急逝した親友の告別式の夜、その不倫相手と、二人で飲んだのをきっかけに、エリカは、いつしか彼との恋愛にのめり込んでいく。逢瀬を重ねていった先には何が…。高ぶるほど空虚、充たされるほど孤独。現代の愛の不毛に迫る長篇。
(「BOOK」データベースより)
「ほんと、嬉しかったのよ」とエリカは言った。両手をテーブルの上に載せ、重ね合わせてから、その手を見つめた。「つまらないお世辞とかお愛想とか、言われたくないもの。愛されてもいないのに、あなたは彼に愛されてきたんですよ、なんて、嘘を言われたら腹が立つ。彼から愛されてるんだ、って、ずっと思いこもうとしてきたの。それだけじゃなくて、自分は彼を愛してるんだ、って、私はずっと思いこんできたのよ。でもね、そんなふうにして自分をごまかすのは、もう、うんざり。だからあなたが、はっきり言ってくれたのは嬉しかった。ほんとにその通りなんだもの。すごくすっきりする」
恋って、不思議ねえ~。
「いや、ソイツは無いだろう?!」と思うような男(女)であっても、ある日ある時突然に、崖から落っこちるように落ちてしまうのが、恋。
傍から見たら、ほんとにソイツは無いだろうって思うんだけどねえ。
自分自身でも、ソイツだけは無いだろうって、ほんとに思うんだけどねえ。
恋愛小説の功者、小池真理子さん。
「エリカ」では四十代独身女みっともない恋愛を、Sっ気たっぷりに描いてます。
ストーリーは単純で比較的あっさりめ。40を超えたキャリア女性が、死んだ友達の愛人と知り合って不倫の恋に溺れる話。あっ、全然あっさりじゃありませんね。
「今日、私たちが私の部屋で初めて愛し合ったことについて、あなたがどう思ってるのか、知りたかったのよ。さっきの電話で、私はそういう話がしたかったの。でもできなかった。それが残念だった、ってことだけ教えたくて……」
金も地位も持った自立女性が、ジローラモみたいなちょい悪オヤジに誘惑されて、女学生みたいな恋心と自身の矜持との間で煩悶します。
しかもそのみっともない恋模様を、自宅に仕掛けられた盗聴器でストーカーに盗み聞きされていたりしてもう、格好悪いったらありゃしない。
自分のプライドを守りたい女のやるせなさから、ついついストーカーを誘惑しちゃったりして撥ね退けられて、あっちもこっちもプライドがったがたです。
小池さーん、折るねえ、オンナ心。
自分が経営する会社でそこそこの成功を収めて、生活力と自由な生活を手に入れている主人公のエリカさん。
とはいえ、巷では『負け犬』と類される独身女としては、ふとした瞬間に心がぽっかり空くことも。
そんな空白地帯を逃さないのが、アクティブな肉食オヤジであったりする訳です。
はい、男子の皆さん、ここ試験に出るよ。
機を見るに敏。オンナを落とすには、臆面の無い厚かましさと行動力と、401本の薔薇の花束だ。
「多幸症」の女が誰の目にも、本当に幸せそうに映るのと同様、「恋愛過多症」の男は、どんな女にとっても本当に魅力的に見えるものなのだ。
エリカの心のスキマに入り込んだジローラモ…違った、湯浅竹彦。
いやこの人すごいよ。アクティブというかパワフルというか、天性の女ったらしというか。
自分の不倫相手の葬式帰りに、その友人に粉かけるくらいの女好きです。イタリア人?イタリア人なの?
そして湯浅ジローラモは、狙った女を落とす為の努力も資金も惜しみません。
エリカ41歳の誕生日には、自宅に400本&プラス1本の真紅の薔薇を送りつける先制攻撃を仕掛けます。
401本の薔薇の花。薔薇の値段もピンキリですが、エリカさん曰く『値の張る薔薇であるらしいことはすぐにわかった』とのことですので、単価500円は下らないでしょう。四十代女社長の査定におそらく間違いはない。
つまり401本×500円、合計200,500円!消費税込み216,540円よ?!
一人の女(しかも年増)と一発ヤるために(すいません下品で)、20万円以上の投資をしますかね普通。しかもその後に首尾よくエリカちゃんをGETする訳ですが、結局のところ2~3回の逢瀬しかいたさないのですよ。
一発単価(すいません下品で)7万円余…その金だせば高級ソー…ゲフンゲフン。
えーとつまりですね、この小説「エリカ」には、男女それぞれが知るべき教訓がありまして。
女性に対しての教訓は『葬儀帰りの心のスキマにご用心』
男性に対しての教訓は『女にモテたきゃジローラモ』
はい皆さん、ここ試験に出るよ。
とはいえ、空白地帯に付け込まれて女学生的煩悶をしていた筈のエリカちゃんは、その後あっさり別れてしまったり。
ジローラモ的な努力を怠らなかった筈の湯浅さんは、エリカの別れにあっさり引き下がったり。
「エリカ」のラストは、『えっ?それで終わり?それでオッケーなのキミ達?!』という、さっくり
押し寄せた波があっという間に引いてしまうように、熱情もある日突然、あっという間に冷めてしまうのも、また、恋。
恋って、ほんとに、不思議ねえ。