成富歩夏が両親を亡くして十年、後見人だった二十も年上の奥津悠斗と婚約した。高校時代から関係を迫られていたらしい。歩夏に想いを寄せる三原一輝は、奥津を殺して彼女を救い出すことを決意。三原は自らの意思を、奥津の友人で弁護士の芳野友晴に明かす。犯行の舞台は皆で行くキャンプ場。毒草、崖、焚き火、暗闇……三原は周到な罠を仕掛けていく。しかし完璧に見えた彼の計画は、ゲストとして参加した碓氷優佳によって狂い始める。見届け人を依頼された芳野の前で、二人の戦いが繰り広げられる――。
(祥伝社「君が護りたい人は」巻末内容紹介より)
「扉は閉ざされたまま」から続く優佳ちゃんシリーズは、私と娘のお気に入り。
しかし、最新作「君が護りたい人は」の感想を当ブログに載せようとして、前作「賛美せよ、と成功は言った」を載せていないことに気がつきました。
前作についてはいつか感想を書くかもしれませんが…私的にはあまり好みではなかったので、書かない可能性の方が濃厚。ご承知あれ。
さて、優佳ちゃんファンの皆様にお知らせでーす!この「君が護りたい人は」において、碓氷優佳ちゃんがご結婚されていることが判明しましたー!おめでとう優佳ちゃん!パチパチパチ。
本の中では結婚後の姓は明らかにされてはおりませんが…おそらく100%、戸籍上のご氏名は伏見優佳さんでしょうね…あの「扉は閉ざされたまま」の犯人役である、あの伏見さん。
色々な意味を込めて、伏見さんには幸多かれと祈らざるを得ません。
さてさて。優佳ちゃんシリーズの「君の望む死に方」では、語り手は“殺される側(希望)”でした。
今回の「君が護りたい人は」では“殺しを見届ける側”が語り手となっています。
事前に犯人役から殺害の意向を聞かされ、達成を見届ける係。殺害計画を打ち明けられたときに強硬に反対しないのは、倫理観の薄い石持作品の登場人物の仕様です。
しかし前作でも今作でも、犯人が目的を達せられない(少なくとも読了までは)のはいつものとおり。
だっていつものごとく、殺人のお邪魔虫である優佳ちゃんがいらっしゃるんですからね。
仲間たちの楽しい集まりに、一人だけ殺意を抱いた人間が紛れ込んでいる。そのことを知っている人物がいたとしたら、どのような気持ちになるのでしょうか。彼は犯人について考え、犯人の殺害計画について考えているうちに、犯人以上に犯人になりきってしまうかもしれません。本書では、そんな限りなく犯人に近い無実の人間を描いてみました。碓氷優佳、第五の事件です。
(著者の言葉)より
「君の望む死に方」でもそうですが、語り手は犯人自身ではないので、犯人が何を利用して、どのように犯行を行うつもりなのかがわかりません。
いつがチャンス?
どこでやるの?
何を使うの?どうするの?
語り手が想像する犯行は、ほぼ100%の率で実行されようとします。そして、あらかじめそれを見越している優佳ちゃんが邪魔をするのもいつものごとし。
…これ考えてみれば、バレバレの作戦ってことなんじゃないでしょうか。
「君の望む死に方」に比べて犯人役の三原一輝くんの犯行は実行しようとする回数も少なく、それぞれの計画もちょっとショボげ。かなり偶然に頼る要素も大きく完璧な計画とは言い難い。なんでしょうこの無計画さは若さゆえなのでしょうか。
「三原さんは、自分が逮捕されない完璧な計画を立てて、実行に移した。そのとおりだと思います。逆に言えば、完璧な計画だからこそ、読めたわけです。–(中略)–変な言い方ですけど、今回に限っていえば、完璧でない方が成功しやすかったんです」
優佳ちゃん、それは、犯人を買いかぶりすぎだと思うわ!
ミステリーとしてはさほどハラハラドキドキワクワクしない「君が護りたい人は」ではありますが、極私的にはもっとハラハラしちゃうのが武田小春さんです。
武田小春さんは今回の登場人物の一人。前作「賛美せよ、と成功は言った」で優佳ちゃんと15年ぶりに再会した、高校時代の友人。
「わたしたちが少女と呼ばれていた頃」では旧姓の上杉小春名で、語り手として登場しています。
この小春ちゃん。高校卒業の時には優佳ちゃんに対してあんな感情を抱き(過去記事をご覧ください)その後再会した時にはあんな事件が起こった(「賛美せよ、と成功は言った」をお読みください)にも関わらず、今でも交流を続け、泊まりがけのキャンプにすら誘っているのだから、小春の精神は結構豪胆であることが伺えます。
小春…優佳と一緒に行動しちゃだめだ…。
あいつはマジサイコパスだ…お前も知ってるだろう?
ましてや彼女を旅行に誘ったりしちゃだめだ…碓井優佳が旅行に行ったら殺人が起きるのは、お前も知ってるだろう?
伏見さんと同じく、小春にも幸多かれと祈らざるを得ません。
だって今後とも彼女から逃れられない運命なのは、ほぼ100%確実だから。