日本ナイス・カップル大賞に輝いた新しい夫婦のかたち。読みはじめたら止まらないスケール大きな構成で綴る感動の物語。日本初の女性宇宙飛行士チアキちゃんと病理医の夫マキオちゃん夫婦が奏でる、ユーモアとペーソスあふれる愛の物語。そして誰も知らない宇宙飛行の訓練風景、乗組員家族との愉快な交流、アメリカ文化への新鮮なおどろき…。
(「BOOK」データベースより)
大西卓哉さんソユーズで頑張れ記念。
宇宙つながりで、今はもう飛ばなくなってしまったスペースシャトルに関する本をひとつ。
ところで、日本ナイス・カップル大賞?なんじゃそりゃ。
ほんのむし を書こうとして、はじめて向井夫妻が『日本ナイス・カップル大賞』の栄冠に輝いていることを知りました。
同じ1994年に同賞を受賞したのは小柳ルミ子・大澄賢也夫妻、そして野村克也・沙知代夫妻。
ななな何だかなぁ~。
作者の向井万起男さんは、日本人女性初の宇宙飛行士、スペースシャトルに乗った向井千秋さんです。
向井千秋ブーム?の最中、ご主人が執筆された本として当時話題になりました。
さくらも出版当時に、会社の同僚達と回し読みっこ。
で、さくらの同僚の女性陣の読後の共通見解。「向井万起男さんって、格好良いわねぇ~!」
年代によらず、女性陣の間でマキオファン急増。ご多分にもれずワタクシも。本当に向井万起男さん、格好良いんですよ。
ひとつお断りを。格好良いのはビジュアルではありません。
ご存じない方は『向井万起男』で画像検索すればわかる。怪しいおかっぱ頭の独特の風貌が。
いや向井万起男さんには大変失礼な事を申し上げているのは重々承知ではありますが、ご自分でも自覚されている確信犯(誤用)であるようなのでまあ良いでしょう。
ビジュアル系では決してない向井万起男さん。じゃあ、何が格好良いのかって?
彼の格好良さは、カッコ悪いところを、素直に見せられるところにあります。
「君について行こう」は、みっつの楽しい読み方があります。
ひとつは、スペースシャトルで宇宙に飛ぶ乗組員と、その家族との関わり、NASAのスペースシャトル乗組員直径家族に対する支援等について。
なにせかかる年月が長いです。向井千秋さんが宇宙飛行士に応募してから11年、日本の宇宙飛行士リストに載ってから9年、実際の乗組員の一員に選ばれてから2年。ずーっとずーっとずーっと宇宙を目指しているのです。
途中でチャレンジャー号の事故による計画中断というアクシデントがあったにせよ、二週間スペースシャトルを飛ばすために10年間かかるってすごくない?
