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スティーブン・アルパート「吾輩はガイジンである。―ジブリを世界に売った男」

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『千と千尋の神隠し』アカデミー賞受賞の陰に,この男の活躍あり.世界中の配給会社を駆け巡り,『もののけ姫』の翻訳に目を光らせ,旅行嫌いの宮崎駿を連れて欧米の宣伝ツアーを回る.ガイジンでありながら,誰よりもジブリ映画の「日本らしさ」のために戦い,海外に売り広めた人物の,ユーモア溢れる回想記.
(岩波書店 内容紹介より)

「これ、面白いよ~!」

と、この本を読み終わった知人T氏が貸してくれました。

他人の書籍チョイスって、なかなか興味深いです。自分では手に取らないような類の本と出会えるチャンスがある。

宮崎駿さん率いる(のかな)スタジオジブリで、宮崎駿作品を海外に輸出するお仕事を請け負ったスティーブン・アルパートさん。アメリカ人の、自称するとおり“ガイジン”です。

ちなみにスティーブンさんのご尊顔を拝見したい方は、書籍にも顔写真が掲載されてはおりますが、それよりもジブリの『風立ちぬ』を観ると良さそう。登場する謎めいたドイツ人のカストルプさんは、彼がモデルになっているそうです。

現在は既にアメリカに帰国されていらっしゃいますが、長年日本で暮らしていました。だからこの本は“ガイジン”の目から見た日本のカルチャーギャップを紹介するような内容じゃない。

日本国内でも、結構特殊な産業(なのかな)の、結構特殊な性格の人々(なのかな)の中で、結構苦労して日本と諸外国の文化の橋渡し(だな)を行った日々を綴った、本です(その通り!)

一九九六年一〇月から二〇一一年一二月までの一五年間、スタジオジブリの海外事業部を預かり、ジブリ作品を海外に配給する仕事をしてきました。当初、日本はもとより世界的にも映画評論家やファンの間で高い評価を得ていたジブリ作品のこと、この仕事はそんなに困難ではないだろうと高をくくっていました。ところが、その予想は見事に裏切られたのです。それで私の経験を通して、なぜ、どんなことが困難だったのかを書き留めておきたかったのが、この本の発端です。
(あとがきより引用)

知人T氏の感想のとおり、これ、結構面白い。前半は主に米ディズニー(当時はミラマックス)との契約と、当時日本で公開されたばかりの『もののけ姫』をディズニー&ピクサーがアメリカ版の翻訳をする過程が書かれていますが、日本とアメリカの文化の違いが真っ向からぶつかりあっています。

しかしそうは問屋が卸さなかった。まず、われわれが問題になるとは想像さえしなかった作品についても、アメリカ国内配給部門は難癖をつけてきた。『天空の城ラピュタ』では、少年が銃撃されるシーンをアメリカの子どもには見せられない。『となりのトトロ』では、父親が裸になり娘たちと風呂に入る場面をアメリカでは上映できない。『平成狸合戦ぽんぽこ』では、なんとタヌキたちが陰嚢を使って魔術を行う。子どもに動物の陰嚢を見せるわけにはいかない。『風の谷のナウシカ』では主人公が飛んでいるときお尻が見える場面があり、それはまずい。『おもひでぽろぽろ』では少女が初潮の話をする。それを子どもに見せるわけにはいかない。女の子はまだしも男の子にはまずい、といった具合だ。

ジブリアニメ……実はダーティーでアダルティー……!

そして、ディズニー国際部門のトップであるマイケル・O・ジョンソン氏(以下MOJ)に『もののけ姫』のプレゼンをしに行った時には。

人間の腕が切断され、矢が貫通して頭が吹っ飛ぶ、巨大なイノシシの体がどろどろとくずれ、きゃしゃなヒロインが口の周りの血を手でふき取るといった場面が映しだされた。ホールの照明がついたとき、MOJは言葉を失い、顔面蒼白だった。

んー、そうね。ディズニープリンセスはお口の周りに血をつけたことないわね。「子供に夢と希望を与える」が基本スタンスのディズニーアニメとは、全く以って正反対という気が致します。

そこでスティーブンさん。約一ヵ月後の再訪の際には、ちょっとひねりワザを見せました。

再編集したプレゼン用の予告編を、少々編集したのです。

そこには「あの子を解き放て、あの子は人間だぞ」という台詞があらたに入っていた。これは好ましい追加と思われた。MOJはヒーローのアシタカがヒロインのサンを助けているのだと解釈した。ほんとうはそうではなかったがわれわれは否定しなかった。サンがアシタカの上にかがみ込み、キスしているかのように見える場面があった。すばらしい、ロマンスもある、とMOJは言った。われわれは、それがキスではないとは言わなかった。—(中略)—しかしMOJは喜び、われわれは彼の喜びに水を差すつもりはなかった。映画が公開された後に真実を知ればいいと思ったのだ。そして彼がそれを知ったときには、『もののけ姫』は日本の興行成績をすべて塗りかえていた。歴史的な成功とそれに続く好意的な報道ほど、MOJの懸念を払拭するものはなかったのである。

無事契約がとれても一安心とはいかない。

英翻訳『もののけ姫』を制作するにあたっては、過剰なBGMの追加や台詞の変更、その他あの手この手を使って『THE・アメリカーン!プリンセス・モノノケ』調にしようとするミラマックス側の暴走を食い止めるためにンもう本当に大変。

日米の攻防戦に疲弊する最中にも、日本国内に新たな火種も呼んだりして。

ツアーのあとで、ジブリのアニメーターたちはピクサーの感想を聞かれた。みんなすごいと関心していた。その結果、アニメーターたちからジブリの設備を改めるアイデアがたくさん出て、それをリストにして鈴木さんに考慮してもらうことになった。
「みんなゆったりした空間で仕事をしています」と彼らは言った。「ジブリももう少し見習えないものですかね」
それを聞いて、鈴木さんはアニメーターたちを外国のアニメーションスタジオに連れていくのは、今回限りにしようと心に決めた。

いやあ、異文化交流って、大変ですねえ~。

「吾輩はガイジンである。―ジブリを世界に売った男」自体は、もののけ姫のあとも『千と千尋の神隠し』がアカデミー賞取るあたりの頃まで続きます。

後半戦もアカデミー賞をめぐるドタバタ?とか、海賊版の跋扈するアジア圏での売り込みの苦労とか、それぞれに面白く読めますが、でもやっぱり『プリンセス・モノノケ』騒動が一番面白いです。

ビジネス書ちっくに考えれば、日本製品を海外に輸出する際の問題点やなんだかんだ、グローバルなエリートサラリーマンにはご参考になる点も多々あろうかと存じます。なので迷いながらも、この本はビジネス書カテゴリに追加。

しかし、ビジネスにもグローバルに興味がない人でも、それすなわち読んでつまらないという話じゃない。

純粋に、すっげえ、面白い。

ヒトサマのおすすめする本って面白いですね。おそらく自分では手に取らなかったであろうオモロ本と、出会えるチャンスがある。

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