盲目の霊能力者と、彼女をささえる仲間たち。過去の事件の真相と不思議な事象の真実を次から次へと暴き出す!快作ミステリー。
(「BOOK」データベースより)
もしもテレビで人気上昇中の霊能力者・能城あや子が政界進出を打診されたら、新しい政党名は「能城あや子となかまたち」が良いと思います。
「山本太郎となかまたち」みたいなもんです。
それが「the TEAM」です。
盲目の霊能力者・能城あや子は、バラエティ番組の1コーナーから生まれた霊導師です。
生まれた、というのは『人気が出た』という意味合いではありません。『作り出された』という意味合いが正解。
番組の旧ディレクターがヤラセででっちあげた、全くもって霊感ゼロの普通(?)のオバサンです。
ふん、とそれまで黙っていた能城あや子が鼻を鳴らした。
「バカ言うんじゃないよ。霊なんて、いるわけないだろ。バカバカしい」
一瞬の沈黙の後、全員が笑い出した。
では、何故霊感ゼロのオバサンが、次々と心霊相談に的確な回答をして、話題の人となり得たのか?
それがチームの力。司令塔かつマネージャー役の鳴滝と、物理調査役の賢一、インターネット調査役の悠美。3名が事前調査によるサポートを行い、能城あや子の“お告げ”に信憑性を与えております。
特に働き者は賢一くんですね。ちょー働き者。調査対象者の尾行、ゴミ漁り、住居への侵入などにより、マル対を丸裸にする勢いです。てーか、賢一くんの泥棒スキルをもってすれば、空き巣に入るだけで一財産を築けるんじゃなかろうか。
この小説「the TEAM」では、番組に寄せられた依頼者をめぐるストーリーと、能城あや子インチキ疑惑をスクープせんとする雑誌記者との攻防のストーリーが入れ子になった短編集です。
霊能力者・心霊現象という題材なだけに、それぞれの短編はちょいオカルティックな謎をモチーフとしていますが、どれも解決にあたっては現実的な理由付けがされるのは共通。この展開、ちょいと東野圭吾の『ガリレオ』シリーズを髣髴をさせますね。ガリレオ好きなお方はお気に入るかもしれません。福山雅治は出てこないけどねー。
でも、チームの面々が様々なオカルト現象を、無表情でバッサバッサと切り捨てていく様は、読んでいて気持ちが良い。
インチキ霊能力者・能城あや子を追い回す雑誌記者の稲野辺も気になっているところですが。
このチーム、モトが取れているんだろうか?
今現在はテレビのバラエティ番組1コーナーだけでなく、能城あや子での番組を組んでいるらしいですが、それにしたってギャラがそうそう出ているとは思えない。
それ以外の収入源は、週に3日の人生相談。見料は8万円と高額ながらも、一日に6人しか客を取っていません。
8万×6人で、一日の収入48万円。一週間あたり144万円。
一ヶ月が4週間だとしたら、144万円×4で、月あたり収入576万円。
576万円は確かに大金ではありますが、お仕事として考えた場合、576万円が丸々懐に入ってくる訳ではありません。
4名のチームはこの活動のために2つの会社を作っていますから、単純にその事務所賃料だけでもふたつぶんかかる。税金もかかるしね。
週に3日の人生相談はデパートの1ブロックでやっているから、売上の何%かはデパートに上納する必要があるしね。デパートの掛率って結構高いぜ?
それに勿論、対象者の調査をするには様々な経費がかかりますし、盗聴器やら隠しカメラなどの機材代も馬鹿にならない。
それに、チームの面子以外のスタッフにも支払うべき賃金は発生します。受付嬢とか雇ってるし。
諸経費などを差し引いたにしても、とりあえずはある程度まとまった利益を得られてはおりますが、ブラックレベルの労働時間の長さと過酷さを考えると、外資系の敏腕トレーダー並の報酬を得られないことにはやってられないんじゃないのかなあ、と、主に賢一くんの労働環境を心配せずにはいられないのであります。月100万でもバランス取れないんじゃなかろうか…チームの中でも唯一の法律違反者で、イザとなったらシッポを切り落とされる運命なのか、不・安~。
まあ、そこいらへんの世俗的な事情とかは、あまり考慮しなくても構いません。
能城あや子の過去とか、マネージャー鳴滝との関係とか、そういう細かいエピソードもちらほら書いてはありますが、小説のお楽しみにはさして関係ないので放っておいても可。私が許す。
「the TEAM」の4人組は、生活感のないサイボーグの集まりくらいに考えて、あや子`sインチキ霊言を楽しめば、それでOK。
だって細かいことを考え出すと、賢一くんが哀れになる。
賢一くん、キミの属する「能城あや子となかまたち」は折り紙付ブラックだ。悪いことは言わん、その政党からは早く離脱しろ。