デザイン事務所に勤めるインテリア・デザイナー、美有のもとに、思いがけない大きな仕事が舞い込む。イタリア製のスポーツカーに乗って現れたのは、憧れの建築家、野木路子。インテリジェント・ビルのインテリアをすべてまかすという依頼だった。仕事を始めるとなぜか作業の妨害が出始める。野木の工事の依頼主の後ろには、何か隠されているのでは、と美有は感じる。
(「BOOK」データベースより)
北方謙三といえばハードボイルド。
北方謙三といえばハードボイルド。ハードボイルド。ハードボイルドなんです。
いやぁね誰?北方謙三が中国歴史小説の作家だなんて言っている人は。ちーがーうーの。北方謙三はハードボイルドの人なの!
全くもう、北方謙三も浅田次郎も、エンタテイメント系抜け出てみんな中国に旅立っちゃうから困るよ。さくらは中国モノ時代小説が苦手分野なんだよう。
はなはだ個人的に困っちゃいます。お願いよ皆、現代日本へカムバックサーモン!
鎧を着るようなものだわ。そう思った。女の化粧には、多分そういう意味もあるはずだった。鎧を着て、男と闘う。あるいは、別のものと闘う。
部屋を出た。
外の空気が、一瞬怖いような気がした。それを、私の化粧が撥ね返した。
「雨は心だけ濡らす」は、北方謙三唯一?の、女性を主人公としたハードボイルド小説です。
出版年は1988年。
今になって読み返すと、バブリーですねえ!出てくる小道具に時代を感じますねえ。
主人公の美有が吸っている煙草がマルボロ・メンソール。過去の男とのつながりを象徴する形で出てきます。
ああ、この時にはまだ、マルボロのメンソールは日本で発売されていなかったからねえ。今じゃマルボロのメンソールと聞いても特別な印象がないわねえ。
だいたい、登場人物の殆どがのべつ幕なしに煙草を吸っている。嫌煙権とか、副流煙とか、分煙とか欠片も出てこないねえ。
有名建築家の女性が着ているスーツはジャンフランコ・フェレ。中にブラウスは着用せずに素肌に着るスーツ。生地のダメージとかクリーニング代とか庶民的な感想は抱いちゃ駄目。
敵と味方問わず、皆さんが乗っている車といえば、メルセデス560SEC(ベンツは不可よ!あくまでもメルセデス)、ポルシェ911ターボ、フェラーリ、ルノー5ターボ2、トヨタMR2、そしてマセラッティ・ビトルボ・スパイダー。
車がステイタスだった時代だものねえ。ジャン・レノえもんが免許取得をすすめる現代じゃ、車種名を羅列しても単なる文字数稼ぎみたいなもんよねえ。
出版後およそ30年を経て、取り巻く世情は変わりましたが。
変わらないものは、「雨は心だけ濡らす」に出てくる女達の格好良さ。
インテリア・デザイナーのタマゴである美有と、有名女流建築家の路子。
立場も年齢も、求めるものも互いに違いますが、とあるビルの建築をめぐって共闘するようになります。
いやもう、その闘いっぷりは侍のごとし。
自分の大切なもの、例えばプライドとか。ただひとつを守るために、それ以外をばっさりと切り捨てるすがすがしさときたら。イザという時に肝の据わったオンナほど怖いもんはない。
これを「男前」と呼ぶのは悔しいなあ。「女前」?でもやっぱり男前なんですよ。美有も、路子も。
頑張ってみたり、でもヘコんでみたり、迷ったり。
男と一緒!ってツッパるんじゃなくって、女には女の闘いかたがあるとする彼女等の姿は、正に固ゆでのハードボイルド。
バブルじゃなくても、時代は変わっても、女には女の鎧があるのよ。
女には女の刃があるように。
ああ、話変わりますけどね。
昔、さくらが婦人服メーカーに勤めていた時代のことです。
とある日に、会社が出店している某デパートに販売応援に行きまして。
デパートの同じフロア、我が店の売り場のすぐ近くに、ジャンフランコ・フェレの売り場があったんですよ。
私の上司が休憩中に、フェレのウィンドウをまじまじと見つめて。
「さくらさん、フェレで出してるディスプレイのスーツ、3点で70万円だったわ。
ウチの服が安く感じられるわね・・・よし、売るわよ」
女には女の鎧があり、女には女の刃がある。
肝の据わったオンナほど怖いもんはないね、ほんと。狩人の目をした上司を見てそう思ったさくらでした。