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石田衣良「アキハバラ@DEEP」

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電脳街の弱小ベンチャー「アキハバラ@DEEP」に集まった若者たちが、不眠不休で制作した傑作サーチエンジン「クルーク」。ネットの悪の帝王にすべてを奪われたとき、おたくの誇りをかけたテロが、裏アキハバラを揺るがす。
(「BOOK」データベースより)

この小説は、二十一世紀が始まったばかりの電脳世界の匂いがします。あの時、あの当時の、インターネットとアキハバラであり得たかもしれない(?)未来が、実際に2016年の今、どう変わったかな。

「アキハバラ@DEEP」は、少なくとも2017年以降に存在している人工知能AIの視点から、それが誕生した2002年の経緯を思い起こして描いた小説です。

この本によれば、2017年にはAIが人権を保有する『サイゴン会議におけるAI人権宣言』が出されたんだって!いま(2017年以降)じゃ人間とAIの婚姻を認めるか否かの論議が繰り広げられているんだって!

すっげーな2017年。あと1年か。頑張れAI。目指せサイゴン。というか既にして2016年の現在ではサイゴン市自体ホーチミン市に変わってるし。どこを目指せば良いのかAIの未来。

とはいえ、過去の時点から想像して書かれた架空の小説に対して、変化した後の未来からヤイノヤイノ言うほど野暮な話はありません。予測が外れて文句を言われるのは天気予報と株価予想だけで充分。

でも、私、野暮な人間なんですよ。

だから「アキハバラ@DEEP」の舞台である2002年から、アキハバラとインターネットの世界が、どう変わったのか見てみたい。この小説を『違ったじゃん』と揶揄する意図ではなしにね。

フィクションほどの力をもつ事実は、めったにない。人のもつ不正確さとあいまいさ、それに不安定な感情の力ほど、強力な切り札は存在しないのである。

この小説が何故2002年の話と断定できるのかというと、主人公達の起業した会社“アキハバラアットディープ”のメンバーが、リニューアルされたばかりのアキハバラデパートに買物に行くシーンがあるからです。

アキハバラデパートがリニューアルされたのは2002年のこと。アキハバラデパートも、今ではもう閉店してしまいましたね。店頭に並んでいた実演販売のおじさん達は、どこに消えてしまったんだろう?

卸売市場の跡地を中心に再開発されたことにより、秋葉原駅周辺で多数発生していた飲食難民も駐車難民も殆ど居なくなりました。「アキハバラ@DEEP」では会社近くで食事をする場所を探すにも難儀し、まっとうな食事をするために蔵前のジョナサンにまで歩いていってます。

秋葉原と蔵前って、遠いよ?!オタクの健脚ぶりに驚嘆です。

そもそも、秋葉原という街が、今ではもうパソコンの街ではなくなってきています。裏通りに連なっていたジャンク屋の多くが中国系なんでもアリアリの雑貨店に変わり、俺コンなどのパーツ店も閉店してしまいました。だいたい、今ではパソコンを組み立てる人って居なくなりましたものね。趣味人を除き、パソコンが既に白物家電化していることが良くわかります。

じゃあ、今のアキハバラって何の街よ?と聞かれたら困るなあ。

2002年当時でもあったメイド喫茶やアニメ・ゲーム系ショップはさらに領土を拡大し、ちょっと前にはJKリフレとかのプチ風俗店もよくあった。

AKBも当然外せないな、うん。秋葉原のAKB劇場がオープンしたのが2005年。ドンキの8階。行ったことないけど。

外国人観光客も多し。かつては家電量販店だったLAOXも、今では免税ショップとして爆買のメッカ。秋葉原の大通りを歩くとDUTY FREEの看板が至るところで見られます。

もちろん昔ながらの電材店も、今でも健在。世に電気工作マニアが居る限り、千石電商と秋月電子が閉店することはないのよ。

大きなオフィスビルも出来て、オタク層とビジネスマン層と外国人が行き交うカオスタウンな秋葉原。昔々からずーっと変化し続けていたアキハバラは、多分これから先も、時代に応じて常に変貌していくのでしょう。

だが、世界がどんなふうに壊れても、自分はこの秋葉原という街で生きていくしかないのだろう。人は同時にふたつの場所にいることはできないのだ。時代とテクノロジーの風をいっぱいに受けて、全力で冴えないおたくの人生を生きていくしかない。

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インターネットの世界でも、2002年からは様々な変革がありました。

当時の回線はADSL。Yahoo!BBのモデムを無償で渡して契約させるなんて話も「アキハバラ@DEEP」の中では話題に出ています。もちろん社名は違うけど。

“アキハバラアットディープ”の会社が作ろうとする新しいサーチエンジン“クルーク”は、今では需要はあるのだろうか?Yahoo!のディレクトリ型エンジンも既にして無く、当時は玉石混合だったGoogleの精度も、その後のアルゴリズム変更や、Googleスパムサイトの排斥によって上がっています。

Googleがスパム排斥をする前は、画面の下部分に見えない文字で検索用キーワードがずらーっと並んでいたりしたサイトもあったでしょ?ああいう検索ありきのサイトや、他サイトをコピペしただけのサイトもかなり減りました。

いやホント、Googleの解析能力が私はそら恐ろしいよ私は。あれ本当に機械で見てるの?世界のどっかにIT奴隷の島があって、そこで膨大な数の人足が全世界のウェブサイトと、ユーザーの動作ひとつひとつチェックしてるんじゃないの?

もし「アキハバラ@DEEP」の“クルーク”のように、AIが人格を持つ日がリアルで来るのだとしたら、多分それはGoogleのサーバから産まれ出るのかもね。いや、それも、怖いなあ。

2002年。
まだFacebookもツイッターも、YoutubeもLINEも、そもそもスマートフォンだって無かった時代。

2016年の今になって「アキハバラ@DEEP」を読みかえすと、デジタルとアナログがぐっちゃぐちゃに混ざり合った、混乱して熱かった時代を思い出します。

あと10年、15年たってから、今の2016年を振り返ったら、その時はどう思うんだろうな?
アキハバラについては『AKB劇場なんてところがあったよね~』とか思うかしら。

インターネットは『仮想とかクラウドとか、レガシーな技術しかなかったのね』とか思うのかしら。

15年たって2031年になってから、もう1回「アキハバラ@DEEP」と、「アキハバラ@DEEP」を取り上げたこのブログを読み返して、懐かしい想いに浸りたいものです。しかし果たして2031年に、ブログサービスなるものは存在し得るのか?インターネット・プロトコルは存在するのか?

あと15年後の2031年に、何が起こっているのかは、人工知能AIでも分からない、神さまにしか分からない秘密。

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