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近藤史恵「ヴァン・ショーをあなたに」

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下町のフレンチレストラン、ビストロ・パ・マルのスタッフは四人。二人の料理人はシェフの三舟さんと志村さん、ソムリエの金子さん、そしてギャルソンの僕。気取らない料理で客の舌と心をつかむ変わり者のシェフは、客たちの持ち込む不可解な謎をあざやかに解く名探偵。近所の田上家のスキレットはなぜすぐ錆びるのか?しっかりしたフランス風のパンを売りたいとはりきっていた女性パン職人は、なぜ突然いなくなったのか?ブイヤベース・ファンの新城さんの正体は?ストラスブールのミリアムおばあちゃんが、夢のようにおいしいヴァン・ショーをつくらなくなってしまったわけは?…絶品料理の数々と極上のミステリをどうぞ。
(「BOOK」データベースより)

ヴァン・ショーというのはワインを温めてスパイスを入れた、いわゆるホットワインです。ホットワインとヴァンショーとの違いはわかりません。

下町の我らがビストロ「ビストロ・パ・マル」では、ヴァンショーは、常連さんやちょっと訳ありなお客様に特別にお出しする裏メニューになっているようです。

そういえばマカロンはマカロンの中でも過去のエピソードとして、離婚前の悩める人妻にヴァンショーをお出ししてましたよね。

私もビストロ・パ・マルに行って三舟さんのヴァンショーを飲みたいものです。しかし私がビストロ・パ・マルに行ってヴァンショーを飲むとしたら、それは常連になるまで通い詰めるか、ワケありになるかどちらが狙い目になるのでしょう?(そういう問題じゃない)

さて、この本「ヴァン・ショーをあなたに」は「タルト・タタンの夢」「マカロンはマカロン」の間に入る、ビストロ・パ・マルシリーズの第2作目です。

お仕事ミステリ、あるいは日常の謎

殺人も誘拐も脅迫もなく(脅迫はどこかにあったかな?)比較的心安らかに読めるミステリーです。

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「ヴァン・ショーをあなたに」は、語り手が謎を抱えたご本人(お客さん)だったり、三舟シェフ自身の修業時代の思い出話があったりして、2作目らしく趣向を凝らした一冊でございます。「タルト・タタンの夢」で目立った主要人物紹介もひとおり落ち着いたようで、本題にスルスル入って読みやすい(しかし偉そうな感想だな)。

これでようやっと4冊目が発売される前に全作追いついたんですけどね。3冊読んだ結果、極私的な一位はいまのところ「マカロンはマカロン」です。でもこれは単に初見の印象が強いからって説もあるので、ビストロ・パ・マルシリーズのどれが一番好きかってのは、皆様のお好みによるんじゃないかと(いきなり弱気)

ただ3冊すべてに共通しているのは、主人公はじめビストロ・パ・マルの皆さんが、いかに店を愛しているか、いかにフランス料理を愛しているか、いかに仕事を愛しているかってところです。

シェフは、南野氏を見据えた。そして言う。
「そうやって、自分をごまかすな」。お前は料理人として決してしてはならないことをした。その人が『食べたくない』と考えているものを食べさせたんだ」
南野氏は笑った。だが、その笑いは乾いていた。
「そんな大げさな言い方しないでくださいよ。彼女らはおいしい、おいしいと喜んで食べたんですよ」

お仕事ミステリの主要登場人物って、みんな自分のお仕事を愛して、常に仕事について真剣に考えているのではないかと思われます。

まぁそりゃそうですよね。語り手が仕事について語らなければ、お仕事紹介モノになりませんし。仕事内容や業界の動向、小ネタやお仕事ウラ話などを読者に説明するために、語り手はせっせと業務について思考し続けなければならないのです。

サボって裏でタバコ吸ったりしていないのよ。 仕事に真剣に取り組む皆さん素敵よ。

「料理人にはなんでもできる。前の客の残り物を使うことも、古い材料を使うことも、安いだけで危険な素材を使うこともできる。多少の腕があれば、それを客にわからせないことなんて、簡単だ。だが、だからこそ、それはしてはいけないことなんじゃないか」
シェフの顔は、ひどく真剣だった。シェフコートを脱ぎ捨てると、南野氏の隣に座る。
「そして、それが料理人のプライドなんじゃないか。それを自分で踏みにじって、それで気分がいいのか。自分で汚して、それで笑えるのか」

仕事に対して真剣に取り組んで、プライドを持って料理を作る、またはサーヴする人たちがいるお店が、美味しくない筈ないじゃありませんか。そんな人たちを描いた小説が、これまた美味しくない筈ないじゃありませんか。

ああ、ビストロ・パ・マルに行きたいなあ。

ビストロ・パ・マルでヴァン・ショーを、いつか飲みたいもんだよなぁ。常連になるかワケありになるか、そのどちらでも良いのだけれど。

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