「この館に、業を抱えていない人間が来てはいけないんです」
北海道札幌市、中島公園のすぐそばに不思議な“館”がある。公園と同じ名の表札を掲げるその建物に、吸い寄せられるように足を踏み入れた客の境遇はさまざまだ。「友人と、その恋人」を連れた若者、「はじめての一人旅」に出た小学生の女の子、「徘徊と彷徨」をせざるを得ない中年男性、「懐かしい友だち」を思い出すOL、「待ち人来たらず」に困惑する青年、「今度こそ、さよなら」をするために過去をひもとく女性…。そして彼らを待ち受けるのは、北良と名乗るおそろしく頭の切れる男。果たして迷える客人たちは、何を抱えて“館”を訪れたのか?ロジックの名手が紡ぐ6つの謎。
(「BOOK」データベースより)
「全く新しい館ミステリ」とKADOKAWAの宣伝文句にある連作短編集。
「館ミステリ」とは、これってやっぱり綾辻行人“館シリーズ”狙い?
石持浅海の小説の殆どが、限定された閉鎖空間を舞台にしているという事を考えると、館ミステリを書くにこれほど相応しい人も居ないような気もしますね。
いや、綾辻行人もけっこうハマりましたけどね!若かりし青春時代ね!
綾辻行人「館シリーズ」については、今度機会があったら書きます。
さて本題の「罪人よやすらかに眠れ」
“館シリーズ”とは違い、お屋敷(けっこう豪邸)はいたって普通です。
住人も、日常生活では普通の人っぽい?とはいえ所々に謎めいた気配はムンムン。
住人が自分の役どころを承知の上で、日常生活の演技をしている感。例えて言うなら刑務所の中でも歯磨きをしたりラジオ体操しているような。ちょっと違うかな?
あ、翠子ちゃんは例外です。翠子ちゃんは前から見ても後から見てもいたって普通。ちょー可愛え。
屋敷にやってくる来訪者は常に「業」を抱えている。
しかもけっこう深い闇。人の生死にかかわる系。
「業」がない人はこの屋敷には来てはいけない。
そして「業」があばかれると来訪者は去らなければいけない。
住人?というか居候の北良くんも、どうやら自分の内に「業」を秘めているらしい。そしてこの話のホームズが彼。
彼自身の「業」が解明されるとこの家を出て行かなくてはならないため、彼が彼自身の「業」を解明する事は無いらしい。
(ラストに匂わされている推測が正しいとすれば、出て行った先の行き先は決まってますよね)
正直、北良くんの正体?がラストで飛び出してくるのは、それまでの話で全く前フリがなかっただけに
暗闇で突然パンチされて「え?なんで?」状態。
ラストの章だけはどうしてあの終わり方にしたのか意図が不明だなあ。
特に北良くんにつなげなくても謎は解明できているのに。
とはいえ、6つの章が同じように「来訪⇒謎解き⇒退去」の流れを沿って進んでいくのは、ある意味水戸黄門チックな安心感でスムーズに読めます。
もちろんそれぞれの章だけ読んでも独立して面白い。
相変わらず限定空間で議論だけで話をすすめる石持ワールド全開の面白さ。翠子ちゃん可愛えし。
余談ですが、翠子ちゃんの友達が来ることはないのでしょうかしら?
名門校に通っているそこそこのお嬢っぽいから、友達が遊びに来ても全然おかしくない。
とはいえその友達の隠された「業」が明らかになってしまうようであれば、翠子ちゃんは確実に友達をひとり失うのは必至。
自宅でパジャマパーティとかできないの。翠子ちゃん残念。