江戸は深川、二人の「きたさん」が事件を通して成長していく。謎解き×怪異×人情、新シリーズ始動!
(「BOOK」データベースより)
私は宮部時代小説が好きです。それは過去にご紹介した「初ものがたり」のおかげ。
でも私は、宮部時代小説は信用ならないと感じています。それもまた「初ものがたり」のせい。理由は過去記事をご覧ください。
稲荷寿司屋台の主人の謎を解明せずして連作を終了させてしまった宮部さん。風呂敷ひろげっぱなしでお片付け下手!こんまり呼ぶよ!?人をときめかせるだけときめかせておいて、お片付けに至らない宮部を今でも許せません。
さてそんな宮部みゆきが、再び時代小説を書きました。
新シリーズと聞いても、つい読むのためらう気持ちは致し方がないでしょう。それもこれも「初ものがたり」のせいです。
また謎の登場人物が現れたら困っちゃうじゃない。
深川元町の岡っ引き、文庫屋の千吉親分は、初春の戻り寒で小雪がちらつく昼下がり、馴染みの小唄の師匠のところで熱燗をやりながらふぐ鍋を食って、中毒って死んだ。
とか言いつつ、結局は読んじゃうんです。宮部みゆきですから。
さてさて「きたきた捕物帖」の主人公は、上記引用で河豚毒にあたってお亡くなりになった千吉親分の子分見習い、北一(きたいち)くん。
3歳のときに千吉親分に拾われて13年、本業(副業?)の文庫売りと岡っ引き業のお手伝いをする毎日です。あ、文庫ってのは「箱」のことです。岩波文庫売ってるわけじゃないよ。
千吉親分が急死してしまい、まさか16歳の見習いが岡っ引きの跡目を継ぐわけにもいきません。文庫売りの方も親分の身内から「あんたはいらない」と邪険にされ、にっちもさっちもな状況からが物語の始まり。
宮部みゆきさんは「きたきた」を長く書き続けてロングシリーズにしたい模様ですが、私はそれを聞いて一抹の不安。
あのさぁ宮部さん。今度は大丈夫だよね?
謎の登場人物を出して、また風呂敷ひろげっぱなしにしないよね?
その希望は『第三話 だんまり用心棒』であえなく打ち砕かれます。
ちょっとした用件で出向いたオンボロ銭湯にいた釜焚きの喜多次(きたじ)くん。年のころはほぼ北一くんと同じくらい。多分。小汚くウスラボンヤリしていて、頭のネジが少ーしばかりゆるみかけのような印象。
だった筈が。
おれはいなかったことにしてくれ。喜多次はむしろ頼むように言った。
「おれはこれからも、薄らバカの釜焚きだ」
だから、闇に紛れることができる夜のうちにやっつけようとか言ってたのか。「何でバカのふりをしたがる?何でおいらに手柄を立てさせようとする?」
「そのへんの話は長くなるから、あとにしよう」
ちょ、ちょっと待ってみゆき。
あなた、また同じ過ちを繰り返すの?
喜多次が登場するまで、私は「きたきた」シリーズの探偵役は千吉親分のおかみさんかと思い込んでおりました。疱瘡で目をやられて盲目になりながらも、頭キレッキレでトラブル解決バッシバシ。北一はほそぼそと文庫売りをしながら探偵(おかみ)のアシスタント的な役割をしていくのかしらんと。
北一(きたいち)+喜多次(きたじ)だから「きたきた」だったのね、って、そりゃ別に良いんだけど。
でも私はもう耐えられないんです。
稲荷寿司の主人の謎が解明されずに終わった事実により、宮部みゆきへの信頼度が低下しているんです。
これ以上風呂敷広げっぱなしで、またシリーズ終わるようなことがあったら、私はもう立ち直れない。
どーすんだよオイみゆき、お前、もう読むの止めっぞオラ。
そんな気分でいたら。
一瞬だけ、喜多次は遠くにあるものを眺めるような眼差しになった。
「親父は、伯父上のいなり寿司が旨かったって言ってたが、あれはおれたちの国許の名物だったしな」
…。
…。
…戻って、きた!
ちょっとちょっとちょっと待ってみゆき。何それ稲荷寿司って。元お侍さんの橋のたもとの屋台の親父って。あれなの?彼なの!?
広げられた風呂敷をたたまずに帰られたことに憤っていたら、さらに風呂敷がでっかくなって返ってきちゃいましたよ。何だ烏天狗の一族って。
私は認めないわ。断じて、この再販本を<完本>とは認めません。看板に偽りありです。
なので宮部さん。<完本>で終わらせず、次の「初ものがたり」シリーズをお続け下さい。大丈夫。ファイナルとかリターンズとか末尾につけとけばごまかせる。
※本ブログより引用
そりゃ私はこう書きましたがね。
まさか7年も経ってから《リターンズ》がやってくるとは思いませんでしたよ。
もったいつけやがって!みゆき!もったいつけやがって!
目の前に宮部みゆきがいたらグーでポカポカ殴りたい衝動にかられつつも、これはもう「きたきた」の続きを読まずにはいられない。新作を待ち望まずにはいられない。宮部みゆきの計算にマンマとはまる私。
宮部さん早く書いて。「きたきた」シリーズの続きを早く書いて、いやホント頼みますよ宮部さん。いつか広げっぱなしの風呂敷がたたまれる日を心より待ってますから。