この世の中のどこかに存在する悪い本。そんな本いらない?でもきっとほしくなる。宮部みゆきと吉田尚令が贈るこの世でいちばん悪い本。
(「BOOK」データベースより)
ミステリ作家と絵本作家がタッグを組んだ「怪談えほん」シリーズ。これが第1期の一冊目になります。
夏の怪談シーズンは終われども、目指せ怪談えほんコンプリートは続く!
映画「千と千尋の神隠し」のコンセプトは、私はてっきり少女の成長譚だと思っていたのですが、本当は『君が忘れていても僕は覚えているよ』がコンセプトらしいのですね。知りませんでした。
悲しいねえ。切ないねえ。でも、どこかにさわやかな想いが残るねえ…という、ああジブリ。ああ宮崎駿。
しかし、こっちの「悪い本」。
あなたが わたしを わすれても
わたしは あなたを わすれない
あれー?同じこと言ってるのに、こっちは全然さわやかじゃないっすよジブリさん?
怪談えほん、とは銘打ってあるものの、怪談話なのかしらこれ。
でも怖いっすよ。怪談話というより、邪(よこしま)な話。ざらざらした話です。
女の子の部屋にある縫いぐるみの熊さんが、女の子に語りかける口調で絵本ははじまります。
その熊さん、『この よのなかで いちばん 悪いこと』を知っている熊さん。
悪いことと言っても、シモネタまがいのアンナコトやコンナコトではありません。(誰もそんなこと想像してないか)
熊さんが知っているのは、もっともっと怖いこと。
人の心の中に潜む、邪悪な気持ちに答えるための悪いこと。
「悪い本」は絵柄自体もゾッとする不気味な絵で、なんというか、上品に描いた楳図かずおのような。森の中で女の子に蟻がたかるシーンの顔は、まるで漂流教室。もしくはおろち。
でも、その中でも怖いのがね、出てくる熊さんはあくまでも無表情なんですよ。ほら、なにせ縫いぐるみですから。
無表情な熊さんが、段々、段々と女の子に近付いてきます。
何をする訳でもなく。ただ、そこにいるだけ。
女の子が部屋にいても、家を出ても、森に行っても。
そして、待っているのです。
いつか あなたは わたしが ほしくなる
わたしと なかよくなりたくなるいつか どこかで あなたは だれかを きらいになります
だれかが いなくなればいいと おもいますあなたは なにかを きらいになります
なにかが なくなればいいと おもいます
かならず かならずそのとき あなたは もういちど
わたしの ページを めくるでしょう
いつか女の子が、胸の内に黒い黒い影が落ちるまで。
そうしたら、熊さんは、どんな悪いことを教えてくれるのでしょう?
私自身が、これまでの人生で真剣になにかを失くしたいと願った時に、この本があったなら。この本はどんな『悪いこと』を教えてくれていたのかしら?
これから先、私自身に黒い黒い影が落ちた時に、この本を開いたら。この本はどんな『悪いこと』を教えてくれるのかしら?
それを知りたいような、知りたくないような。
でもきっといつか、願うような気持ちでこの本を開きたくなる日が来ることを、私は知っている。
好むと好まざるとに関わらず。長い人生の間には、そういう瞬間が存在する時があることを、大人は知っている。
わたしは まっていてあげる
ずうっと ずうっと
子供に読ませる絵本、じゃ、ねーよなぁ。