うしろ向き、すぐあきらめる、自信がない…このネガティブ思考は母のせい!?大人になって気づいた母の支配。そこから抜け出すまでを描き切ったコミックエッセイ。
(「BOOK」データベースより)
このマンガのタイトルに、胸が痛む。
「だから母が大嫌い」と大きな声で言えるようになってくれればいいのに。
そうしたら、暗い井戸から出た後に、さらにどこかへ歩き出せるのに。
「あなたは何もできない子なんだから 何もしなくていいのよ」
「ツレがうつになりまして」の作者 細川貂々さんによる、実体験を元にして母親との確執を描いたエッセイマンガです。
「ツレうつ」の方は映画にもなったりして認知度高いですね。「ツレうつ」を知らない人にちょっと説明しますと、「ツレうつ」は“ツレ=配偶者”が鬱病にかかってから、社会復帰をするまでの顛末を書いたエッセイマンガです。
鬱病にかかった“ツレ”の方が、精神的に弱いタイプ?
いえいえそんなことはありません。ツレさんもともと元気一杯のスーパーサラリーマン。「ツレうつ」は、そんないわゆる“普通”の人でも鬱病になる可能性はあるし、精神的な強さ・弱さが原因じゃないってことも言ってます。
まあ「ツレうつ」に関しての話は後日別の機会にでも。今回は“ツレ”の“ツレ”の話ですから。
作者の細川貂々さん。このお方の方が“ツレ”よりもずっとネガティブ思考の後ろ向き猛ダッシュ。ウジウジちゃんのクヨクヨちゃんです。
その根底にある自己肯定感の低さは、一体どこから来たのか。
「それでも母が大好きです」の主人公リカコのお母さんは「あなたは何もできない子だから」と、先回りしてどんどんやっちゃうタイプ。
子供の夏休みの自由研究も代わりにやっちゃうタイプ。「あなたのため」と言いながら、自分で試行錯誤したり成功体験を得るチャンスを奪う『優しい虐待』をするタイプ。
これをいわゆる毒母と呼んじゃうのは簡単なんだけど、じゃあどこからどこまでが適切なサポート?どこからが優しい虐待?と線引きするのは難しい。
ただ「それでも母が大好きです」のリカコの母親の場合は、よかれと思ってが行き過ぎての過干渉というよりは子供をコントロールしたい欲求の方が勝っているように描かれています。
「あなたは何もできない子」と子供の自己価値を下げ
「私がいないと何もできない」と自分の価値を上げ
「だから私の言うとおりに生きなさい」と子供の人生をコントロールする。
全く別の本にはなりますが、おおたとしまさ著「追いつめる親」の一節を引用しますね。
同様に、「まったくダメな子ね」「どうしてあなたはそうなのかしら…」などと、子供の人格を否定する発言を頻繁に口にする母親は無意識のうちに「あなたには私が必要なの」というメッセージを子供に刷り込んでいる。
いつまでも自分を必要としておいてほしいという親としのエゴが、子供を萎縮させ、自立を阻む。まったく無意識のうちに、子供が無力であることを願い、自分の力のおよぶ範囲から抜け出すのを阻止しようとしているのだ。
(おおたとしまさ著 「追いつめる親「あなたのため」は呪いの言葉」より)
リカコにとってみれば。
母親の望むように生きたところで、どこまで行っても母親を満足させられる事は永遠になく、いつまでも駄目な子扱いは続く。
かといって自分自身の望むように生きてみれば、母親からの駄目出しはさらに悪化し、言葉の刃は鋭くなる。
生きづらさの井戸はさらに深くなる。
リカコの母親自身も、自己肯定感が高い人では決してありません。
「自分のやりたいことはなにか?なんてくだらないことに時間をついやして 婚期を逃したことなのよ」
「だからパパみたいな人としか結婚できなかったの」
リカコ=細川貂々さんの母親自身も、同じように生きづらさを抱えていたのかもしれない。
「あなたは何もできない子」は、母親自身が言われていた言葉なのかもしれない。
だからこそ、自身の子供への過干渉が、ある意味当然の約束事になっていたのかもしれない。
だって、それ以外の生き方を知らないから。生きづらさの深い井戸の外を知らなかったから。
だから、こそだ。
このマンガのタイトルに、胸が痛みます。
タイトルを「それでも母が大好きです」にせざるをえなかった細川貂々さんが、まだ母親のコントロールから完全に脱せられていないように感じるから。
あえてつけた優しさなのだろうとは思うのだけれども、その優しさに胸が痛い。
親を大嫌いになって良いんだよ。優しくなくても良いんだよ。
忘れてしまっても良いんだよ。
自分を苦しめた親が今生きていようと死んでいようと、振り捨ててしまっても誰も責めない。少なくとも私は責めない。
神様お願い。細川貂々さんに、もうちょっとだけ勇気をあげてください。
彼女が、もっと優しくなくなって、親を振り捨てて楽に生きられる日がいつか来ますように。