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石持浅海「君の望む死に方」

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余命六カ月―ガン告知を受けたソル電機社長の日向は、社員の梶間に、自分を殺させる最期を選んだ。日向には、創業仲間だった梶間の父親を殺した過去があったのだ。梶間を殺人犯にさせない形で殺人を実行させるために、幹部候補を対象にした研修を準備する日向。彼の思惑通りに進むかに見えた時、ゲストに招いた女性・碓氷優佳の恐るべき推理が、計画を狂わせ始めた…。
(「BOOK」データベースより)

「扉は閉ざされたまま」で、まんまと石持浅海ワールドにハマった我が娘。
特に優佳ちゃん。あの後の、優佳と伏見の行く末が気になるらしい。
 

『優佳ちゃんのシリーズ他にもあるよ』と差し出した本に、イソイソと手を出した娘でありました。
 

今回の舞台は熱海の保養所。とはいえ、そこは石持ワールド。場所が熱海ってだけで、いつもの通り登場人物は建物内をウロウロするのみ。
貫一とお宮の松とか、MOA美術館を観光したりはしませんよ。探偵が名所観光はじめたら西村京太郎か火曜ワイドサスペンスになっちゃうからね。
 

主人公は大手企業ソル電機の創業者、日向さん。
膵臓ガンで自分の死期を知った日向さんは、どうせ死ぬならヒトサマのお役にたちたいと、彼に恨みを持つ若者に自分を殺されてあげようと考えます。
どうせ死ぬなら臓器移植!みたいな、MOTTAINAI精神にあふれた義侠心のあるお方ですね。
そういえば全く個人的な思い出話になりますが、かつて我が母が死去した際『どうせ焼くなら角膜と腎臓もってって』と病院に申し出たのですが、ガン患者の臓器はリスク高のため移植できないと断られてしまいました。
もったいないから使ってもらおうと、家族みんな思ったんだけどねえ。残念だわ。
 

さて、彼に恨みを持つ若者はというと。ソル電機の若手エリート社員の梶間くん。
梶間くんがどうして社長を恨んでいるのかというのは、ストーリー的にはどうでも良いから放っといて。
ともかく梶間くんは、日向社長を殺したい。
そして諸々の事情により、日向さんにとっても梶間くんにとっても、殺害のチャンスは熱海の保養所にしかない。
正に『いつやるの?今でしょ!』by林先生状態。
 

殺したい犯人と、殺して欲しい被害者。
需要と供給がマッチした、経済学的には非常にベストな殺人であるのに、またあの、イジワルな優佳ちゃんが邪魔をするんだ。

優佳ちゃんがやってるイジワルは、実はたいした事じゃありません。
 

花瓶にお花を活けたり。
窓を閉めたり。
談話室でニュースを見たり。
保養所で知り合った人と、海外の話をしたり。
椅子を動かしたり。
台所で物を床に落としたり。
 

それが、すっげーイジワル。
 

犯人志願も被害者志願も、どちらも殺し殺されようと努力しているというのに、碓氷優佳!お前は、また邪魔をするのか!
 

「扉は閉ざされたまま」で殺人者の伏見を応援していた時のように、読者の胸に再び松岡修三が憑依する。
日向社長、頑張れ!梶間くん、頑張れ!
碓氷優佳に負けるな!
 

で、どうなったのかというと。
負けますよ、もちろん。だって碓氷優佳だもん。しょうがないじゃないですか。

「日向さん。あなたが死ぬのは勝手です。自殺しようと、梶間さんに殺されようと、好きにすればいい。でもそれは、わたしのいないところでやってください!」

しょうがないよねえ。
優佳ちゃんを保養所に招待してしまった日向社長が悪いんだ。
殺したい犯人と、殺して欲しい被害者は、首尾よく目的を果たせるのか。それはこれからの、ふたりの努力にかかってる。
日向さん、梶間くん、ファイト☆

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