前戯からはじまる伏線、絶頂でひらめく名推理。エロスとロジックが火花を散らす六編。
(「BOOK」データベースより)
石持浅海くん、頑張りました!
ポルノ小説、書ききりましたーっ!
もし私が小学校の先生だったとしたら、この短編集「相互確証破壊」について先生は『よくがんばりました』の花型ハンコを押してあげたい。
元々この本に収録されている6つの短編は、オール讀物の連載時に雑誌編集者から『官能ミステリを書いて欲しい』という注文を受けて執筆されたそうです。
編集意図にきっちり応じて、各短編とも2回もしくは3回の性交シーンを入れて、ねっちりこってりずっぽりとエロ描写に気合を込めるTHE・プロフェッショナル。
アマゾンのレビューなどでは、セックスがワンパターンでつまらない、と言う感想もちらほらお見受け致しますが、月一回の連載短編という経緯を考えれば、それも毎週月曜夜8時の水戸黄門的パターンの様式美と考えることもできるでしょう。いや、確かにワンパターンなのは否めないけど。
但し、これをミステリという観点からすれば、押すべきハンコは『もうすこしがんばりましょう』
「相互確証破壊」の各短編は、どれも女性が性交中にふと感じた違和感を“謎”とするミステリです。
謎の種類はおっきいのからちっちゃいのまで。ゴルゴ13みたいなスナイパーに、性交中の相手の頭を吹っ飛ばされる短編まであります。いや、それ、やだなあ。素っ裸だから洗えるけどさあ。
とはいえ「官能ミステリ」の“官能”と“ミステリ”のバランスは、官能8割・ミステリ2割くらいの比重です。
石持ファンがいつもの調子で読み始めると、たいそうがっかりするかも。
そこで、これから「相互確証破壊」を読もうという石持ファンに、予めお教えしておきましょう。
この本は“推理小説”です。
但し、推理するのは、石持浅海の性的嗜好について。
よく役者さんが映画などの濡れ場を演じるとき、その役者自身の性的嗜好が露呈する場合が時としてあると言われています。極端な性癖というより、セックスのご作法ね。
小説の場合も同じようで。
「相互確証破壊」でお腹いっぱいエロ描写を読ませられながら、私はつくづく思いました。
『石持浅海は断然、洋モノ派だな』と。
「ひゃうっ!」
…えーと、女性のああいう時のお声で「ひゃう」ってアリでしょうか。
石持さん「ひゃう」大好きで、6篇の小説で合計9回ひゃうひゃう言わせています。派生系の「きゃうっ!」も含めたら12回。
「ひゃう」以外でも、なべてここに登場するカップルさんたちは男女ともにお声が高い。
あえぎ声とか、よがり声というよりも、全日本プロレスとかスプラッタ映画の悲鳴を聞いているようだ。
論より証拠、まとめてドカンと見てみてよ。そりゃもう大騒ぎさ。
「ひゅっ!」「あうっ!」「くううっ!」「うおおっ!」「うああっ!」「おうっ!」「くうううううううううっ!」「うっ!あっ!」「むううっ!」「ひいいいいっ!」「くうっ!くうっ!」「おおうっ!」「うおうっ!」「んあっ!んああっ!」「ひっ!ひいっ!」「くわっ!」「くいいいいっ!」「あひっ!あひっ!」「うぐっ」
……うるっせーなー…。
先ほどはプロレス試合とかスプラッタ映画と形容しましたが、今になって気がつきました。こりゃ絶叫マシン並の五月蝿さです。
しかし実際にピックアップして入力してみると、こりゃ何じゃっていう台詞も多々あって面白いもんですね。
「うっ!あっ!」はジンギスカンの歌(ジン、ジン、ジンギスカーン♪)を彷彿としますし、「くいいいいっ!」は人声というより怪鳥の雄たけびみたい。
ちょっと心配なのは「うぐっ」と言った男が心臓発作でそのうち死ぬんじゃないかという恐れ。
アダルトビデオなど鑑賞しますと、和モノと洋モノではAV女優さんの演技に大きな違いがありますよね。
端的に言えば洋モノのAV女優、いちいち五月蝿くってさあ。オーウオーウとそんなに大騒ぎしなくていーよ、と思わないでもない。
で、石持浅海。彼はきっと、AV女優がそりゃもう大騒ぎの洋モノビデオの方がお好みに違いないと推理する訳なのです。
小説を書いて、自身の性的嗜好が露呈する事態。
身を切る辛さに耐えて『よくがんばりました』さくら先生が大きな花型ハンコを押してあげよう。