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メアリ・H・クラーク「揺りかごが落ちる」

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郡の女性検事補ケイティは、交通事故で入院した晩、病室から異様な光景を見た。一台の車のトランクがあいて白い包みが運び込まれたが、そこから苦悶にゆがんだ女の顔が覗いたのだ。鎮静剤による幻覚か?が、翌朝女は自殺体で発見された。妊娠中だった。続いて病院の受付係、そして産科医の死体が・・・。不妊症の研究治療に熱中する医師に取材した長編ミステリー。
(新潮文庫 内容紹介より)

メアリ・H・クラークの小説は「誰かが見ている」と「子供たちはどこにいる」さえ読んでおけば後はどうでも良い、という説もありますが。
すみませんけどねえ、もう一冊だけ、追加しといて頂けます?
「揺りかごが落ちる」なかなか良いっすよ。

きっと夢のつづきに違いない、ケイティはそう思った。それから、あわてて手に口を押しあて、喉からほとばしりでた悲鳴を押し殺した。目はトランクの中を凝視していた。トランクの明りがともった。こやみなく窓をたたくみぞれまじりの雨のしぶきを通して、その白いものがめくれるのが見えた。トランクがしまりかけたとき、そこにひとつの顔が見てとれた——思い切り死の苦悶にゆがんだ醜怪な女性の顔。

クラークのサスペンスは、犯人が最初から明かされていることが多し。本冊も例外ではありません。
今回の犯人は有名な産婦人科医のエドガー・ハイリー先生。不妊症治療の技術に定評があり、他院でさじを投げられた妊娠困難な女性とご夫婦に、何組も赤ん坊を授けて差し上げています。
 

ハイリー先生がどうして、そんなに女性を妊娠させることができるのか?
それはですね。中絶手術によって堕胎された胎児を、別の女性の子宮に移植する技術を会得したからなのです。
すっごくありませんか、これ?!
 

「揺りかごが落ちる」が日本で発売されたのは1981年。世の中では人工授精による妊娠出産がニュースとして取り上げられている頃で、“試験管ベビー”などと呼ばれていた時代です。
体外受精?AID?代理母?いやいやこっちはそれどころじゃないでっせ奥さん。何たって赤ちゃん丸ごとですからね。遺伝子も免疫も人種の違いも何のそのですからね。
生命倫理とか、自然の摂理にそむくとか、まあ色々と皆様が言わんとするところがわからないじゃありませんけど、純粋に医療技術として、すっごくありませんか、これ?!

いつの日か彼は、生涯をかけた研究を公表することができるだろう。いつの日か、当然受けるべき栄誉を受けることになるだろう。いつの日か、そんな研究は不可能だと言ったばかものどもも、彼の天才を認めざるを得なくなるだろう。

話は転じて主人公のケイティ・ディメイオさん。彼女は群の検事局で検事補として働く若い女性。美しいのは当然っすねクラーク作品ですから。
さらに彼女「めぞん一刻」の響子さんばりの未亡人。12歳年上の男性と結婚したものの「新婚さんいらっしゃい」に出られるくらい短期間の内に夫を癌で亡くしてしまいました。
子供もいない彼女は、現在では仕事に生きる日々。
美貌の若き未亡人…と言ったら、世の男性が放っておく筈ありませんよね?ケイティさんの周りにも、ベッドの片側を温めんと秋波を送る男性の影が。筆頭は検視官のリチャード・キャロル医師。検事局で一緒に働きつつも、ケイティのことが気になって仕方がないリチャード。おい、仕事しろ。
 

さて。運転中に貧血で目眩がして交通事故を起こしてしまったケイティさん。担ぎ込まれた病院で目を覚ました深夜、とんでもないものを目撃してしまいました。
それは、ハイリー先生が死体を車のトランクに押し込めるところ。ハイリー先生ったら、秘密の治療実験が露見しそうになって、口封じに当の患者を殺してしまったんです。
ケイティは薬で朦朧としていたせいもあって、自分は悪夢かまぼろしを見たと思い込んでいますが、ハイリー先生としてはやべー人にやべー物を見つかってしまったのは、何としても消し去らねばならない痛恨のミスでした。
まあ、ハイリー先生は他にもいくつものミスを犯していますので、修復しなければならない傷もポロポロあるんですけどね。もう先生ったら。不妊治療の手腕は優秀でも、殺人の手腕は素人なんだからあ。
 

しかしピンチはチャンス。レッツリカバリー。ハイリー先生頑張ります。
最初の患者を殺した後は、彼女の靴を片方持っていた受付嬢を殺し、不審を抱いた他の産科医も殺し。
結構ね、雑にバッタバッタと殺していきますよ今回のクラークさんは。

ハイリー先生への追い風としては、浮気していた患者の夫に警察の嫌疑がかかったり、病院の勤務医フクヒト先生(日本人。漢字不明)が前職で患者にワイセツ行為をして逮捕された過去が問題になったりと、とりあえずは自身への疑いはかけられていない模様。
この内に目撃者であるケイティを始末して、問題を全て排除しておこうとレッツリカバリー!を目論見ます。
 

はい!ここでハイリー先生の得意分野が登場!
ケイティは長年婦人科疾患による不正出血に悩まされておりまして、その治療と偽って先生は彼女にヘパリンを投与しました。
へパリンには血液の凝固を遅らせる成分がある。ってことは?不正出血が続くケイティさんは、どんどん体内の血が失われていってしまいます。
そして、最終的には出血多量で『残念ながら…』と遺族に宣告をいたそうと。
青酸カリよりも突き飛ばしよりも、楽な仕事ですよ。プロですから☆
 

とは言ってもね、まあ、皆様ご想像の通りクラーク・サスペンスですから。
最終的には真犯人が判明して、ギリギリのところで主人公が助けられ、イケメンと愛情を確かめ合ってラブラブハッピーエンド、が常ではあります。
だからこの本も同様。ケイティとリチャード、幸せにな、あばよ!ってなもんです。
 

それよりも私が気になって仕方のないことは、どうしてアメリカの小説って、寡婦(または寡夫)に対して周囲の人がこぞって再婚を勧めたがるんでしょうね?
よくある台詞が「デートする相手を見つけなさい」どうして?どうしてそんなにデートがしたい?させたいの?
男女ペア、カップルでの行動がデフォルトのアメリカならではなのでしょうか。対象者が年配の場合には子供たちまでが「デートする相手を…」とせっついてくる。いやあ、これ、困るなあ。
私がもし再び独身(離別・死別問わず)に戻っても、もう一回恋愛だ結婚だを繰り返すのは嫌だわ。正直、メンドい…。
 

おひとりさまが許される日本人で良かったと、日本礼賛の心をクラークにて知る和風総本家。ニッポンっていいなあ。

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