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山本周五郎「髪かざり」

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太平洋戦争中から終戦直後にかけて、著者は“日本婦道記”と題した短編を発表し続けた。初期の代表作となったこのシリーズには、未曾有の非常時にあって、古来、戦場の男たちを陰で支え続けてきた日本の妻や母たちの、夫も気づかないところに表われる美質を掘起こしたいとの願いが込められていた。本書には、『忍緒』や『二粒の飴』など、文庫未収録の本シリーズ作品のすべて、17編を収録。
(「BOOK」データベースより)

この「髪かざり」は、前回ブログでとりあげた「小説日本婦道記」のお仲間本という位置合いにあります。
もともとは作者 山本周五郎が“日本婦道記シリーズ”として雑誌に発表していたシリーズもので、幾たびか書籍化されるにあたっては、シリーズの短編が色々とごっちゃになって収録されています。
最初の本では、あっちが入ってこっちは入らず。次の刊行では、こっちが入ってあっちが入らず…と、もう一体どこからどこまでが正しい婦道記なのよもう、と愛読者を混乱させる出版社の思惑。
 

で、昭和33年。「日本婦道記」が新潮社から出版されるにあたり。
周五郎ちゃんは婦道記全シリーズの中から11篇をチョイス。「これをもって日本婦道記の定本とする」と決定しました。
 

つまり、この「髪かざり」は、婦道記シリーズの選に漏れた、要は“余りモノ”となります。
 

…ちょっと待てーーーーい!
あいやしばらく、あいやしばらく!

 

余りモノ?とんでもない。
定本から洩れたから「髪かざり」は「小説日本婦道記」に劣るって?そんな即断したら後悔しまっせ。
互いに負けず劣らず、ええのや。ええのやでえ。

「髪かざり」のどの話を取っても、じんわり胸にくる話なのですが、今回は昨年の大河ドラマ「真田丸」に関連したお話など。
 

「真田丸」の後半、吉田羊さん演じる真田信之の妻・小松が沼田城で真田昌幸&信繁親子を追い返すシーンがありました。
犬伏の別れのすぐ後ね。
 

で、「髪かざり」に収録されている短編『忍緒』は、そのエピソードを小松姫(松子)の側から見た話が書かれています。
ドラマの中では勇ましく甲冑を着けて槍持ってましたが、周五郎ちゃんの方は別説に則り、昌幸&信繁とは直接対決は致しておりません。
 

この松子がね~!いいのよお~!
妻の役目と、嫁の情でよろよろと心が揺れながら、最終的に義理家族を追い返す決断に至るまでの気持ちが。

拒むべきだ、それが留守をあずかる者のつとめだ、松子はついにそう思い切った。
まさしく忍緒を切った気持ちで、かの女は昌幸に返書をしたためた。そして刑部にそれを持たせてやると、しずかに眼をつむり、心で合掌しながら詫びた。…孫たちはお逢いしたがっております。わたくしも一夜お伽をつかまつりとうございます。けれどもそれがかないませぬ、どうぞおゆるし下さいまし。

あ、ちなみに“忍緒を切る”というのは、兜を結んだ余りの紐を切るということ。討死覚悟で出陣する際に、二度と結びなおさないという決意のほどが現れているそうです。豆知識。
 

そして翌朝、真田昌幸&信繁親子が去っていくのを沼田城の矢倉の上から、つきあげる涙を隠し隠して子供たちと眺める姿も、ぐっとハートをわし掴み。

「さあ、おじぎをなさい、おじいさまが御無事で上田にお帰りあそばすように」
だがこれでつとめが終わったのではない、良人が帰るまでにはもっと苦しい悲しいことがあるであろう、これはその初めの僅かな一齣にすぎないのだ。松子はおのれの心をひきしめるようにそう思い、しずかに、泪を押しぬぐいつつ額をあげた。

ええのう。
健気やのう。ええのう。
 

個人的に言えば、わたくし戦国時代を題材とした小説ってあんまり好みではないもので、この『忍緒』もさして心に留まっていない一編でした。
「真田丸」を観てはじめて「ああ、そういえば忍緒って吉田羊の話じゃん!」と読み返した私です。
さあ、君たちも是非。真田ロスを解消するには周五郎ちゃんで。リハビリよ、リハビリ。

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