2度目の国際結婚に終止符を打ち、コートダジュールのリゾート・ホテル〈花ホテル〉の経営に人生の再出発を賭ける美貌の女主人、朝比奈杏子。彼女に秘かに想いを寄せる敏腕マネージャーの佐々木三樹。次々とホテルを訪れ優雅な休暇を愉しむ客達の背後には、複雑に絡み合う人間模様があった―。光溢れる南仏の海岸に、華麗で危険なドラマが展開する、連作ミステリアス・ロマン。
(「BOOK」データベースより)
「平岩弓枝ドラマシリーズ」とか「御宿かわせみ」とかで、時代物とか人情話のイメージが強い平岩弓枝ですが、実は海外を舞台にした作品も出しています。てーか、「平岩弓枝ドラマシリーズ」自体、最近じゃ知る人も少ないのでしょうか。
この「花ホテル」は、単行本の発刊が昭和58年。なんとディズニーランド開園の年、初代ファミコンが発売開始された年よ。
ドラえもんのスネオが夏休みに海外に行って「すっげー!」と言われる当時は、近隣アジアはともかくヨーロッパなどの海外旅行はまだ特別な旅行でした。
そんな中、遠いおフランスのコート・ダジュールを舞台にした「花ホテル」は、一般庶民の奥様方の胸をきゅんきゅん言わせたことは想像に難くありません。
ましてや、南仏の瀟洒な高級リゾートホテルのオーナーは、まだ離婚率の低かった時代なのにバツ2の若き女主人。
(正確には、1回目のフランス夫は死別、2回目のイタリア夫は離婚)
そして日本から来たホテルのマネージャーは、商社あがりのスタイリッシュな敏腕ビジネスマン。
本を読みながらコート・ダジュールの風を感じて、お茶の間が一時期だけ、シャンパンを傾けるホテルのバルコニーに早変わり。
平成の今よりも、もっともっと本の世界に旅をするのが、ドキドキする体験だったに違いありません。
「オテル・ド・フルールよ」
明るい声で杏子が答えた。立ち上がって庭のほうへ歩いて行く。
「花ホテルです、いいでしょう」
コートダジュールは花の町々であった。そうして、美しい海を背景にして、午後の陽ざしの中に立っている女主人は、そのまま、花であった。
別れたイタリア人の夫からもらった慰謝料を元手にはじめた「花ホテル」には、フランス国内外から様々なお客様が到来されます。
オープニングセレモニーにはモナコ・グレースも出席しちゃう。きゃーセレブリティ。
とはいえ、小説に登場するお客様は、いずれも日本からの旅行客。そうしないと読者が置いてけぼりにあっちゃうからね。
この時代にヨーロッパまで、パックツアーでもなくフリーで旅行する顧客は、いずれも富裕層揃い。でもその分、ひとくせもふたくせもありそう…。
我が家にある新潮文庫の「花ホテル」は、平成6年の第22刷版で、折に触れ再読をよくしている本なのですが。
このブログを書くにあたり、改めて内容をよく見ると、海外を舞台にしてはいながらも“古い日本の常識”を強く感じます。
花ホテルで起こる事件の多くは、男女のトラブルが主でして、その中のひとつは日本からのハネムーン客が起こしたトラブル。
新婚旅行の“初夜”で、花嫁が処女でなかったことに腹をたてた新郎が『離婚だ離婚!』と騒ぎ立てる。
えーえーえー、困るー。
イマドキ婚前交渉(なんて言い方も困っちゃいますね)が無いってのもどうかと思いますし、なおかつ女性の性体験の有無が取り沙汰されるのは、昭和にしたってあまりにもコンサバーティブにすぎませんこと?
「でも、男の人って本質的にそうなんじゃありません。自分は適当に後くされのない女と遊んでおいて、いざ、結婚となると汚れのない処女がいいって…それが、男の本音よ」
皮肉な視線を感じで佐々木が顔を上げると、杏子はつんとして背を向けた。
これが昭和の時代ならではの、古い考えなのか。
もしくは昭和7年生まれの作者平岩弓枝だけの、古い男性観なのか。
それとも、21世紀の今現在においても、男の本音って、実は変わっていないものなのか。
アメリカでもヨーロッパでも、行こうと思えば気軽に行けるようになった昨今。飛行機に乗って高く飛び立つように、世の認識って高く飛躍したかしら?
平成の男性諸君、いまの本音はいかがですかね?