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そえだ信「地べたを旅立つ」

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鈴木勢太、性別男、33歳。未婚だが小学5年生の子持ち。北海道札幌方面西方警察署刑事課勤務…のはずが、暴走車に撥ねられ、次に気づいたときには…「スマートスピーカー機能付きロボット掃除機」になっていた!しかもすぐ隣の部屋には何故か中年男性の死体が。どんなに信じられない状況でも、勢太にはあきらめられない理由があった。亡き姉の忘れ形見として引き取った姪・朱麗のことだ。朱麗の義父だった賀治野は、姉と朱麗に暴力を働き接近禁止命令が出ていたが、勢太がそばを離れたとわかったら朱麗を取り戻しにやってくる。勢太の目覚めた札幌から朱麗のいる小樽まで約30キロ。掃除機の機能を駆使した勢太の大いなる旅が始まる。だが、行く手にたちはだかる壁、ドア、段差!自転車、子ども、老人!そして見つけた死体と、賀治野と、姉の死の謎!次々に襲い掛かる難問を解決して小樽に辿り着き、勢太は朱麗を守ることができるのか?第10回アガサ・クリスティー賞、大賞受賞作。
(「BOOK」データベースより)

いやぁ、べっくらした。

マジびっくり、いやべっくらだ。

何がびっくりしたって、この小説がミステリマガジン主催の第10回アガサ・クリスティー賞の大賞を受賞しているという事実なのよ。

クリスティ先生が墓から這い出てくるで。

そえだ信「地べたを旅立つ」に 最高点をつけてから、自分で驚いた。 本当にこれが最高点なのかよ。 というのはこれ、 冗談のような作品だからだ。
(選評 北川次郎)

とか。

今回の「地べたを旅立つ」は ひときわユニークで、 遊び心に満ちている。
(選評 鴻巣友季子)

とか。

正直なところミステリとしてこの作品をどう評価するべきかに悩んだ。

(選評 清水直樹(ミステリマガジン編集長)

とか。

第10回アガサ・クリスティ賞の選考委員の皆様方も、 この小説を大賞に推すかどうかについては非常に悩んだと思われます。

だって皆さん聞いてくださいよ。

このミステリの探偵役、ロボット掃除機なんですよ!?

ロボット掃除機が札幌から小樽に向かって、ただひとり(1台) で旅をしながら 旅先で出逢ういくつかの謎を解いていくロードムービー型ミステリなんですよ?

これを荒唐無稽と言わない人がいるならば、私はその人に荒唐無稽の定義を問いたい。

とはいえですね、 もうひとつびっくりなのか、 この本読んでみると結構面白いんですよ。

若干軽めの文体でラノベちっくな印象はありますが、なんたって題材が題材ですからね。 さすがにロボット掃除機に哲学を語らせるわけにもいかない。

またミステリとしても、あまり大きな謎が 出てくるわけでもありません。だって探偵役が ロボット掃除機だよ!? 閉ざされた山荘で 一同を集めて『さて皆さん、謎はすべて解けました』 と宣言するわけにもいかないでしょう。

では何が面白いのかというと、そりゃあもうロボット掃除機がいかにして旅をするかですよ。

だいたいロボット掃除機、普通であれば閉じたドアを開けることすらできませんからね。 段差があれば止まってしまうし、充電が切れれば停止。

なんとかフラットな道を進んで行けたとしても、誰もいない公共の道路にロボット掃除機が「ウィーン…」と進んでいたら、いったいどうなります!?

ちなみにこの「地べたを旅立つ」に 登場してくるロボット掃除機のルンラン(型番号RNRN002A)は、 ルンバと似ていますが もう少し機能が向上しておりまして、 一般的なAndroidスマホと同じ程度のネット接続環境が整っております。 当然Wi-Fi機能付。

だからロボット掃除機(に憑依した人間)は インターネット検索もできますし、Webメールで 知り合いにメールを送信することもできるのです。インターネッツって便利だね。

あとさらに便利な機能は掃除機の横から飛び出すマジックハンド! すごいなこのロボット掃除機を考案したEリモ電子(架空)。

このマジックハンドがあればごくごく軽量の(50g程度の)物ならどかしたり動かしたりできるわけです。

あとそれ以外にも おまけ機能のようなものは 色々ありますが、ロボット掃除機(に憑依した人間)は そのスペックをフル活用して、 なんとかかんとか 頑張って 札幌から小樽にまで 旅立とうとするわけです。時速1.8キロでしか進まないけど。

どうしてロボット掃除機(に憑依した人間)が はるばる小樽まで行かなければいけないのか、 その途中にどんな謎が存在したのか、 最終的にロボット掃除機(に憑依した人間)が どんな結末を迎えたのかは、 本を読んでお確かめください。

いや案外面白いよ。 ちなみに私が一番 気に入った箇所は、車に乗せてくれた 老夫婦とお別れをするときに 奥さんが ロボット掃除機の頭(?) を撫でるシーンなんですけどね。犬か。犬なのか。

でも、このミステリを大賞に推した選考委員の皆様方、勇気がいっただろうなぁ。

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