半年前、凄惨な四重殺人の起きた九州の孤島に、大学ミステリ研究会の七人が訪れる。島に建つ奇妙な建物「十角館」で彼らを待ち受けていた、恐るべき連続殺人の罠。生き残るのは誰か?犯人は誰なのか?鮮烈なトリックとどんでん返しで推理ファンを唸らせた新鋭のデビュー作品。
(「BOOK」データベースより)
昨年2017年は「十角館の殺人」が発売されてから30周年だそうです。
で、メモリアルイヤーを記念して講談社から「十角館の殺人 限定愛蔵版」が刊行されたそうな。豪華函入。特別付録は豪華執筆陣が綴る「私の『十角館』」ラインナップかなり豪華。
大変人気が高かったようで、ちょっと前にAmazonで確認したら、プレミアついて定価の倍ちかくまで価格上昇してました。
世の中のせどりさん達が暗躍しているに違いない……!と思いましたが、2018年4月現在は定価に戻っている模様。せどりさんも一服したのかな?
さて「十角館」。言わずと知れた綾辻行人のデビュー作ですね。
読んだよー!発売当初に読んだ!なんたって無駄に年食ってないから!(いや、無駄)
『館シリーズ』→『囁きシリーズ』→『殺人鬼』あたりが、さくらさんがミッチリと綾辻ミステリを読み込んでいた時代です。『Another』はちょっと肌身に合わなくて、最近はご無沙汰いたしておりました。
(意味がわかんない人はすんません。著書一覧でもググってください)
そして最近、高校生の我が娘の友人が、綾辻行人にハマっているという情報を得まして。
自分の娘と同い年のコがとうとう綾辻行人を読むように!ボクの青春が娘の世代に!
『ナニなに?!やっぱり館?!それともAnother好み?!綾辻行人好きだったら島田荘司も好き?!有栖川有栖とか読む?!我孫子武丸もオススメよ!』
と、顔も知らぬ娘の友人に熱く語る(娘を介して)母。
私の読書傾向と娘の読書傾向は若干ズレているので、久方ぶりに出遭う(出遭ってないけど)同好の士に鼻息が荒くなる私。
娘曰く「圧が、スゴい」
「“孤島の連続殺人”ね。ふん、いいじゃないか」
エラリイはいっこうに悪びれる様子もなく云い放った。
「望むところさ。僕が探偵役を引き受けてやるよ。どうだい?誰かこの私、エラリイ・クイーンに挑戦するものはいないかな」
舞台は大分県のとある無人島。
一週間のサークル合宿で、孤島に渡った大学のミステリ研究部員7名。
宿泊する建物は、かつて殺人事件のあった曰く付きのお屋敷、十角館。
その名の通り十角形の建物で、部屋の間取りも建物形状に合わせた奇妙な構造。調度品も食器類も、オーダーメイドで作られたであろう十角形のものばかり。
少々偏執的な舞台立てに、登場人物たちはお互いを“ポゥ”“エラリイ”“カー”と、著名ミステリ作家の氏名で呼び合う多少偏執的なキャラクターたち。
こーれーは、何が起こってもおかしかないよね?というか、何か起こってくれなくちゃ、おかしいよね?
読者の期待は裏切られることはありません。
過去の彼等の過ちを弾劾する手紙。かつ、各部屋の扉にいつのまにか掛けられたプレート「第一の被害者」「第二の被害者」…「探偵」そして「殺人犯人」
そう、まさにこれはアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』の世界。
一人一人、順番に殺していかねばならない。ちょうどそう、英国のあの、高名な女流作家が構築したプロットのように——じわじわと一人ずつ。そうやって彼らに思い知らせてやるのだ。死というものの苦しみを、悲しみを、痛みを、恐怖を。
新・本・格。
否応なしに、読者の鼻息も荒くなるってもんです。
この話の舞台はもうひとつ。ミステリ研究会の元部員、江南(かわみなみ)くんと守須(もりす)くん、そして館シリーズの探偵役の重責を担った島田潔さん。「時計館の殺人」でも出てましたよね?本作が“綾辻マジリスペクト島田”のデビューですよ。
江南くん、という字面で「コナンくん」と読み換えたあなた、君はある意味正しい。コナンと言ってもこの場合は、見た目はコドモ頭脳はオトナ、の彼ではなく、御大アーサー・コナン・ドイル先生の方です。
じゃあ守須くんは誰なのかっていうと…もう面倒だから、海外有名ミステリ作家一覧でも見てみてくださいな。
ともあれ、元部員の彼らの手にも件の告発状が郵送され、彼らは彼らで手紙の謎を探るべく調査を開始します。
島で起きている出来事など知る由もなく。
「青司はきっと、今夜もやって来る」
ホールに戻るとエラリイは云った。
「秘密の通路も見つかった。あの通路か、それとも玄関か、どっちから来たとしても、二人で一緒にいれば恐れることはないさ。あわよくば、逆に奴を捕まえてやろうじゃないか」
—(中略)—
彼は微塵も疑いを抱くことなく、すぐにそれを飲み干してしまった。
「——ちょっとだけ、うたた寝をさせてもらうお。大丈夫、何かあったら叩き起こしてくれ」
名探偵退場の台詞だった。
いやあ、30年経っても、やっぱり面白いなあ。
私が読んだ1987年。娘の友人世代が読む2017年。「あの一行」は、いつ読んでも、何度読んでも、やっぱりゾクゾクする。
圧がスゴいと言われても、そりゃあ気持ちは前のめり。読んだ人なら、わかるでしょ?