愛人宅から男が出てくるのを目撃した男は、怒りにまかせて彼女を殴った。翌日、謝りに行ってみると、家の前に救急車が止まって…。全く予想外な結末が待ち受ける「完全殺人」、おまけの勲章をもらうために、コーンフレイクの蓋集めに熱中する少年が、本物の勲章に辿りつくまでを描く「本物じゃない」など、著者の興味の広さと私生活をも垣間見させる、創意に満ちた12編を収録する。
(「BOOK」データベースより)
ニヤリ、クスリ、ふふふ。
ジェフリー・アーチャーの短編集は、スマートで軽く、ひねりのある面白いストーリーが詰まっています。
野球のボールで例えるならば、ド真ん中ストレートの剛速球ではなくカーブとかシンカーとかの変化球。
打席のバッターを惑わせるように、読者を惑わせて面白がる職人の技が光ります。
これまでいくつもの短編集を出版しているアーチャーさん。最初にどの本をご紹介いたそうか?と悩みますが、日本人の私としては、同胞日本人に捧げられたこの一冊をまずはチョイスしようかなと。
「辻井喬氏に捧げる」
上記は著者がこの本を捧げた献辞。
辻井喬さんって?本名は堤清二さん。そう、元セゾングループ代表のお方です。
この讃辞が描かれた経緯は不明ですが、本が出版された1988年(昭和63年)は日本ではバブル景気まっさかりで西武百貨店も勢いがありましたし、堤清二さんは実業家兼作家でもあるから、なんらかの親交はあったんでしょうね。
著者ノート
東京からトラムピントンへの旅の途中で編まれたこの十二編の短編中、十編は現実に起きた出来事にもとづくもので、それらにかなりの粉飾を施して味つけしてある。二編だけは純粋にわたしの想像力の産物である。
わたしにそれぞれの深い秘密を知ることを許してくれたすべての人々に、心から感謝する。
J.A,
一九八八年九月
著者ノートにある東京発の飛行機に乗る前に、献辞が書かれた何かがあったのかもしれません。
もしかしたら「十二の意外な結末」のエピソードを提供した10人の内の誰かが、辻井喬=堤清二だったのかしら?とも想像したりしなかったり。
1編だけ戦時中の日本人将校が出てくる話『ブルフロッグ大佐』がありますが、彼がサカタ大佐であることは年齢的に見てもありえないし…うーむ、謎めいた献辞だ。
しかしまあ、正直言って読者にとって、誰に捧げられた本かなんてどうでも良い話です。
読んで面白けりゃ、それで充分。
読んで面白いことは、間違いなく保証しますよ。
「十二の意外な結末」はタイトルに“意外な結末”とつけられている通り、どのストーリーも最後の一行でTwist!がかけられます。
『完全殺人』の発言者の台詞とかね。お前だったのかーい!
『クリスティーナ・ローゼンタール』の時間とかね。えっ、そうだったの?
『気のおけない友達』の独白者とかね。個人的にはこれが一番のTwist!ですかね。不二子ちゃん的セクシー女性かとニヤけてたのに騙された。
先ほど、日本人将校が登場すると話した『ブルフロッグ大佐』も、最後の二行でTwist!しますが、あのTwistいるかなあ。あのオチにする必要性を全く感じないんだけど。かえって感動を阻害するような。
とはいえ。
12本の短編それぞれ、最後のTwist!は野球の変化球のよう。
小気味良く、キュキュッと曲がった白球に、どうぞ惑わされてくださいませ。