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伊坂幸太郎「死神の精度」

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CDショップに入りびたり、苗字が町や市の名前であり、受け答えが微妙にずれていて、素手で他人に触ろうとしない―そんな人物が身近に現れたら、死神かもしれません。一週間の調査ののち、対象者の死に可否の判断をくだし、翌八日目に死は実行される。クールでどこか奇妙な死神・千葉が出会う六つの人生。
(「BOOK」データベースより)

「うそ」彼女ははしゃぐように笑う。「神様がいるなら、どうしてわたしを助けてくれないんですか」いくぶん大きくなった声は澄んでいて、私はおや、と思った。一瞬、とても美しい声に聞こえたのだ。「でも、神様はどういう基準で、死ぬ人を決めるんですか?」
「それは俺も分からない」正直に答えた。実際のところ、どういう基準を持って、どういう方針に沿って、対象の人間を選び出しているのかは、私にも分からない。部署が違う。私はその部署の指示に基づいて、仕事をするにすぎない。

死神のお仕事も、いまや分業制。
対象人物をチョイスするのは、選定部署のお仕事。
実際に死に至らしめるのは、多分他の部署のお仕事。
「死神の精度」の主人公 千葉さんが属する部署は、対象となった人物に接触し、対象人物の死を『可』か『見送り』かを見極める、調査部門を担当しています。
 

いくら死神とは言え、いまどき黒いマントに大鎌担ぐのは時代錯誤も甚だしいですね。
だから千葉さんをはじめとして、死神の皆さんは普通の人の格好をしています。調査ごとに顔立ちなどの外観も変化させることが出来るから便利ー。若い娘さん向けにはイケメンの派遣も可。お得ー。

私の仕事は、七日間、藤田を観察し、話を聞き、その結果、彼が死ぬべきかどうかを報告するだけだ。極端な話で言えば、藤田に会わずに、報告することもできた。報告を「可」としておけば、問題がない。私の同僚の中には、ろくろく調査せずに報告する者も多い。
ただ、私は真面目に仕事をこなすタイプだった。律儀と言うか、こだわりを持っていて、やるべきことはやる。だから、面倒臭い手続きを踏んでも、藤田に会いに行く。そういうわけだ。

千葉さん程までに真面目にやらなくっても、テキトーに手を抜いて形だけ作ればそこそこのお給料(?)が貰える、結構ヌルい職場環境のようです。
出張は多めですが。対人スキルも、ある程度きちんとこなそうと思えば必要ですが。現場での裁量は柔軟性かなりあります。
学歴不問。性別不問。年齢不問。経験および資格は不要ですが、ご応募の際は“神様”であることが条件となります。
転職ご希望の方、ご参考に。

ああ、死んじゃいたい。頬をテーブルにくっつけた彼女が、寝言のように、呟くのが聞こえてきた。「明日にでも死んじゃいたい」
私たちが調査している間は、相手の人間が死ぬことはない。自殺や病死は死神の管轄外であるため、それがいつ起きるのか私たちにはまったく分からないのだが、それでも、調査期間中に発生することはない。だから私は、「残念ながらまだ死ねないんだ」と彼女に対して、少し申し訳ない気持ちにもなる。

「死神の精度」で何が楽しいかって、主人公の千葉さんが可愛い!
雨男でいつも傘を持ち、“ミュージック”(クラシックでもロックでもポップスでも、カラオケを除く音楽全般)を偏愛し、道路渋滞を憎み、とりあえず分からない単語については躊躇無く聞いてみる。『旅行とは、どういう行動のことを指すんだ?』
旅行とは観光したり宿泊したりする行動のことである、という回答を対象者から得た千葉さん『それなら、宿泊しよう』と“旅行”を実践。
疑問→確認→解決→実践。千葉さんビジネススキル高いですね!
しかしまあ『旅行とは…』なんて質問を大真面目に聞いちゃうもんだから、普通の人との会話は妙なズレがあって、それがとてもプリティです。
 

そんな千葉さんが6人の対象者の調査を行って『可』にしたり『見送り』にしたりする各短編は、それぞれ独立したストーリになってはおりますが、
最後の短編『死神対老女』では、過去の対象者に関するエピソードがぐるっとカムバックサーモン(by宝酒造)してきます。
ほら、伊坂さん伏線回収好きだから。お得意だから。
最後に「えーっ?」とびっくりして、もう一回最初から読み直すのが、伊坂幸太郎のお約束。
 

「死神の精度」には、もひとつ最後にちょっとしたびっくりがオマケでありまして、ストーリー的には全く関係ありませんが、ちょっと素敵なびっくりです。
千葉さん…可愛いなあ、もう。

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