8人の子供と母親からなる家族へかかってきた1本の脅迫電話。「子供の命は預かった、3千万円を用意しろ」だが、家には子供全員が揃っていた!?生涯最後の短篇小説にして、なお誘拐ミステリーの新境地を開く表題作など全8篇。
(「BOOK」データベースより)
連城三紀彦、最後の短編集です。
そして表題作「小さな異邦人」が雑誌で発表されたのは2009年。この年に作者 連城三紀彦氏の身体に胃ガンがみつかり、そのまま闘病生活の後死去されましたので、ホントのホントにこれが最後の作品となります。
記念碑的な意味合いで紹介するんじゃないよ。作者の状況等々をすっとばして読んでも、これはなかなかに良く練られた、なかなかに衝撃的なミステリ短編です。
少なくとも、極私的なさくらの立ち位置として、なかなかに衝撃的な。
同世代の娘を持つ母としては、こ、困るなあ。
表題作「小さな異邦人」の主人公は14歳の女子中学生、一代(かずよ)。
彼女のおウチは兄弟8人の大家族。
ビッグダディよろしく、TVの特番で登場するような『シングルマザー奮闘!大家族9人、貧乏にだって負けないぞスペシャル!』なご家庭の長女です。
お父さんが事故で亡くなられた後、スーパーのレジ打ちと水商売のダブルワークで昼夜働くお母さんの代わりに小さい子の面倒を見つつ、中学部活顧問の広木先生の個人的サポートを受けてピアニストを目指す健気な少女。
しかしああいう大家族スペシャル番組に登場するご家庭って、何のメリットでプライバシーを切り売りするんでしょうかね?そんなに出演料が良いの?それともTVってそんなに出たいものなの?
狭い長屋でミチミチと、騒がしくも楽しい日常生活を送っていた一代の家に、ある日かかってきた一本の電話。
『子供の命は俺が預かってる』
電話を受けたお母さんが家の中を見渡してみても、狭い家屋には子供8人、全員の顔がある。
間違い電話?イタズラ電話?そもそも、誘拐された“子供”って誰のこと?
一代の身の上には、訳のわからない脅迫電話よりも、もっと気がかりなことがありました。
最近おこる目眩と体調不良により受診した病院で、脳に腫瘍があると告知されたのです。
母親にも打ち明けられず、お世話になっている広木先生に相談するも、中学生の一代にはその後どうしたら良いかもわからず。
しかし中二病まっさかりの一代としたら、これが想いを寄せる広木先生との親密さを増すきっかけになるのじゃないかと、目をハートマーク😍にして心中盛り上がっています。
病気と誘拐事件のダブルアタックで、自分の人生がドラマチックに変貌することを夢見る乙女14歳。
おいおい、脳腫瘍を告知された人間の反応としては、ずいぶんとお気楽じゃないかい?とお思いのあなた。そうだよねえ、その気持ちは重々わかるよボクも。まあ、もちょっと読み進めようぜ。
そう、そして本当ならこれは、その母さんの言葉どおり、ただのいたずらとして何も起こらないまま、終わってしまう事件だった……何一つ真相を知らないまま、私もふくめて柳沢家の子供たちはみんな夏休みの始まるころには『ただのいたずら』として忘れてしまい、何事もなかったように大家族の超ヤッカイな超ウットウしい、でもどこかケッコウ楽しかったりするいつもの生活にもどり、何ヵ月後かに誰かが『結局あの一方通行の誘拐犯は何だったわけ』と思い出し『ほんと、バカみたいだったよね、あれ』とみんなで笑い飛ばしていただろう。本当に私は何も気づかないまま、その事件を通り過ぎてしまっただろう……もし、翌日またかかってきた自称誘拐犯の電話に、母さんが
「はい、三千万ちゃんと用意しました」
と嘘を答えたりしなければ。
繰り返される脅迫電話で、単なるイタズラ電話ではすまされない様相を呈してきた謎の誘拐事件。
子供たちはそれぞれ「誘拐されてるのはオレじゃないかな」と言い始めます。
家族に隠していた、学校で起こった事件などが告白されたり、そもそも学校たるもの自体が子供たちをナンキンしている場ではないかと言い出したり。
犯人探しの推理合戦では、なんと一代が犯人なのではないかという説まで飛び出して。
一代は一代の方で、別の兄弟に疑惑の目を向けてもいました。
楽しい推理合戦にも加わらず、ひとりゲームに没頭し、けれど何かを知っている気配のする、弟の晴男。
晴男は、何かに気付いてる。
……で。
で、ですね。
「小さな異邦人」はミステリですので、主題となる謎が存在します。
ここで解明すべき謎は以下のとおり。
1⃣誘拐されたのはいったい誰なのか
2⃣脅迫されているのはいったい誰なのか
このふたつの謎を解明すると、
3⃣小さな異邦人とは誰なのか
の謎も解明されるという訳です。
ごめんね、一番大事なこと、最後まで隠してて…というか、遠まわしにしか言えなくて。
1⃣2⃣3⃣の謎が明かされると「えええぇーーーーーっ?!」って気持ちになること請け合い。
「どういうこっちゃーーーーーっ?!」とも。
これからお読みになる方は、アゴが外れないように要注意。
そしてその時に、最初にさくらが言った「同世代の娘を持つ母としては…」の意味もお分かり頂けると思います。
い、イマドキの14歳って…14歳って…こ、困るなあ。