ある日リラは、帰宅したれい子から「手伝って」と言われ車に乗せられる。
なんと車内には見知らぬ男の死体があった!
リラは驚き拒否するが、結局母に逆らえず、一緒にその死体を山奥に埋める。
それが悲劇の始まりになるとも知らずに――。
母と子、愛と憎しみ。感情が絡み合う、驚愕のラストが待つサスペンス!
(KADOKAWA「母と死体を埋めに行く」内容紹介より)
大石圭は、タイトルの付け方がいつも秀逸ですね。
今回の「母と死体を埋めに行く」も然り。
いやこのタイトル良かないですか?グッとそそられませんか?
大石圭は他の作品でも、過去にご紹介した「死人を恋う」やら「女奴隷は夢を見ない」やら、グッと心惹かれるタイトルを編み出しています。
当サイトでご紹介はしていないものの「湘南人肉医」とか「アンダー・ユア・ベッド」も、良いよねぇ。特に「湘南人肉医」素敵。湘南だよ。湘南で人肉で医師だよ。
いずれもタイトルを見たら中身を読まずにはいられない…読まずにいられない人間が世の中にどれくらいいるかってのは考えないことにする。
「誰なの?どうして死んでいるの?殺されたの?」
もう生きていないという男の顔を見つめて、リラは立て続けに訊いた。ふと見ると、後部座席のシートの下に真新しい二本のスコップが置かれていた。
「ふたりで埋めに行くから、車に乗りなさい」
リラの質問には答えず、厳しい口調で母が命じた。
「いや……行きたくない……行きたくない……」
顔を小さく左右に振り動かし、リラは小声で繰り返した。今ではその声までが震えていた。いつの間にか、口の中はカラカラだった。
「車に乗りなさい、リラ。言われた通りにしなさい。これは命令よ」
さてさて。秀逸なタイトルの「母と死体を埋めに行く」ですが、この小説は母と死体を埋めに行くのが主体の話ではありません。
実際に埋めに行くシーンもあるんだけどね。だけどそれは話全体の中の塩小さじ1杯ほどのエピソードでしかないのです。
つまりあれですね。レ・ミゼラブルで銀の燭台の話が道徳の教科書に取り上げられて、世の小学生たちが「ふーんレミゼって銀の燭台の話なんだぁ」と勘違いさせられているのと同じ。
それに関しては、私は文部科学省に対して強い憤りを感じています。詳しくは以下の記事をお読みください。
話を戻しまして。じゃあ「母と死体を埋めに行く」では母と死体を埋めに行く以外に一体何をやっているのかと言うと。
…いろいろやってます。
ヒトサマには言えないニッチな願望をお持ちの諸氏を満足させるべく、大石圭がサービス精神旺盛にいろいろ詰め込んでます。
特に今回はall願望を網羅しようとしたのか、これまでにないほど種々さまざまな内容で願望充足てんこ盛りの福袋よ。
母と娘のゆがんだ関係、愛人契約、腹上死、サディズム、代理殺人、レズビアン、近親相姦、輪姦、エトセトラエトセトラ。
この本を一冊読めば、貴方も密かな願望を満たせるはず。多分。きっと。
「嘘じゃないわ。あの人はリラの父親なの」
真っすぐにリラを見つめて母が言った。
今度はリラが顔を左右に振り動かした。思い出したいわけではないのに、屈辱的な格好をさせられて立花から陵辱されていた時の事が脳裏に次々と蘇った。
そして、リラは思い出した。立花涼介と暮らしている時にあの家で、鏡に映った自分の顔を見て、あの男に似ていると感じたことが何度か会ったこと、を。
「あの人は……わたしが自分の娘だと……知っていたの?」
ただですねぇ。いろいろな願望に配慮したもんだから、内容も詰め込みすぎて大忙しです。
一通り毒親と従属する娘の関係を書いたらさっさと死体を始末して、その後は母親が娘に愛人契約をさせてついでにその愛人を殺せと指図し、その愛人が腹上死した後は再び別の愛人を紹介して殺人を指示。あっ、こう書くとまるで「後妻業の女」チックですね。母が殺人を指示する理由は、別に財産目当てじゃありません。
2番目の愛人が死んだ後もまぁいろいろありまして、話は一転二転三転くらい致します。
そのため結構無理やりな流れも多く、読みながら「何故そうなる!?」「どこからそうなった!?」と突っ込みたくなるところ多し。
でも、いいんです。大石圭ですから。
大石圭読者が求めているのは整合性ではなく欲望の処理です。
少しぐらいの「何故…」は、特殊性癖のファンタジーだと思えばそれもアリなんです。
ついでに白雪姫と継母(リラママは継母じゃありませんけどね)のお話と、白雪姫の成長譚としてのお話も含まれております。
従属するだけの存在だったリラちゃん、最後の最後に華々しく転身よ。
著者の大石圭さんも主人公のリラちゃんがとってもお気に召した様子ですので、これは再びシリーズ第2弾が厳しされるのかもしれないという予感がひしひし。
みなさま、どうぞ、若月リラをよろしくお願いいたします。
(「母と死体を埋めに行く」あとがきより)
はい、承りました。
楽しみに待ってます。