうして戦いは始まった。だが、竜崎にとっては慣れた戦いだ。そして、危機管理は官僚の腕の見せ所なのだ。総務課はエリート中のエリートの集まりだと、竜崎は自負している。乗り越えられない危機などない。そう信じていた。

戦いの結果、どうなったか。それは読んでのお楽しみ。

「隠蔽捜査」を読んだ後に、これがシリーズ化されていることを知りました。ついでにドラマにもなっていたらしい。

久しぶりに面白げなシリーズを発掘して、ちょいとこの先が楽しみな、さくらです。

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