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貴志祐介「雀蜂」

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11月下旬の八ヶ岳。山荘で目醒めた小説家の安斎が見たものは、次々と襲ってくるスズメバチの大群だった。昔ハチに刺された安斎は、もう一度刺されると命の保証はない。逃げようにも外は吹雪。通信機器も使えず、一緒にいた妻は忽然と姿を消していた。これは妻が自分を殺すために仕組んだ罠なのか。安斎とハチとの壮絶な死闘が始まった―。最後明らかになる驚愕の真実。ラスト25ページのどんでん返しは、まさに予測不能!
(「BOOK」データベースより)

先日の書評、石持浅海「トラップ・ハウス」では、大学生9人がキャンプ場のトレーラーハウスに閉じ込められて攻撃される、という災難が起こりました。
攻撃といっても、武器は画鋲だったりするので、罠としてはさほど大きなダメージは発生しませんでしたね。
 

貴志祐介の「雀蜂」は、もちっと、大変。もちっと、舞台も大きい。
主人公が閉じ込められるのは、雪の山荘。
襲い掛かるのは、スズメバチ。
画鋲よりは、危ないよ。

心臓が、激しくギャロップしている。
あきらかに、俺を目標として飛んできたとしか思えなかった。
いったい、なぜだ。いくらキイロスズメバチの攻撃性が強くても、素のそばでなければ、むやみやたらと人間に襲いかかることはないはずなのに。

ワインを飲んで気持ち良く酔っ払い、ちょっとうたた寝してしまった主人公のアンザイさん。
目が覚めると、横に居たはずの妻の姿はありませんでした。
携帯電話も無く。電話もパソコンも、ケーブルを持ち去られて外界との通信手段を失われ。
ガソリンが空の車。バスローブ一枚の、無防備な服装。
 

そこへ聞こえる、雀蜂の羽音。
 

画鋲よリは、危ないよ。

上記のBOOKデータベース内容紹介では『ラスト25ページのどんでん返しは、まさに予測不能!』とか書いてありますが、ミステリ的なお楽しみは放っておいても良いです。
まあ、お好きな方だけ大ドンデンを楽しんで。結構びっくりするけどね。
でも「雀蜂」のお楽しみは、そこじゃないんだ。
 

何が楽しいかって、そりゃ、映画「ホーム・アローン」もかくやですよ。

映画「ホーム・アローン」はご記憶でしょうか。
クリスマス旅行に置いてけぼりにされてしまったケビン君が、忍び込んできた二人組の空き巣に様々なトラップをしかけてコテンパンにする、という話ですね。
あれな、ケビンな。アイツ過剰防衛も良いとこだな。
そもそも普通の家に火炎放射器とタランチュラ、常備してないからな。
 

アンザイさんも、ホームアローンのように別荘内の様々なモノを利用して、スズメバチに対抗しようとしています。
その奮闘努力に、松岡修造的熱い応援の声を張り上げたくなるのが「雀蜂」。
 

お風呂場でスッポンポン状態のところへ換気口からハチが!
熱湯シャワーで襲撃だ!自分があっちぃ~!
 

蜂は音に反応する筈だ、じゃあリモコン使ってテレビをスイッチオン!
放映されたのは、囲碁チャンネルだ!
 

蜂蜜と酒で甘い匂いに集まるようにしよう!
廊下に、こーぼーしーたー!
 

何とか逃れついたガレージの物品で、スズメバチに対抗する攻守装備をゲットだぜ!
スキーウェアにヘルメット、梱包用プチプチ(プチプチは川上産業の商品名よ)で身体を巻いて、武器はバドミントンのラケットと万能バサミ。
スキーブーツでガッチャンガッチャン歩く着膨れ姿は、まるで可愛くないベイマックス。
 

笛吹きケトルでお湯を沸かして、ロボット掃除機ルンバの上にはタールを塗ったぬいぐるみ。
 

が、頑張るなあ。
あきらめない姿勢にアッパレですね!

俺は、事務用ボールペンの先端を見た。これで喉を貫く?冗談だろう?
だが、呼吸はますます苦しくなりつつある。必至に空気を吸い込もうとしても、喉を通らない。このままでは、確実に窒息死するだろう。
座して死を待つか、それとも気力を奮い起こし、生きるためのアクションを起こすか。
ちくしょう。こんなところで、死んでたまるか!
(「固茹でハンプティ・ダンプティ」より引用)

アンザイさんは結局、雀蜂の大群から逃れられたのか?それは読んでのお楽しみとして。
『主人公の、最後まで諦めないという姿に感動しました』という、中学生の読書感想文みたいな〆で終わらせても良いんですけどね。
先刻は放っとけと言った“ラスト25ページのどんでん返し”を、もう一度思い出して下さいな。
 

大ドンデンの意味がわかると、さらに!アンザイさんの奮闘努力がより一層の重みを増して私達の胸に迫ってきますから。
 

いや、まあ、よくも頑張ったもんだ。
いくつになってもあきらめない姿勢って、大事ねえ。いやアッパレ。

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