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渡辺一史「こんな夜更けにバナナかよ」

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自分のことを自分でできない生き方には、尊厳がないのだろうか? 介護・福祉の現場で読み継がれる傑作ノンフィクション!
重度の筋ジストロフィー患者の鹿野靖明さんと、彼を支える学生や主婦たち約40名のボランティアの日常を描いた渾身のノンフィクション。人工呼吸器をつけた病の極限化で、人間的自由を貫こうとした重度身体障害者と、さまざまな思惑から生の手応えを求めて介護の現場に集ったボランティアたち。「介護する者、される者」の関係は、ともに支え合い、エゴをぶつけ合う、壮絶な「戦場」とも言えるものだった――。
(「BOOK」データベースより)

昨今のコロナ禍で通販を多用するようになり、とうとうアマゾンプライムに手を出してしまった私。30日間無料の罠にはまったのよ。

そしてプライム会員の元を取るべくアマゾンプライムビデオを見始めて、見たい映画を有料レンタルなんてしちゃったりして、ますますアマゾンの罠にはまる私。

あー吸い上げられていくー。私の給料がアマゾンの奥地に吸い上げられていくー。

さて。

そのアマゾンプライムビデオで、この本を原作にした邦画「こんな夜更けにバナナかよ~愛しき実話」を見まして。

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なかなかに楽しかった…というか考えさせられる映画だったので、はて原作ではどんななのかしらんと思い、原作本をアマゾンポチっとなとした訳です。

あー吸い上げられていくー。私の給料が、さらにアマゾンの奥地に吸い上げられていくー。

「ホラ、畑さん、ジョンのここんとこに湿疹できてんだわ。クスリ塗っといた方がいいかな」
「どれジョンかい?見せてみ。ほーれ、クセの悪いジョン……」
「ジョン?」と私が訊くと、2人が顔を見合わせて大笑いした。

えーと、ジョンとはこのドキュメンタリーの主役である鹿野靖明さんの、いわゆる大事なトコです。筋ジストロフィーで殆ど身体が動かせない鹿野さんは、食事も排泄もお風呂も何もかも全て人に頼らざるを得ません。ジョンに湿疹ができたとしても、当然自分で薬も塗れません。

ジョン…ね。ジョン…。

で、通常であれば病院か介護施設か、もしくは自宅で家族の介護を受けて生活するかですが、鹿野さんは札幌市のケア付住宅で一人暮らしを選択しました。

とはいえ本当に1人で暮らしているのではなく、常にボランティアスタッフ(鹿ボラ)が入れ代わり立ち代わりで鹿野さんの介護をするために滞在しています。

で、この本「こんな夜更けにバナナかよ」は、その鹿野さん自身と、数多のボランティアスタッフと、ドキュメンタリー執筆のために鹿野さんに取材を申し込んで“木乃伊取りが木乃伊になった”著者・渡辺一史さんの『戦場物語』です。

この家は、確かに「戦場」だった。
しかしそれは鹿野が病気と闘っているから、というだけではないと私は思う。
確かに病気と闘ってはいる。在宅福祉・医療の制度充実を求めて、闘ってもいる。
しかし、何より鹿野が闘っているのは、マイナスカードの多すぎる人生を、あくまで主体的に能動的に生き切ろうとする果てなき闘いであるのだと私は思った。

「こんな夜更けにバナナかよ」の本もしくは映画に興味を持って、本と映画のどっちを先に見ようかな?と迷っている人がいたら。

私個人的には、映画を先に視聴することをおすすめします。いやまあ自分がそうだったからそうしろって話でもないんですよ。

なにせ書籍バージョンは情報量が多い!まずは主役の鹿野さんでしょ。筋ジスで全身動かせない人の日常生活っていうだけで、本にするには十分なボリュームがある。

プラス、多種多様なボランティア陣の人間模様。老いも若きもマジメもコギャル(当時流行してたのはルーズソックス)も、何でまた“真面目な”“気高い”“心優しい”ボランティアに参加してるの?金ももらえん(一部例外あり)のに?

さらに鹿野さんの自立生活を可能にした障害者用ケア付き住宅の成り立ちや北海道の福祉状況・等・等。ごめーんさくらちゃんもうお腹いっぱい。

著者の渡辺一史さん自身も“木乃伊取りが木乃伊になって”鹿ボラの一員になって(ならされて)いるもんだから、客観的な第三者目線というよりも当事者としてドップリはまった渦中の目線になっている。

ですので、そこらへんをスッキリ整理した映画版を先に観ておいた方が、読み進める上での整理整頓に役立つだろうとと思われるのです。

まあ映画版は『実話を元にしたフィクション』なので、完全に同じじゃありませんけどね。大学入試で〇コ漏らしながら試験を受けたボランティアが実際に存在したのかは、わからない。

…じゃあ映画を観れば、この本を読まなくたって良いんじゃないかって?

違うのよ違うのよ待って。映画である程度の予備知識を得ておいた方が、より一層興味が持てるだろうってことを言いたいのです。

もともと私は「障害者」や「福祉」「ボランティア」といった分野にはほとんど無縁の人間だった。
にもかかわらず、ひとたび足を踏み入れるやいなや、みごとその世界にからめとられることになってしまった。ワガママであれ、エゴであれ、人間どうしの摩擦や対立であれ、自分と他者との間にいつも横たわる普遍的で根源的な問題についてーー(後略)–

目の前に広がる、あまりにもあまりにも広い情報の海。

鹿ボラの沼にドップリはまった渡辺一史さんが、もみくちゃにされながら沼を泳いで泳いでどこかに辿りつこうとした、その混乱こそが興味深いのです。

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