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有村朋美「プリズン・ガール―アメリカ女子刑務所での22か月」

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ニューヨークに暮らす20代の私は、ある朝、突然FBIに逮捕された! 麻薬密売組織に協力したという、身に覚えのない容疑だった。無実の訴えもむなしく、絶望と不安を抱えて、連邦刑務所への入所日を迎えた私。だが、米刑務所の意外なシステムの下、次第に様々な人種の囚人仲間と友情を育みはじめて――。日本人の女の子が実際に経験した、過酷ながらもポジティブなプリズン・デイズ。
(amazon.co.jp内容紹介より)

著者の有村朋美さんは、アメリカの刑務所のことを「最悪で最低のもうひとつのアメリカ」と言っています。
アメリカに行った事がない私は、「もうひとつの」の前の「そもそものアメリカ」もわかっていない可能性あり。
 

まあそもそもね、アメリカもわかんない、刑務所暮らしもわかんない。わかんないの二乗。
わかることと言えば、このひと“トモミ・アリムラ”が、ふっつーの、ペヨンペヨンの、ノー天気な単細胞だってことだけです。
 

時は21世紀ミレニアム前後。
学校を卒業してアパレルメーカーに就職してみたものの、上司といまいち折り合いが悪くあっさり退職。
フラフラしているところにニューヨーク留学中の友達の話を聞いて、さしたる気構えもなく友達頼って「名ばかり語学留学」
アメリカで知り合った日本人と結婚の約束をしつつも、金髪碧眼のチャラ男と出会ってあっさり鞍替え。
あらあらびっくりチャラ男が実はロシアン・マフィアだったと知っても、『だって彼が好きなんだもん』と別れもせずに。
チャラ男のドラッグ密売にうまいこと利用されつつも、恋は盲目で気付きもせずに。
 

ある日アパートにFBIが乗り込んできて、やっと自分が騙されていた事実に気付いた時には、既に“トモミ・アリムラ”は押しも押されもしないドラッグ・ディーラーの協力者となっていて、はい!コネティカット州ダンベリーの連邦刑務所に1名様ご案内~!
 

ねぇ?馬鹿でしょう?

 

どうして私 さくらがこんなに“トモミ・アリムラ”に対して冷たい発言をするのか。
それは、“トモミ”の中に私 さくらの影を見てしまうからなのです。

“トモミ”に限らず、若い時の女の子って『ビバ自分!』みたいなところがとても多く、何をやっても自分の身に災難は起こらないんじゃないか、と考えているような気がします。
んもうびっくりしちゃうほどの、鈍感さと無邪気さ。
 

多分その日その日が楽しければ良くって、将来のことなんてあまり考えてなくって、悩みといえばカレシが滑ったの転んだの、マスカラの塗り具合と、今夜の2軒目はどこに行こうか。
今が楽しければそれで良くって、トラブルの種があっても、なんだかんだでなんとかなっちゃうんじゃないかと。
 

ああ、もうその幻想に、年月を経てオバチャンになったさくらは言いたいよ!
あとで後悔するハメになってからじゃ遅いのよ!将来のこととか、ちゃんと考えておかなくちゃ駄目なのよ!
現在それなりにオトナになったさくらちゃんが、“トモミちゃん”と“昔のさくらちゃん”を並べて正座させて説教したい。そうか、いい大人から見ると若い娘さんって、こんなにフラフラして危なっかしく見えるのか。
 

私 さくらは幸いにして、さほど大きなトラブルというものはこの身に振りかかることはありませんでしたが、今思い出すと冷や汗が出る綱渡り的若き日の過ちもちらほらと。
でも“トモミ”の方は、若き日の過ちゆえに、ビッグ・トラブルにずっぽりとはまり込んでしまいました。
 

『バカは罪』とはよく言ったもんですが、馬鹿が罪になるとしても、ちょっと大きすぎる痛手だわねえ。
 

“トモミ”がアメリカの刑務所で出会った人達は、その殆どが“トモミ”よりもハードで、危険で、シリアスな来し方を経てきています。
例えば懲役200年のドラッグディーラー。
例えば強制送還されるメキシコにどうしても戻りたくない密入国者。
例えばAIDSを発症した20歳の銀行強盗。
例えばアフリカン・ギャング、プエルトリカン・ギャング、チャイニーズ・マフィア。
 

その中で過ごす22ヶ月間は、フラフラした無邪気な女の子には、刺激的すぎる。ハードにすぎる。そして悲しすぎるビッグ・トラブルでした。
 

とはいえ、その実“トモミ”は泣いてばかりかといえばそうでもなくて。
刑務所の中でコンタクトが手に入らずビン底眼鏡をかけているのが苦痛で、万難排して面会時にコンタクト差し入れしてもらったり。
ニキビがひどくなってエイズの子にカポジ肉腫用の塗り薬分けてもらったり(!)
性格悪いがイケメンの看守にちょっと心ときめかしてみたり。
 

あーあーあー若いオンナノコって、どこに行ってもどんな時でも、やっぱりオンナノコはオンナノコ。
いっそぶれないのが清清しいほどだ!王貞治並みにぶれない一本足打法。すげーよトモミ。
 

あれから。
オンナノコだった時代から。
あれからね。

“トモミ”の貴女がアメリカを強制退去になってから、10年以上の月日が流れてね。
今、貴女がどこでどうしているのか、わからないけど。
 

大人の女性になった貴方にとって、“トモミ”であった過去が、遠い海の向こうの嵐であることを願います。
若き日の過ちと一言で片付けるには大きすぎる痛手ではあるけれど、少なくともそれが、古い昔の傷でありますように。
無邪気で馬鹿でノー天気だったオンナノコの時代の、あれやこれやを箪笥の奥底にしまって、しれっとした顔で生きていこうよ私も貴女も、さ。

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