その間向井千秋さんは日本とアメリカをいったりきたり。というよりほぼアメリカ。我らがマキオちゃんは日本でお仕事。ああ長き別居生活よ。
スペースシャトルを飛ばすNASAはアメリカなので、日本とアメリカの慣習とか考え方の相違についても、向井万起男さんの素朴な疑問が描かれています。
例えばね。スペースシャトルの乗組員直系家族に対しては、乗組員本人と同様、NASAがメンタルケアを含む様々な便宜を図っているのですが、その“直系家族”の定義は、乗組員の配偶者と子供、かつ子供の配偶者とされているのですね。
向井万起男さんも疑問に感じる通り「えっ?親や兄弟は直系家族じゃないの?」って多くの日本人が思いそう。
そういうひとつひとつの疑問に対して、周囲に聞いてみたり、自分で考えてみたりするのが面白かったりします。
“直系家族の疑問”の答えは、実際に本をお読みくださいな。
もうひとつの点は、乗組員である向井千秋さんについて。いやこの人面白い。すごく生真面目で、すごく潔くで、凛々しい人です。あまりにも我が道を邁進するタイプなので、自分の家族が向井千秋だったら、ちょっと大変な気がするくらいw
妻・チアキちゃんを夫・マキオちゃんが称して曰く“みなし児一人旅”の思考と生き方をするチアキちゃんを、よくもまあマキオちゃんったら親友にして恋人にして夫婦になろうと思ったもんだ。変わった人だw
でも、夫・マキオちゃんの、妻・チアキちゃんに対する深い深い愛情が、行間から滲み出てくるようです。
みっつめの最後「君について行こう」が面白いところ。
そもそも向井万起男さん。本のタイトルとはうらはらに、元々フェミニズム思想とは対極の考え方の男性です。率直に申し上げればかなりな男尊女卑。これは当時の時代的な背景もあれど、多分いまでも変わりなしに男性に根ざす考え方なんだろうなあ。
「・・・もし、そうなったら、チアキちゃんにはオレの専業主婦になるってテだって残されているんだよ。毛利さんや土井さんには、そんなテも残されていないんだよ。チアキちゃんは女である分だけ恵まれてるんだって」
女房は私の言葉を聞いて、寂しそうな表情を見せた。ほんの一瞬だったが、私にはわかった。“この人は、私が結婚したこの人は、やっぱり何もわかってない”という寂しそうな表情だった。
“男”でも“女”でもなく“職業人”として認められたいと願う妻に対して、男女差を基準として考えてしまう夫。その認識のズレは、向井千秋さんが宇宙飛行士を目指しはじめてからスペースシャトルが飛び立つ直前まで、ずっとついてまわります。
その度に妻はちょっとだけ傷つき、妻を傷つけたことに気付いた夫もちょっとだけ傷つき、だいぶジタバタします。
そのジタバタ度合いがね、マキオちゃんが格好良い所以なの。
自分の落ち度を正直に書いて、ジタバタあがいているところも素直に書いて、そして本気でそのジタバタに向き合っている姿は、最高にイケメンです。カッコ悪い姿を他人に明かせる男ほど格好良い存在ってないでしょ。
まあ大体、世の男共はそもそも妻を傷つけていることにすら気付いてないからね。
「マキオちゃんに私の底力を見せてあげるから、よく見ていてね」
これを聞かされた私は、最初、呆気にとられた。ヤケに自信たっぷりの凄いこと言いやがるなあ、と。しかし、ニヤニヤしている女房の顔を見ていた私は、すぐに、その言葉の本当の意味がわかった。そして、赤面した。
・・・(中略)・・・
私以外に向かって、こんなことはちょっと言えないだろう。しかし、特に私に向かって言う必要があったとも言える。女房は私のことを見抜いていたのだ。“君には専業主婦になるというテが残されているのだから、君は恵まれているんだよ”と言った私。“スペースシャトル搭乗一番手は毛利さんに決まってるじゃないか。まさか君は一番手に選ばれるなんて思っていたわけじゃないだろうな”と気楽に言った私。“女房が乗り込んだスペースシャトルの打ち上げを見に行くなんて、オレの男としての意地が許さない”と気楽に言った私。そして“女房のために食事を作ってあげるオレって偉いだろ”という素振りを見せていた私をすべて見抜いていたのだ。
だからこそ、本のタイトル「君についていこう」がしみじみと、良いですねえ。
そして会社の女性陣の間で「向井万起男さんって、格好良いわねぇ~!」と人気上昇するのもむべなるかな。
ちなみに、向井万起男さんの独特の風貌は、日本国内で一般的でないために不思議オカッパ頭に見えるのか?グローバルにはあれOKなのか?とずっと疑問でしたが。
向井万起男さんの別著『ハードボイルドに生きるのだ』を読みましたら。彼が飛行機に乗るときには、どの国でも結構な確率でボディチェックを受けるとの記述がありました。
そうか、彼の怪しさはグローバルな怪しさなのか。
ちょっと安心したさくらでありましたw